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知恵は借りたい。でもハンドルは渡してほしい

 日本の政治家に望むことがある。

 そろそろ、若い世代にハンドルを渡してほしい。

 別に、高齢者は政治に関わるなと言いたいわけではない。

 長く政治に関わってきた人には、それだけの経験がある。


「亀の甲より年の劫」という言葉もある。


 外交交渉を経験した。

 大きな災害に対応した。

 経済危機を乗り越えた。

 与党も野党も経験した。


 そういう人にしか分からないことは、確かにあるだろう。

 だから、その知恵は借りたい。

 若い政治家が困ったとき、


「昔、似たようなことがあった。そのときはこうした」


 と教えてほしい。


「それは昔、私たちもやった。そして失敗した」


 という話なら、なおさら聞いておく価値がある。

 しかし、だからといって、いつまでも国のハンドルを握っている必要があるのだろうか。

 日本では、衆議院議員は25歳以上、参議院議員は30歳以上で立候補できる。

 一方、上限の年齢はない。

 制度上は、80歳でも90歳でも国会議員を続けることができる。

 もちろん、年齢だけで人の能力を決めるべきではない。

 

 80歳でも元気な人はいる。

 頭の回転が速く、若い人より新しい技術に詳しい人だっているだろう。

 逆に、若ければ未来を考えられるという保証もない。

 だから、「何歳になったら政治家を辞めなさい」と法律で決めればよい、と単純には思わない。

 それでも私は、80歳を超えた人に国の運営の中心を任せたいとは、あまり思わない。


 理由は体力だけではない。

 政治が決めることの多くは、10年後、20年後、さらにその先の社会に影響するからだ。

 少子高齢化をどうするのか。

 社会保障をどうするのか。

 人口が減っていく中で、道路や水道などをどう維持するのか。

 AIによって仕事が変わったとき、教育をどう変えるのか。

 エネルギーをどうするのか。

 安全保障をどうするのか。

 今決めた政策の結果を長く背負って生きるのは、これからの世代である。

 ならば、その世代が政治の中心にいる方が自然ではないだろうか。


 ここで思い出すのが、昔の日本にあった貴族院である。

 もちろん、戦前の貴族院は「高齢者の相談所」ではない。

 皇族や華族、勅任された議員などによって作られ、衆議院とともに法律を決める正式な議会だった。

 だから、昔の貴族院をそのまま復活させたいわけではない。

 ただ、長い経験を持つ人が、第一線とは少し違う場所から政治に知恵を貸す仕組みがあってもよいのではないか、とは思う。

 決めるのは現役世代。

 経験者は、求められれば助言する。

 それくらいの役割分担があってもよい。


 言い方を変えれば、


「知恵は借りたい。でも、ハンドルは渡してほしい。」


 車の運転を想像すると分かりやすい。

 長い道のりを走ってきた人が助手席にいる。


「この先は道が悪いぞ」

「昔ここで事故を起こした。気をつけろ」

 

 そう教えてくれるなら、とてもありがたい。

 しかし助手席から、


「右へ行け」

「いや左だ」

「もっと飛ばせ」

「昔はこの道をこう走った」


 とずっと言われたら、運転している方はたまらない。

 昔と今では、道そのものが変わっているかもしれない。

 だから平常時には、少し黙っていてほしい。

 本当に困ったときには、こちらから聞く。

 そのときには、ぜひ経験を聞かせてほしい。

 

 これは政治だけの話ではないと思う。

 これから日本では、高齢になっても働く人が増えていくだろう。

 人口は減っている。

 若い働き手も減っている。

 AIやロボットが普及すれば、肉体への負担が少ない仕事を高齢者が担当することも増えるかもしれない。

 私たち自身も、70歳になっても何らかの仕事をしている可能性は十分にある。

 

 正直に言えば、私はあまり働きたくない。

 生活に必要な最低限の仕事をして、残った時間は好きなことをしていたい。

 小説を書いたり、畑をいじったり、AIとくだらない話をしたりして暮らせれば、それで十分である。

 それでも社会から完全に離れる必要はない。

 若い人から、


「これ、どうやってやるんですか」


 と聞かれたら、


「昔はこうやっていたよ」


 と答えればいい。

 頼まれれば手伝う。

 必要なら働く。

 しかし、自分がいつまでも中心にいなければならないとは思わない。


「生涯現役と、生涯権力者は違う。」


 政治家にも同じことが言えるのではないだろうか。

 長く政治家を務めた人の経験は、日本にとって財産である。

 だから、その財産を捨てる必要はない。

 しかし、財産を残すことと、持ち主がいつまでも同じ椅子に座り続けることは別である。

 むしろ、本当に経験豊かな政治家なら、自分がいなくなった後にも政治が続くことを知っているはずだ。


 後継者を育てる。

 若い政治家に失敗談を伝える。

 相談されたら助言する。

 そして最後には、


「ここからは君たちが決めなさい」


 と言って席を譲る。

 それも政治家の大切な仕事ではないだろうか。

 もっとも、この文章を書いている私たちも、いつか高齢者になる。

 そのとき若い世代から、


「知恵は貸してください。でもハンドルは返してください」


 と言われる日が来るだろう。

 そのとき、


「最近の若い者は何も分かっていない」


 などと言いながらハンドルにしがみついていたら、この文章を読み返さなければならない。

 だからこれは、高齢政治家だけに向けた話ではない。

 未来の自分への忠告でもある。

 年を取ることは止められない。

 経験も増えていく。

 だからこそ、その経験を「自分が決めるため」に使うのではなく、「次の世代が決めるのを助けるため」に使える老人になりたい。

 政治家にも、そして自分自身にも、そう望んでいる。

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