ここはどこだ。
「……………ぅにゅ?」
ここはどこだ。
裏通り、路地裏の様な殺伐とした感じ。
前世で経験した日本での環境に似ている。
左手は行き止まり。前は壁、扉、ゴミ箱。
これは店か?
後ろは壁、配管、等と小さい窓。
右手には大通り?人間がたくさん歩いてる。
人間は前の世界の様だ。
スカートにチュニック、ふわふわカールを腰まで長くしている女性や、スーツ姿の男性、たまにパンクやヴィジュアル系、ゴスロリも居るが、都会な雰囲気。あ、昔のオタクみたいなやつもいる。
日本?
いや、まだ分からぬ。
知ってる場所だからと言って安心は出来ない。私は今猫?狐?……小動物なのだから。何があっても人間には負けてしまう。大人しく観察だ。
「うーにゅ。」
困った。分からん。
もう少し近づけば言語位は分かるか。
よ、よし、抜き足差し足で。
………行くぞ。
私は四本ある足をぽてぽて鳴らさないようにしながらそろりそろりと歩く。
「でさー」
「だよねー」
「朝から仕事やだ。」
……日本語だ。
もう一度言おう、日本語だ。
これは!これは奇跡だ!
誤召喚されたとはいえ、前世に戻ってこれるとは!
「………にゅ…………にゅっ」
ダメだ!
興奮で叫びそうになった!
人間にバレル!
いや、
ここで私が人間だったら良いのだが、私は今よくわからない小動物!魔法が使える精霊!だから人間にばれたら、、、通報されて連れていかれるところを想像しました。
ヤバい!
とりあえず氷と炎が属性なのだが、ここでは意味がない。日本はまぁ、他よりは平和かもしれないが、それでもホケンジョとかサツショブンとか小動物には恐ろしい制度がある。ヤバイヤバイ、見つかったら恐ろしい。
し、しかし日本人は優しい人もいるはずだ。こんな小動物を優しく飼ってくれるお金にも心にも余裕のある飼い主も現れるはず。また元の世界に戻るまで誰かに飼って貰わねば。
大通り側を見ると段ボールが置いてある。
…とりあえず都合の良い段ボールを発見した。多分向こう側に拾ってくださいが書いてあると思うのだがどうだろう。
よ、よし、あそこまで行くぞ。怖いけど、、だだだ大丈夫!
…だよね?
私は四本ある足を一つ一つ丁寧に動かして――右前後と左前後が同時になっていることには気づいていない。――段ボールに近づいた。
や、ヤバい、震える。いや、こ、これはむしゃぶるいだ。むしゃぶるるぅいなのだ!こ、こんなとこで挫けたら日本では生きていけない!
くぅっ!野生の本能が逃げろって叫んで前に進まない!
だが、ここで飼って貰わねば私は飢え死にだ。ここ都会だし、餌がない!私の大好物ピーレンチが無い!ここだったら桃とミカンが食べたい!
ネズミとかは食べれんのだよ。実を言うと雑食だが、私も日本人だったのだ。ネズミなんて食べれんのだよ。
「ぅ、うにゅ」
すぽん。
そうこう言っているうちに段ボールに着いてしまった。ふるふる震えているもふもふの尻尾は後ろ足に挟まってしまった。
前世が日本人とはいえ、やはり他人が怖い。野生の本能も人間を怖がっている。しかも、私より人間の方が大きい。
くんくんと匂いを嗅ぐと何となく私以外の獣の臭いがしている。だが気配はない。やはり拾ってくださいが書いてあったに違いない。もう拾われたか逃げたのだろう。
「ぅにゅ。」
………よ、よし、女は度胸だ。当たって砕けろ!
ええい!ママよ!
「ふんにゅ!」
私は、尻尾を取りだし、後ろ足に力を入れて跳び跳ねた!
「むぎゅ!」
が、顔面ダイブしてしまった。
幸い中にタオルが敷いてある。がしかし、いたい。
涙目である。
私は顔を上げて、横にふるふる振るって痛みを発散させる。
くぅ。
よ、よし、な、なんとか第一段階終了。
後は拾ってもらうだけだ。
ぬー、どうするか。
私はキョロキョロと顔を動かし、人間達の確認をする。
チロチロ見ている人達も居るが、ほとんど素通りだ。
スマホ弄っているやつもいる。
そうか、ここは前世からほとんど進んでいないみたいだな。
あ、撮るな!
「きゅん!?」
私は驚いて跳び跳ねてしまった。
シャッターをきられた。女子高生のグループみたいだ。泣けてくる。前世ではそんなに美人ではなかったのだよ。写真撮られるの嫌だったんだよぉ。
ううぅ、くそぅ。人権侵害だぁ。くそぅ。
「クゥン。」
私は悲しくくんくん鼻を鳴らしながら丸まって待機した。勿論尻尾は体の下だ。怖いもん。
暫く経ち、日差しが傾いて紅色に近づいてきた。
お腹もぎゅるぎゅるなりはじめて、誤召喚された頃の元気もない。
耳も垂れてしまった。
相変わらず見られているのは感じるが、誰も食べ物をくれない。このままだと…
ふるふる
私は顔を力無く横に振るう。
まだ諦めちゃダメだ。拾ってくれるはず。
「にゅぅ。。」
誰か、拾って。助けて。
街灯が照って、暗くなってきた。隣の店も繁盛している。喫茶店らしい。
食べ物の匂いが漂ってくる。
近くにも居酒屋があるらしい、笑い声が聞こえてくる。
良いなぁ。私も仕事帰りのお酒が飲みたいよ。
ううぅ。人間になりたいよ。ううぅ。
「ぅにゅぅ………。」
街灯も少なくなってきた。
何時くらいだろうか。お腹も音をならさなくなった。力が入らない。このまま死んでしまうのだろうか。誰にも見つけられずに。誰にも拾われずに。誰にも助けてもらえずに。。。
嫌だ!嫌だよ!
私は顔をわずかに上げて、力のあるかぎり鳴いた。
「にゅーーーん!にゅーーーーん!」
街灯が減っていく。
助けて!助けて!誰か!
「にゅーーーん。にゅーーーん。」
お願い。誰か。
「にゅーーーん………。にゅーーーん…にゅーーーん……………………」
………お願い。
「ぅ……………にゅっ。」
ガチャ、カランカラン。
隣の店の扉が開いた。
私はもう力無く伏せているだけ。動く力もない。
足音が近づいてきた。
私に気づいてくれたのかな?それともまた通りすぎちゃうのかな?お願い、気づいて。
「…………猫?」
足音が目の前で止まった。
が、私にはもうほとんど動くことが出来ない。辛うじて片目と尻尾は動いた。
人が来たことで、期待でふりふり左右に揺れたが力無く落ちた。
「……………じゃない。犬か?」
違う。
どっちでもいいよ。早く助けて。
目の前の人は私の頭にそーっと触れる。
私が動かないと分かったらゆっくり撫でてくれた。
私はそのリズムにうとうととし、意識を手放した。




