同盟国から見るアメリカの中間選挙
アメリカの中間選挙が、あと一か月ほどに迫った。
ニュースでは、トランプ大統領の移民政策によって、アメリカ社会の分断が進んでいると報じていた。
不法移民の取りしまりに不安を感じる人がいる。
一方、メキシコとの国境近くで牧場を営み、麻薬の密売人などが土地を横切っていくことに悩まされ、トランプ大統領に感謝している人もいる。
後者の気持ちは、私にも理解できる。
自分の土地を知らない人間が勝手に通り、それが犯罪にも関係しているとなれば、「何とかしてくれ」と思うのは当然だろう。
遠く離れた安全な場所から、人権や理想だけを語られても納得できないかもしれない。
トランプ大統領が支持される理由の一つも、そこにあるのだと思う。
良くも悪くも、言ったことを実行しようとする。
日本の政治を見ていると、「検討します」「議論します」と言ったまま、いつの間にか話が消えてしまうこともある。
その点だけを見れば、日本の政治家も少しくらい見習ってはどうか、と思わないでもない。
しかし、何事にも限度がある。
私が特に驚いたのは、グリーンランドだった。
トランプ大統領は、デンマーク王国の自治領であるグリーンランドを、アメリカが持つ必要があると主張した。
一時は武力行使まで完全には否定しなかった。
相手は敵国ではない。
デンマークはNATOの同盟国である。
なぜ同盟国の領土を「アメリカが持つ」という話になるのか。
その後、アメリカとデンマーク、グリーンランドは安全保障で合意し、アメリカ軍の活動は強化されることになった。
しかしグリーンランドがアメリカ領になったわけではない。
デンマークの主権は保たれたままである。
ここで疑問が残る。
ロシアによるウクライナ侵攻が続き、北極圏の重要性も増している。
アメリカが「グリーンランドの防衛を強化したい。米軍の活動を広げたい」と普通に交渉しても、話し合いはできたのではないだろうか。
もちろん、トランプ流の交渉を評価する見方もできる。
最初に大きな要求を出す。
そこから少しずつ譲り、最後に本当に欲しかったものを手に入れる。
商売の交渉なら珍しくない方法なのかもしれない。
だが、国家と国家の関係は、一度きりの取引ではない。
今日の交渉が終わっても、明日も、十年後も付き合っていかなければならない。
毎回、大きな要求を突きつけられ、関税などで圧力をかけられ、ようやく最後に話がまとまる。
そんなことが続けば、相手はいつか、
「もう二度とこの相手とは取引したくない」
と思わないだろうか。
アメリカだから許されるのか。
世界有数の軍事力と経済力を持ち、巨大な市場を持つアメリカとの関係を、他国は簡単には切れない。
だからこそ強い交渉ができる、という考え方はあるだろう。
しかし、その強さを使うたびに、別のものを少しずつ使ってはいないだろうか。
それは「信用」である。
私は、アメリカという国が信用できないと言いたいわけではない。
アメリカに暮らす多くの人たちは、私たちと同じように働き、家族のことを心配し、物価に悩み、うれしいことがあれば笑っているはずだ。
政治家と国民を同じものとして考えるべきではない。
むしろ日本にとって最も重要な同盟国だからこそ、私はアメリカに期待している。
「この国と同盟を結んでいてよかった」
そう思える国であってほしい。
そして当然、日本もアメリカからそう思われる国でありたい。
だから今回の中間選挙にも関心がある。
ただし、「トランプ大統領に反対だから民主党」という考え方には、私はあまりひかれない。
実際、2026年7月の調査では、民主党系の有権者の81%が、中間選挙での自分の投票を「トランプ大統領に反対するための票」と考えていた。
一方、共和党系では44%が「トランプ大統領を支持するための票」と答え、50%はトランプ大統領は自分の投票にあまり関係ないと答えている。
この数字を見ると、今回の中間選挙がトランプ大統領をめぐる選挙になっていることがよく分かる。
しかし、本当にそれだけでよいのだろうか。
「トランプに賛成か、反対か」
それだけで国の未来を決めるのは、少しさびしい。
私は、候補者たちに別のことを語ってほしい。
「自分は、こんなアメリカを作りたい」
「そのために、これをする」
そう語る人たちの中から、アメリカ国民が自分たちの代表を選ぶ。
共和党でも民主党でも構わない。
実際、有権者自身も一つの考えにきれいに分かれているわけではない。
7月の調査では、下院選で民主党候補を支持すると答えた人が43%、共和党候補が37%だった一方、別の候補を選ぶ、あるいはまだ決めていない人も合わせて20%いた。
また、共和党系、民主党系のどちらでも、「相手の党と共通点を探す候補がよいのか」「自分たちの政策を強く進める候補がよいのか」で意見は割れている。
アメリカ人も迷っているのだと思う。
そして、それでよいのだろう。
民主主義とは、最初から正解を知っている誰かに国を任せる仕組みではない。
いろいろな考えを持つ人たちが議論し、その時々で代表を選び、間違ったと思えば次の選挙で変える仕組みなのだから。
11月3日、アメリカ国民がどのような判断をするのか。
それを決めるのは、もちろんアメリカ国民である。
日本から「こちらを選べ」と言う話ではない。
ただ、太平洋の向こう側にいる同盟国の一人として、私は少しだけ願っている。
強いアメリカであってほしい。
しかし、その強さが「相手に言うことを聞かせられる力」だけではなく、
「この国と一緒にやっていきたい」
と他国から思われる強さであってほしい。
そして日本もまた、アメリカからそう思われる国でありたい。
中間選挙の結果そのものより、その選挙を通してアメリカ国民がどんな国を望んでいるのか。
私は、そこを見ていたい。




