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ゆうしゃついにたつ

前回がアレで今回は?というときちんと話も進めますとも


予想以上に長くなりましたが!


あ、このお話は人物表とか作らないです

そこまで人が多くなることは無いと思うので

 勇者と魔王との宿命の対決の話を始めましょうか。とはいっても我が家の勇者は放


置路線なので宿命(笑)みたいな状態になっていますが。

 以前のお話が初夏だったという事は、皆さん覚えていらしているのかと思います。


別に記憶の彼方に忘れ去られていても何の問題もありません、あしからず。

 今回はそれから大体半年後になります。

 一体その半年の間に何をしていたかというのは、怠惰な学生の日常を描くが如く、


限りなく意味の無い語りとなりますので割愛します。

 以前が初夏、そして今は冬将軍がしぶとく残り続ける冬の終わりの出来事です。

 冬にもなると、我が家の馬鹿は冬眠しているクマの如く、3日間を寝て過ごし1日


活動するという人としての生命活動を放棄している状態ですので、彼女が来なければ


物語の進展はありえなかったでしょう。馬鹿が死んだ様に寝てる間、私が何をしてい


たのか?というのはご想像にお任せします。

 さて『魔王』なる謎の人物から手紙が来てから、半年の間。私達の元には何通もの


『魔王』の手紙が来ました。暑中見舞いから始まり、寒中見舞い、年賀状、さらには


雑談に職場の愚痴まで、まるで催促をするかの様な謎の手紙がポストの中に舞い込ん


で来ました。あて先も『魔王』だけではなく『使用人A』やら『メイドD』やら『付き


人の悪魔』やらと、大変愉快なネームが放り込まれてます。こいつらは我が家のポス


トを何処かのラジオ局と間違えているんじゃないでしょうか?

 そして、今や人気者と化した勇者はその全てを無視しました。理由は簡単です。あ


て名こそ書かれているものの、何処へ返事を出せば良いのかは書かれていなかったの


です。これでは返事を書きようがありません。

 なので今日も今日とて、有り余るパワーを無駄に消費する学生の如く、勇者は夢の


国へと旅立ちます。



□ □ □ □



 それは私が、もう春も間近だというのに自重せず降り続いた大雪をどうしようかと


悩んでいるときでした。一晩振り続けた結果、雪は山の様に積もり、いずれは我らが


拠点となっている小屋を押しつぶしてしまうでしょう。

 かといって、私の腕はシャベルを持ち、屋根へと登り、憎き雪の結晶達を叩き落す


ようには出来ていません。せいぜい私が落ちる結晶となって、彼らの仲間入りを果た


すのは目に見えています。

 さてどうしましょうか。


「あの、勇者の関係者の方でしょうか?」

「はい・・・?」


 雪掻き用のシャベルを積雪に突き立てて悩んでいると、後ろから声が掛かりました


。振り向くとそこには短い黒髪の女性。そのすばらしきスタイルはスーツに隠れるこ


とも無く、惜しげもなく日の光に照らされています。

 けれども油断はなりません、彼女の背中にはこうもりの様な黒い羽が揺れており、


私を見つめている二つのお目目は琥珀色。何だかとてつもなく嫌な予感を感じずには


居られません。決して、彼女がボンキュッボンの自重無き体系の持ち主だから反感を


抱いているわけではない、ということはココに明記して置きます。この内から湧き上


がる何かは・・・そう、おそらく身近にそういう人物が居るからでしょう。

 とはいえ、相手が明らかに人外とはいえ無視を決め込むのは失礼に値します。しか


しどうしましょうか?確かに私は関係者といったら関係者ですが・・・『よろしいならば


戦いだ』等という野蛮な方だった場合、為す術も無く倒されてしまうでしょう。魔物


相手にシャベルが武器では、いささか問題があります。

 しかし、人は見かけに寄らないものです。そう言った点では、目の前の存在はきち


んと話しかけてきて、コミュニケーションが成立するだけでも安心できるともいえま


しょう。彼女は人ではないのですから。


「ああ、見ず知らずの人にいきなり失礼でしたね」


 悩んでいる私の姿をどう受け取ったのか、彼女は丁寧なお辞儀をすると懐から名刺


を差し出してきました。どうもコレはご丁寧に、と受け取り目を通すと。


『ゆうしゃさまふぁんくらぶ かいいん ばんごう・・・』

「間違えました、こちらです」


 私が世にも奇妙な事が書かれている文字列に目を通していると、とても素早く掻っ


攫われ、新しく名刺を差し出されます。


「今のは?」

「何のことでしょうか?」


 一応、新しく差し出された名刺を受け取りながら聞いてみると、とても綺麗な笑顔


で首を傾げました。おそらく、悪徳商法を得意としている人はコンナ顔をするのでし


ょう。 これ以上この話題に踏み込むのは危険と判断しましたので、新しい方の名刺


に目を通します。そこには『悪魔派遣所』の文字と共に『あなたにあった悪魔をご紹


介します』というこれまた謎の文字列。・・・これを私に渡してどうしようというのでし


ょうか?


「お困りの際はご利用ください」

「はぁ、わかりました」


 一体このやり取りは何だったのか、全く判らないまま、名刺を懐に入れます。結局


、目の前の人物が悪魔という存在であるということ以外、何も判っていません。こう


も判らない付くしでは、為す術がありません。なんたらファンクラブの会員で会った


ことは深い闇に沈めておきます。


「それで、勇者の関係者でしょうか?」

「はい、そうですが?」


 まぁ、一応名刺を渡してきたのですし、悪意は無いと判断して質問に答えます。こ


れで『よろしいならば戦いだ』という展開になった場合、私のえくすかりしゃべるが


血を吸うことになります。


「やはりそうでしたか、すみませんが、勇者に会わせてはもらえませんか?」

「ソレは構わないのですが・・・どちら様と伝えればよろしいでしょうか?」

「魔王様の付き人、と言って頂ければ通じるかと思います」

「はぁ・・・」


 マオウノツキビト?私の知り合いにそんな人物は存在しましたっけ?


「あの、半年ほど前にお手紙をお送りした」

「ああはい、魔王様ですね、覚えてますよ」


 私の脳内を電流が走りました。微弱なソレは何よりも早く脳細胞を駆け巡り、そう


いえば半年ほど前から『魔王』という人物がお手紙を送ってきている事を思い出しま


した。


「一応聞きますが、魔王という名前の誰かさんの付き人ですか?」

「いえ、魔王という立場の付き人です」

「そうでしたか」


 どうやらこれで『魔王さん』という名前の別人説は消え失せたようで、目の前の人


物は本当に挑戦状を送りつけてきたあの『魔王』の関係者なのでしょう。一応、彼女


が嘘を付いている可能性もありますが、私に嘘を付く必要性を感じないので考えなく


ても良いでしょう。

 となれば、することは一つです。


「ところで、話は変わるのですが」

「・・・はい?何でしょうか?」


 不思議そうに首を傾げる彼女を見ないようにして、屋根を見上げます。


「この小屋、屋根に雪が積もりすぎてるとは思いませんか?」

「・・・はぁ、そうですね」

「実はこの小屋の中に勇者が居るのですが・・・このまま放置しておくと、いずれは潰れ


たカエルの様な姿で発見されるでしょうね」

「・・・」

「ちょうどいいところに、シャベルと梯子もあるのですが・・・哀しきことに私は力不足


で雪を掻く事は出来ないのです」

「・・・」

「ああ、誰か私の代わりに雪を降ろし、哀れな勇者を救う者はいないのでしょうか?


「・・・」


 そこまで言うと、屋根の上からさらに上を見上げます。空にはマシュマロのように


美味しそうな雲が一つ二つ・・・。


「・・・あの」

「どうしました?」

「梯子とシャベルを貸して貰えますか?私なら力になれると思いますので」


 こうして私は、憎き積雪から我が家の平和を守ることに成功したのです。コレはも


う、よくやったと褒められて、頭を撫で撫でされても誰も文句は言わないでしょう。

 ガッガッと硬い雪を降ろしている音をバックに家へと入ると、久しぶりに休日にあ


りつけたサラリーマンの様な体性で眠りについている勇者の下へと近寄ります。


「勇者様、お客様です」

「後でー・・・」

「せめて身だしなみくらいは整えてください」

「やってー・・・」

「では起きてください」


 のそのそと食べ過ぎて動けなくなった猫の様に起き上がる勇者。まず洗面台へと連


れて行くと、冷たい水を顔にぶっ掛けようとします。


「冷たいのいやー・・・」

「・・・」


 薬缶に水を入れると火にかけ、ほどよい温度になったら洗面器へと移して顔を洗わ


せます。その間に私はぼさぼさの髪を梳かし、髭剃りを渡し、かつらを被せます。

 化粧はともかくとして、何とか女性に見える程度には変身した阿呆。眠気眼ですが


、コレはコレで美人に見えるという事実が、何ともいえない怒りを誘います。

 結局ほとんど何もしなかった阿呆はそのままナイトキャップを被ると、抱き枕を抱


き、温もりを求める様に布団の中へと潜り込んでいきました。その姿は数秒後に世界


が破滅を迎えても起きることは無いでしょう。とんでもない怠け者です。夢ではなく


、そのまま異世界まで逝けばいいのに。

 さてどうましょうか。

 一応勇者は変身を完了しましたし、ここはコンナ馬鹿のためにせっせと外でがんば


っている誰かのために、温かいお茶とお茶菓子でも用意して待っているのが礼儀とい


うものでしょう。

 早速薬缶を火に掛けると、お茶菓子を探します。哀しいことに、お煎餅しかありま


せんでした。緑茶の葉っぱは切らしているので、紅茶にせんべいという和洋の合体コ


ンビで出迎えることにしましょう。



□ □ □ □



 勇者が安らかな二度寝を開始してから、数時間ほどが経過しました。その間も薬缶


は沸騰をし続け、中の水が全て無くなったので第3杯目に突入しています。大量の水


蒸気を出し続けた結果、窓ガラスは曇り、部屋の中の湿度は大変高くなっています。

 私は薬缶が空焚きにならないよう、に新しい水を入れて火に掛けると、優雅な読書


の続きを始めます。しかしそんな優雅な読書は、ドアをノックする音で終わりを告げ


ました。ドアを開けると、そこには何処か疲れた様子の悪魔さんの姿が。


「終わりました・・・」

「それはそれはお疲れ様です。さぁ寒かったでしょう、お入りなさい。あ、シャベル


はそこに置いておいてくださいますか?」


 部屋へと招くと、悪魔さんは少しだけ目を丸くしました。予想以上に我が家がぼろ


いからでしょうか?それとも、予想以上に内装がしっかりとしているからでしょうか


?どちらにしても、失礼な話です。

 丸いテーブルの周りに敷かれた座布団を勧めると、早速紅茶とお煎餅を用意します


。悪魔さんもこの組み合わせは予想外だったのか、何だかとても嫌なものを見たかの


ように顔をしかめています。


「ところで、本題に入りたいのですが」

「はい、勇者様でしたね?そこで寝ているソレです」

「・・・」


 その時、あどけない寝顔をしている勇者を見たときの彼女の目をなんと言い表せば


良いのでしょうか。

 たとえば、カサカサ動く黒い虫と、ちびっ子に人気なカブトムシを知らなかった人


がいるとしましょう。するとその方の友人がカサカサの虫を指差し「知ってるか?こ


れってカブトムシっていうんだぞ?」といったとします。当然、哀れにも何も知らな


い純真無垢なその人は、カサカサをカブトムシだと信じます。話はそれから数日後、


そのカサカサが実はゴキブリという広く嫌われている存在で、カブトムシは全く別の


昆虫であるという事を知った瞬間の顔。

 彼女がしたのは、大体そんな感じの顔を想像して頂ければ良いかと思います。そし


て、抑えきれ無かったのか軽い殺気が漂ってきます。


「起こしましょうか?」

「い、いえ・・・事前に連絡もせずに訪問したのはこちらなので、起きるまで待たせて貰


います。よろしいでしょうか?」

「はい」


 怒りを抑えるように震える手で紅茶を一口飲むと、美味しさに驚いたのか目を丸く


しました。思った事が表情に出ることが必ずしも良いことではない、ということを私


は学びます。

 その後はひたすら会話も無く、パキポキとおせんべいを齧り、紅茶を飲み、本を読


み、紅茶が無くなったら追加をし・・・と数時間が経過しました。

 気付けば日も暮れて、そろそろ晩御飯をどうするか考えなければいけない時間。一


応、備蓄の食糧はあるのでお買い物へと行く必要は無いのですが。


「あの」

「どうしましたか?」

「お食事はどうなされますか?」

「いえ・・・」


 悪魔さんはちらりと勇者の方を見ます。


「何時頃起きるのか、聞いてもいいですか?」

「そうですね・・・」


 最近目覚めたのは二日前ですから・・・。


「明日の朝くらいに目覚めるかと思います」

「・・・冗談ですよね?」

「私も冗談であって欲しいですね」

「・・・」


 無言のまま勇者を見つめる悪魔さん。今彼女がどういう顔をしているのか、私に知


る術はありませんし、知ろうとも思いません。


「起こしましょうか?」

「そうですね。叩き起こしても構わないので、お願いできるでしょうか?」

「わかりました」


 早速、勇者の掛け布団を掴むと思いっきり引っ張り連れ去ります。すると、あどけ


ない寝顔から一転、舞い込んできた寒気にこの世の終わりが来たとでも言いたそうな


顔に変貌します。


「勇者様、お客様がいらっしゃってますよ」


 ゆさゆさと揺さぶって声を掛けてみるも、んー・・・とか唸るだけで効果がありません


。ならばとえくすかりしゃべるを取り出すのは気が早いというもの、そんなことをし


たら起こすどころか、コイツを永遠の眠りへと導きかねません。

 仕方が無いので最終手段の一つ前を使用します。当然ながら、最終手段は撲殺によ


る実力行使です。

 勇者の耳元へとそっと口を近づけると、囁きます。


「勇者様、奈々師匠がいらっしゃいましたよ」

「こ、これはこれは師匠。本日は大変お日柄も良く・・・」


 勇者は途端に目を開けるとかばっと身体を起こし、背筋を伸ばして誰も居ない宙へ


と話しかけ始めました。私は同居人として、この人の頭が心配です。

 悪魔さんも驚いたのか、若干引き気味で勇者の様子を眺めています。

 しかしその奇行も長くは持ちません。ここに奈々師匠は居ないのです。

 勇者は返事が来ない異変に気付いたかのようにキョロキョロとあたりを見渡すと、


ほっと胸を撫で下ろしました。そして、遠目に自身を観察している悪魔さんに気付く


と怪訝そうな顔をしてこちらへと擦り寄って来ました。


「ねぇ・・・アレ何?」


 もし「誰?」と聞かれた場合は言葉に困ったでしょうが、「何?」と聞かれると何


とか答えることが出来ます。


「魔王様の付き人の悪魔だそうです」

「まおうのつきびと?」


 勇者は生まれて初めてその言葉を聞いたかのように首を傾げます。どうやらこの人


は半年ほど前『魔王』という存在に宣戦布告されたことをすっかりと忘れている様で


す。何と言う腑抜けた記憶力でしょうか?


「はい、半年ほど前に宣戦布告してきた、あの魔王です」

「ああそう、魔王ね。覚えてる覚えてる」


 けれども女神の様に優しい私の助言によって、勇者の緩みきった脳細胞でも思い出


すことが出来た様です。しきりに魔王魔王と口ずさんでいる辺り、本当に思い出せた


のかという若干の不安を誘いますが。


「で、その魔王が今更何の用?」


 そんなことを私に聞かれても答えようがありません。

 私と勇者のやり取りを不思議そうに見ていた悪魔さんは、3つ目ならぬ4つ目に見


つめられ、いささか困惑した様子。


「あ、はい。何時までも動きが無いので、首尾がどうなっているのか確認にきたので


すが・・・」

「ふーん・・・」


 つまりは私達が何時までも動かないので催促に来たというわけですか。魔王という


のも以外と楽ではないのですね。


「首尾も何も、私は動く気なんて無いわよ」


 けれども彼女の目の前に居る奴はただの勇者ではなく、こういう奴です。わざわざ


遠路はるばるやって来て、丸一日をココで潰したという事実を哀れに感じてしまいま


す。


「・・・動く気が無い・・・というと、どういうことか説明して貰っても?」

「説明も何も、そのままよ。勇者なんて私の他にもいくらでも居るのだし、行く必要


性を感じないわね」

「・・・世界の危機等に関しては?」

「他の誰かが解決するでしょ?」


 古今東西、様々な勇者が居るでしょうが、ココまで他力本願な奴はそうは見つから


ないでしょう。コイツは自覚しているので、余計始末が悪いです。

 悪魔さんは暫らく悩んでいたようですが「判りました」というと身を引きました。


ココまで粘っていたのに聞き分けが良いので、少し不思議に感じざるを得ません。


「ところで話は変わるのですが、寮にお子さんが居るようですね?」

「・・・あの子に何かしたら殺すわよ」


 その言葉が出た瞬間、勇者の雰囲気がのほほんから刺々しいものになりました。

 ところで、『寮のお子さん』というと、ふざけた名前の女性二人と取られ抱きつか


れ、鉄の意思を育む事に余念を費やさない旦那様のことでしょうか?

 しかし子供といわれると、まるで私と勇者の間に出来た子の様に思われるかもしれ


ませんが、そんなことは全く持ってありません。彼と彼女はある日、何処かから勇者


が拾ってきて、そのまま我が家に居付く事となった子達です。当初はついに人攫いま


で始めたのかと思い、面倒なことが起きたと嘆いたのですが・・・どうも並々ならぬ事情


の持ち主だそうで余計に面倒な事態となりました。

 私が当時のことを回想し、初めて付くしの困難に立ち向かう自身の姿を眺めていた


ら、現実ではやはり面倒な睨みあいが発生してました。


「ほぅ、やってみますか?」

「まぁまぁ」

「はっ、後悔先立たずって言葉知ってる?」

「まぁまぁ」


 面倒ですが、秘儀を使用してその場をはぐらかします。その場を宥めるには最適な


言葉「まぁまぁ」一体誰が考えたのでしょうか?

 私の秘儀の効果もあり、二人の睨みあいは非常に盛り上がりに欠け、自然鎮火しま


した。事あることに「まぁまぁ」と間に挟まれたら、ソレはもう盛り上がらないでし


ょう。

 そういうわけで悪魔さんはコホン、と咳を一つ付くと仕切りなおします。


「そのお子さんのことですが」

「何?人質のつもり?」

「いえ、事情を話したら全面的にご協力してもらえるとの事です」

「・・・」


 はい、と渡された写真には確かに、2年ほど前に学生寮へと旅立った旦那様の姿が


ありました。彼の腰の辺りではちみっこい者がぎゅーっと自身の所有権を主張してお


り、その真横では、全力で笑顔を作りながら旦那様の手を握り締めている女性が居ま


す。隅の方では心霊現象よろしく和服姿の女性の姿が写っているのですが、彼にとっ


てはもはや日常なので、さほど問題とも言えないでしょう。旦那様の顔色が悪い様に


見えるのは・・・恐らく現在自身が置かれている危機を本能と理性の両方で感じ取ってい


るからでしょう。相変わらず、難儀な生活を送っていますね。

 暫らく無言で写真を見つめていた勇者は、やはり無言のまま携帯を手に立ち上がる


と何処かに電話を掛けながら外へと出て行きます。おそらく旦那様に確認の電話でも


しに行ったのでしょう。


「ところで、この写真は頂いてもよろしいのでしょうか?」

「いいですよ」

「ありがとうございます」


 私は早速本棚に置いてある思い出アルバムにこの一枚を丁寧に入れると、愛くるし


い写真の数々を断腸の思いで断ち切り、元の場所へと戻しました。そうこうしている


間に勇者が帰ってくると、無言で携帯を私へと渡してきました。


「はい、ただいま代わりました」

『もしもし、姉さん?』


 携帯からは旦那様の声のほかに、がやがやと多数の人の言葉が洩れてきます。賑や


かな限りです。

 ココで私と旦那様の会話を語ることは、まるでオチの無い4コマ漫画の様な展開に


なるので割愛させていただきます。

 会話も折ったのでプツっと通話を切ると、そっとテーブルの上へと戻します。

 丸一日を潰された悪魔さんと、希望を打ち砕かれた馬鹿との交渉は今のところ沈黙


を保っており、中々先へと進む様子はありません。


「一つ条件があるわ」

「何でしょうか?」


 沈黙を破ったのは希望を打ち砕かれた馬鹿の方でした。


「魔王が居る城の場所を教えなさい。それが条件よ」

「お断りします」

「そう、交渉決裂ね」


 果たしてこれを交渉と呼んで良いのでしょうか?私には勇者が勝手に駄々を言って


いる用にしか見えません。


「判ってないようですが。あなたは条件を出せる立場なのですか?」

「人質の事?そっちこそ判ってるの?私は少年に免じて、仕方なく妥協案を出してあ


げてるのよ?」


 ちなみに勇者は旦那様のことを『少年』と呼びます。彼の歳が進み『少年』が『青


年』や『おじさん』へと変わっていくのかどうかは不明です。そもそも、今現在の彼


は『少年』ではなく『青年』と呼ぶのが正しい年代なので、恐らく呼称が変わること


はないかと私は予想しています。


「そうなると、彼がどうなってもいいと?」

「もしあなた達が少年に何かしたら、私は絶対に動かないわよ」

「・・・」


 ・・・普通は逆なのではないでしょうか?悪魔さんもそう感じたのか、困惑した様子で


私にアイコンタクトを送ってきます。けれども哀しいことに、こいつを『普通』と呼


ぶには相当の器と経験が必要となります。この阿呆がそういうなら、本気で動かない


つもりなのでしょう。

 ということで、私は首を振って彼女のアイコンタクトに応えました。


「それとも何?魔王の城ってのは位置を知られただけで問題になるような、ぬるい場


所なの?」

「・・・安い挑発ですね。それに私が乗るとでも思っているのですか?」

「へぇ・・・?魔王って安い挑発にすら乗れないほどの小物なんだ。それなら私が出なく


ても問題は無いじゃない」


 さすが、煽る事に関しては悪魔にも引けを取りません。不覚にも感動してしまいま


した。

 さすがの悪魔さんもコレには頭に来た様で、ぷるぷると羽を震わせながら何とか怒


りを堪えているご様子。まぁ自分では無く、仕えている主の事を馬鹿にされた訳です


から、確かに頭に来るでしょう。


「・・・いいでしょう。その減らず口が何処まで叩けるのか・・・見物ですね」


 悪魔さんは殴り書くようにして私の差し出した地図に印をつけると、立ち上がって


外へと出て行きます。このままではいけません。私には彼女に聞かなくてはならない


、重大なことがあるのです。

 私はメモ帳を掴むと彼女の後を追うように立ちました。ちなみに、平和的解決を完


膚なきまでに打ちのめした元凶となる阿呆は我関せずの状態でパキポキとお煎餅を齧


っていました。ココで血が流れていないのは、一重に悪魔さんの我慢強さのおかげと


いえるでしょう。


「済みません」

「・・・他に何か御用ですか?」

「はい、菓子折りはいくつほどお持ちすればよろしいのでしょうか?」

「・・・」


 メモ帳を構える私に悪魔さんは呆気に取られた様子で居ましたが、やがてくすくす


と笑い始めると教えてくれました。何故笑われたのか?ここは怒るべきなのか?私が


疑問に思っている間に、彼女は夜闇へと飛び立ってしまいました。

 居なくなってしまったのは仕方が無いので、家に戻ることにします。

 我が家のドアを開ける途中、ふと3つの顔が家の角から出ているのに気付きました



「そんなところでどうしたのですか?とりあえず、ココでは寒いので家までどうぞ」


 幸いにも知っている顔だったので声を掛けると、ぞろぞろと妖精の皆さんが角から


出てきます。

 4人連れ添って家の中へと入ると、難しい顔でお煎餅を噛み砕いていた勇者の顔が


、まるで花が咲いたような笑顔になりました。旦那様が居なくなってからというもの


、勇者は彼女達が来ることを大変楽しみにしています。


「あら、一体どうしたの?」

「絵本」

「読んで」

「欲しいの」


 勇者の問いに対して、妖精は一言ずつ応えて一文を作り上げます。私も始めこそ戸


惑いましたが、慣れればどういうことはありません。


「絵本ね、晩御飯はどうする?」


 今度はコクコクと頷く妖精たち。私はソレを見てから、お夕飯の支度をするために


立ち上がりました。今日は人が多いのでお鍋にしましょう。

 私は勇者が彼女達に絵本を読み聞かせている声をバックに、ザクザクと白菜を切っ


たりキノコを切ったりしていたのですが、ふと絵本ではなく別の会話が聞こえてきた


ので耳を済ませました。尤も、そう広くはない部屋です。会話を聞くのに耳を澄ます


必要性は皆無なのですが、そこは気分の問題です。


「ゆーしゃ」

「出かけるの?」

「遠くまで?」


 どうやら彼女達は悪魔さんとのやり取りを聞いていた様です。なるほど、それで家


の中へと入らず、外に居たのですか。


「ええ、少し遠いとこまで行くことになるわね」

「もう」

「あの・・・」

「戻ってこない?」

「そんなこと無いわよ、絶対に帰ってくる」

「本当?」

「本当?」

「本当?」


 最後は三人とも同じ言葉でした。これは珍しい。


「ええ、本当。約束する?」

「うん」

「約束」

「する」


 私は後ろの方で勇者が順番に指きりげんまんをする声を聞きながら、今夜は豪華に


するべく、貴重なお肉を取り出すことにしました。

実はこの話、2話で完結する予定だったんだ

でも思った以上に長くなったので分けることに


なんと今話は2日で出来ました\( ´▽`)ノ

メイン連載が1月以上掛かってるというのに驚きの速度!


お暇な方はお付き合いください


信じられるかい?コレ短編作品なのに、2話目でもまだ家から動いてないんだぜ・・・


ではでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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