22.最強の白馬
今までに見たことがないほど真っ白い馬だった。
毛並みは雪みたいに光を弾いていて、
日差しの下では少し眩しすぎるくらい。
――真っ黒な私とは、正反対。
そんなとりとめもないことを考えながら、
私は遠目にその馬を見ていた。
人間たちの声があちこちから聞こえる。
「牝馬ながら無敗三冠の女帝だ」
「相手が誰でも勝てるだろう」
「さすがに今度も――」
……本当に?
私たち馬の間で流れている噂は、
少し違っていた。
「あれは、化け物だ」
「変なやつだぞ」
一緒のレースを走った馬たちが口を揃えてそう言う。
あの白い馬は、いつも一馬身から三馬身ほどの差で勝つ。
レースの格が上がるにつれて、
着差はじわじわ詰まってきている。
だから人間は「いけるかもしれない」と言っているらしい。
でも――
私たち馬から見ればあれは“異様”だった。
何頭か、話しかけてみた馬がいる。
……返事は、なかった。
ただ淡々とレースに出て、
勝って、
次へ進む。
誰とも関わらない。
誰とも繋がらない。
話し下手な馬もいる。
喋るのが嫌いな馬もいる。
でも、それとも違う。
――まるでこちらの言葉が届いていないみたいだった。
ちゃんと会話ができれば、
勝利の糸口が見える気がする。
だから私は、声をかけた。
「こんにちは」
……返事は、ない。
もう一度、耳を向けてみる。
反応は、ない。
……ちょっと待って。
まさか。
外国から来た馬でコミュニケーション方法が違うとか?
そんなこと、ある?
「……コンニチハ」
少しだけ、
本当に少しだけ。
それっぽい音が返ってきた。
訛っている。
微妙にずれている。
――あ。
人間だった頃の感覚で分かってしまった。
これは……伝わってない。
そりゃ誰も分からないわけだ。
こんな――
こんなことがあって、たまるか。
そして。
レースは――
完膚なきまでに負けた。
無敗三冠馬、初の敗北。
全力で走った。
脚も残っていた。
それでも――届かなかった。
あの白い背中に。
◇
言葉さえ通じない相手にどうやって勝てばよかったんだろう?
その答えを私はまだ知らない。
※完結まで毎日投稿です。




