4.これはセクハラでは?
「ちゅかれた」
目覚めてすぐに始まる、もはや儀式と化した頬ずりとハグの攻防。
幼児化してしまった私は、移動するときはウォレンかシリウスに抱っこされるか、二人とお手々をつないで、短い足でよちよち歩く毎日を送っている。
身長差がひどすぎて、お手々をつなぐと二人が可哀想だから「手を離せ」とわめくのだが、そうすると決まって抱っこされる。
なんでだ?
二人が私から離れられないのは、ある意味「目が離せない」お年頃だからだ。
中身は大人でも、身体が推定三歳児に戻ったせいで、感情を理性で押さえきれなくなることもしばしば。
気になるものを見つければ、考えるより先に突っ走る。
小さな身体にまだ慣れていないせいで、足がもつれて転ぶ。
転ぶ。
そして――転ぶ。
とにかく、よく転ぶ。
おそらく一般の三歳児より転んでる。
どんくさいわけじゃないのよ!
足は小さい。
頭は重い。
なのに、動くときの感覚だけは三十九歳の大人のまま。
心と体が一致していないだけなの、たぶん‥‥‥。
そりゃあ、ウォレンとシリウスも心配になるだろう。
この世界に来て一週間も経たないうちに、私が動こうとするたび、どちらかに捕獲されるようになった。「自分で歩く!」と抗議しても、「危ないから駄目」と、あっさり抱き上げられる。
私としては、ずっと抱っこされていたら足腰が弱るからやめてほしい。
なのに、こいつらときたら、これ幸いとばかりに抱っこする。
こいつら絶対、楽しんでいる。
そして、もう一つ問題がある。
舌がまだ幼児仕様なのだ。
つまり、滑舌がよろしくない。
ウォレンは、あだ名が「レンレン」なので問題ない。
問題はシリウスだ。
「チリウチュ」、「シリウチュ」
どう頑張っても「シリウス」と言えない。
早く普通にしゃべれるようになりたい。
切実に!
なのに、やつらはカミカミな私に名前を呼ばれると――。
「ルコが僕のことを呼んだ」
「ルコさんに呼ばれた」
二人そろって、しばらく表情が脂下がったままになる。
そして、そのまま上機嫌で宮殿内の「弟子」エリアスや、学生時代の友人たちである宮殿勤務の官吏、さらには貴族の方々に会いに行く。
当然、その様子を遠目に見た第三者は思う。
――あの二人、絶対に女に夢中だ。
・・・・・・違う。その想像は断じて違う。
いや、ある意味では合っているのかもしれないけれど、世間が想像しているような意味ではない。
そもそも、自画自賛で申し訳ないが、幼児になった私の容姿はかなり愛らしい。
鏡を見るたび「私、子どもの頃ってこんなに可愛かったっけ?」と、自分の記憶を疑いたくなるほどだ。
これも異世界あるあるなのだろうか。
シリウスたちは、自分たちが日本に転移したときは、単純に若返っただけだと言っていた。
ならば私も、元々こんな顔だったということなのだろうか。
まあ、私の見た目は今はいい。
ここで一つだけ、はっきり言っておこう。
私は美女になったわけではない。
愛くるしい幼児になっただけだ。
再度いうがぷにぷにの頬、ぷくぷくの手足、ぽっこりとしたお腹。
見事な幼児体型だ。
私が会うのは限られた人たちだが、部屋を警備してくれる近衛兵達や、食事を運んでくれる使用人さんとか会う人、会う人から「まあ、可愛いねえ」、「まあまあ、なんて愛らしい」と愛でられる。
これは良い。
うん。普通に可愛がってもらえるのはありがたい。
だが、あの二人、飽きもせず、毎日毎日、過剰なスキンシップがすぎるのだ。
しかも、大人だった頃の私を知っているくせに。
これは精神的なセクハラではないだろうか。
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