第四章 まめたぬきは食費がかかる
「……組合?」
翌朝。
山を下りながら、ユウトは首を傾げた。
隣ではルゥが腕を組み、ふんすと偉そうに歩いている。
「そうじゃ。この辺りで生きるなら、まずは組合へ行くのが普通じゃな」
「へぇ……」
「妖魔退治や護衛、薬草採取など、色々仕事を斡旋しておる」
「めちゃくちゃRPGっぽいな……」
「あるぴーじー?」
「いやこっちの話」
異世界っぽい要素が急に増えてきた。
いや実際異世界なのかもしれないけど。
まだユウトの頭は、完全には現実を受け入れきれていない。
山道を進んでいくと、やがて視界が開けた。
「おぉ……」
そこには、大きな和風の町が広がっていた。
木造の建物。
赤い提灯。
和装の人々。
しかし普通の町ではない。
狐耳の少女が歩き、河童らしき男が魚を売り、空には紙の式神が飛んでいる。
「すげぇ……」
ユウトは思わず辺りを見回した。
完全に知らない世界だった。
「きょろきょろするでない、田舎者みたいじゃぞ」
「いやお前は慣れてるだろうけどさ!」
ルゥはどこか得意げに胸を張る。
その後、二人は“組合”と呼ばれる建物へやってきた。
大きな木造建築。
入口には、
【依頼組合】
と書かれた看板がぶら下がっている。
「本当にRPGみたいだ……」
「あるぴーじーとは知らぬが、ここで仕事を受けられるのじゃ」
「仕事……」
現実味がすごい。
異世界って、もっとフワッとしてるものかと思っていた。
組合の中は賑やかだった。
刀を背負った男。
巨大な斧を持つ鬼。
薬草を抱えた獣耳少女。
みんな当たり前のように依頼書を眺めている。
受付にいた猫耳のお姉さんが、ユウトたちを見る。
「新規登録ですか?」
「……登録?」
ユウトが戸惑っていると、ルゥがふんと鼻を鳴らした。
「おぬし、金がないのじゃろ」
「うっ」
「なら働くしかあるまい」
正論だった。
しばらくして。
なんだかよくわからないまま登録を終えたユウトは、小さな袋を受け取っていた。
「これは?」
「新人支援金ですよー」
袋の中には、小銭が少し入っている。
ほんのわずか。
でも今のユウトには、命綱みたいな金額だった。
「異世界って意外と優しいな……」
「新人がすぐ死なぬよう最低限配っておるだけじゃ」
「急にリアル」
組合を出た瞬間。
ぐぅぅぅぅぅ。
「……」
「……」
ルゥのお腹が鳴った。
「……聞くでない」
「だから無理だって」
「うるさい!」
結局。
二人は屋台通りへ向かった。
焼き団子。
串焼き。
甘い匂い。
湯気の立つ汁物。
空腹には刺激が強すぎる。
「これ食べたいのじゃ!」
ルゥが団子屋を指差す。
「わかったわかった」
ユウトは新人支援金をぎゅっと握りしめる。
たぶん、かなり大事なお金だ。
でも。
今は腹が減りすぎていた。
「二人分ください」
「へいよ!」
焼きたての団子を受け取る。
ルゥは目を輝かせた。
「早く寄越すのじゃ!」
「熱いから気をつけろよ」
その時だった。
くいっ。
「?」
ユウトの服の裾が引っ張られる。
振り返る。
そこにいたのは、小さな女の子だった。
茶色のふわふわ髪。
丸い耳。
ぽんぽこした尻尾。
大きな目で、じーっと団子を見つめている。
「……」
「……どうしたの?」
少女は小さく口を開いた。
「……ほしい」
その声はとても小さかった。
ユウトは目を瞬く。
「お腹空いてるのか?」
少女はこくりと頷く。
「……ぺこぺこ」
すると隣でルゥがじとっと目を細めた。
「ユウト、騙されるでないぞ」
「いやでも小さい子だし……」
「この世界の妖は見た目通りでは――」
その途中で。
ぐぅぅぅぅぅ。
少女のお腹が盛大に鳴った。
「……」
「……」
ユウトは苦笑する。
「ほら」
「うぬぬ……」
ユウトは団子を一本差し出した。
「食べる?」
少女の目がぱあっと輝く。
「いいの!?」
「お、おう」
「やったー!!」
少女は勢いよく団子にかぶりついた。
「おいしーっ!!」
ほっぺをいっぱいにしながら幸せそうに食べる。
その姿は完全に小動物だった。
ルゥも少しだけ表情を緩める。
その時。
「あれ? たぬぷぅちゃんじゃねぇか!」
「今日も元気だなー!」
通りがかったおじさん達が声をかけてきた。
少女はぶんぶん手を振る。
「おじちゃーん!」
ユウトは首を傾げた。
「知り合い?」
「そりゃ有名だろ!」
おじさんは笑う。
「さっきも大食い大会で優勝してたしな!」
「……え?」
「うどん三十杯は圧巻だったぜ!」
「……えっ?」
ユウトがゆっくり少女を見る。
少女はもぐもぐしながら目を逸らした。
「……」
「食べてたんじゃん!!!」
「でも今お腹すいた!」
「燃費どうなってんだよ!?」
ルゥが頭を抱えた。
「言ったであろう……」
少女は最後の団子を飲み込むと、ぱっと笑った。
「ごちそうさま!」
「お、おう」
「おにーちゃん優しいね!」
そして。
ちょこん、とユウトの隣へ並ぶ。
「ついてっていい?」
「……へ?」
「ご飯くれそう!」
「理由が終わってる」
「我は反対じゃ!」
ルゥがびしっと指を差す。
「こんなたぬき、絶対食費で破産する!」
「しないもん!」
「する!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ始める二人。
その横で、少女はきょとんとしていた。
「……名前は?」
ふとユウトが聞く。
すると少女は、少しだけ困った顔をする。
「わかんない」
「え?」
「みんな、“たぬぷぅ”って呼ぶ」
ルゥとユウトは顔を見合わせた。
少女はえへへ、と笑う。
その笑顔があまりにも無邪気で。
ユウトは小さくため息をついた。
「……とりあえず、飯代は働いて返してもらうからな?」
「やったー!!」
「話聞いてた!?」
こうして。
ユウトたちの旅は、
さらに騒がしくなっていくのだった。




