第五章 前編 九尾は今日も冷たい
「……なんでこうなるんだ」
ユウトは、目の前の惨状を見て頭を抱えていた。
組合近くの屋台通り。
夕暮れの赤提灯が並ぶ通りには、香ばしい匂いと湯気が立ち込め、仕事帰りの妖たちで賑わっている。
そんな中。
「団子追加五本」
「まだ食うの!?」
ぴしっ、とユウトが叫ぶ。
屋台の前では、小柄なたぬき少女――たぬぷぅが、店主へ静かに追加注文していた。
感情の薄い眠たげな顔。
ぼそぼそした小さな声。
けれど、その手だけはしっかり次の団子を受け取っている。
頭の上の丸いたぬき耳が、ほんの少しだけ機嫌良さそうに揺れていた。
「……腹八分目」
「絶対違う!!」
すでに串の本数は二桁へ届こうとしている。
しかも全部ユウトの財布から出ていた。
隣ではルゥが腕を組み、呆れたようにため息をつく。
「……やはりこのたぬき、食費の化身では?」
「お前も結構食うだろ」
「龍神は燃費が悪いのじゃ」
「たぬきも悪いだろ!」
すると、たぬぷぅがもきゅもきゅ団子を食べながら小さく首を傾げた。
「……ルゥもいっぱい食べる」
「我は龍神じゃからよいのじゃ!」
「その理論なんなんだよ……」
結局。
新人支援金は、ほとんど消えた。
財布の中には、寂しくなった小銭が数枚残っているだけだ。
「うぅ……異世界って厳しい……」
ユウトが遠い目になる。
するとルゥは当然のように言った。
「だから働くのじゃ」
「正論やめろ。今傷ついてる」
「現実から目を逸らすでない」
そんなこんなで三人は、再び組合へ戻ってきていた。
大きな木造建築の中は相変わらず賑やかで、刀を背負った妖や、獣耳の商人たちが忙しそうに行き交っている。
壁一面へ貼られた依頼書を見上げながら、ユウトは小さく唸った。
【薬草採取】
【妖魔討伐】
【荷運び】
【温泉掃除】
「温泉掃除いいな……」
「報酬が安い」
「現実的なこと言うなよ」
ルゥは腕を組みながら、依頼書をじろじろ眺めていく。
その横で、たぬぷぅがぼんやり掲示板を見上げていた。
眠そうな顔は相変わらずだが、不意にその耳がぴくりと動く。
「……これ」
「ん?」
小さな指が、一枚の依頼書を指差した。
【水晶石採取依頼】
“白霧山”にて、占術用の水晶石を採取されたし。
報酬:八百文
「水晶石?」
「占い師や術師が使う霊石じゃな」
ルゥが説明する。
「ふむ……初心者向けではある」
「じゃあこれにするか」
「……ご飯代」
「お前のせいで切実なんだよ!」
たぬぷぅは怒られているのか分かっていない顔で、こてんと首を傾げた。
その姿へため息をつきながら、ユウトは依頼書を剥がす。
――その時だった。
「その編成、事故率高そうね」
静かな女の声が、背後から聞こえた。




