第86話 カラベ事件 ~シブシ王の暴虐~
シブシ族の本拠地。半島である「隅の国」南部の海沿いにある、シブシの街。
「……………!」
檻車から降ろされ、引き立てられて連れてこられた先。
目隠しを外された特使三名の視界に飛び込んできたのは……豪華な広間だった。
そこは、シブシ族の「玉座の間」であった。
至る所に装飾品が、そして高級な石が使われている豪華な広間「玉座の間」は、リリ・ハン国や「灰の街」のそれよりも更に豪華な作りとなっていた。
そして「玉座の間」の中央で、豪華な玉座の前に、肥満した身体を豪華な衣装で身に包んだ中年のゴブリンが立っていた。
「貴様らが密偵どもか」
そう言って使節たちを見下ろす彼こそが、シブシ族の族長、イル・キーム王であった。
「我が国の侵略を企み、密偵を送っておきながら、友好だとか、使節団の解放を求めるだとか……片腹痛いわ!」
キーム王はそう言って、使節団が、そして特使が持参していたハーンからの、そして「灰の街」からの親書を破り捨てる。そして割き破いた親書を、縛られたままの特使三名の前に放り投げて続けた。
「我らシブシ族……『隅の国』を三百年治める王の国に対してこの様な行動……片腹痛いわ。身の程を知るが良い!」
「シ……シブシ王様!」
ランル・ランが叫ぶ様に言った。
「友好を求めての通商使節団を全員虐殺するなど……絶対に許される事ではありません!」
「あぁ?」
キーム王が凄んで見下ろすが、ランル・ランは必死に続けた。
「私はリリ・ハン国の代表として……ハーンの特使として、あなた方の謝罪と、受けた被害に対する賠償を求めます! そして、実行犯であるカラベのイナル・テューク総督の身柄をお引き渡しいただきたい!」
「我ら『灰の街』の考えも同様です!」
横で、「灰の街」のトピクス評議員も言った。
「我々の友好使節に対して、この様な蛮行を行った責任を取っていただきたい!」
「ふっ……笑わせるな」
イル・キーム王が、鼻で笑って言った。
「イナルを引き渡せだと!? 我が義弟(妻の弟)の身柄を渡すなどあり得ぬわ。それに、彼は密偵の一行が来た事を予に報告し、予の命によって処刑を行ったに過ぎぬ。何の罪があるというのだ」
「なっ……本当に、テューク総督の独断ではなく、王自身の命で行われたというのですか? 今回の仕打ちは、王自身のご意志だと!?」
シュウ・ホークの言葉に、キーム王は頷いて言った。
「無論だ」
そして、彼ら三人を見下ろしながら、続ける。
「密偵の集団を送ってきただけでも許せぬのに、更に追加で、特使と偽った密偵を送ってくるとはな。……あまつさえ、我が国に謝罪しろ? 賠償しろ? そして我が義弟を引き渡せ? 片腹痛いにも程があるわ」
そう言いながら、刀を抜いた。
「貴様らが特使だと言うのであれば、返事を返してやる。……貴様らの代表は誰だ?」
キーム王の言葉に、ランル・ランが答えた。
「……私、ランル・ランが正使です。シブシ王様」
「そうか……」
キーム王はおもむろに刀を振り上げて、ランル・ランの身体に突き立てた。
「ぐ……っ!」
刺された痛みに、ランル・ランがくぐもった声を出した。
「ラン殿!?」
シュウ・ホークとトピクス評議員が驚きの声を上げる。
深々と腹に突き立てられた刀から、血が溢れ出す。
「な……なにをなさいます、シブシ王様……。私は……ハーンの、特使……」
「だから、これが答えだと言っているだろう?」
キーム王が突き立てた刀に力をこめて、ぐりぐりと動かす。激痛にランル・ランが呻き声を上げた。
「貴様ら新興の未開ゴブリン、そして田舎商人ごときが、我ら光輝あるシブシ族に……『初夏の時代』から『隅の国』を治める我らに対して、対等な口を利く事自体が烏滸がましいのだ。
身の程をわきまえて我らに朝貢するならともかく、密偵を送り込んで、我が国の侵略を図るとはな。
その報いは……その身をもって、痛い目を見ることで受けるしかないだろう?」
「この様な行い……我らがトゥリ・ハイラ・ハーンは、決して許されませんぞ……!」
苦しい中、ランル・ランが言ったが、キーム王は鼻で笑って言った。
「何がなんとかハーンだ。小娘ごときが大層な称号を語るなど、笑わせるな。
……副使ども!」
キーム王は、副使のシュウ・ホークと、「灰の街」のトピクス評議員の方を見た。そして、残忍な笑みを浮かべて語りかける。
「貴様らの自称ハーンへの返礼として、土産を持たせてやろう」
そして、ランル・ランを見下ろして言った。
「……何か言い残す事はあるか?」
「……………」
ランル・ランは苦しい息の中、絞り出す様に言った。
「りり様……トゥリ・ハイラ・ハーン、ばんざい……!」
「ふん! 下らん……!」
キーム王が突き立てた刀を引き抜き、横に薙いだ。
くぐもった声と鈍い音と共に、ランル・ランの首が刎ねられ、ごとりと床に落ちる。
そして首を失った身体が、血を流しながら、ばたりと地面に倒れた。
「ラン殿---!!」
シュウ・ホークとトピクス評議員が絶叫する。
キーム王は意にも介さず、ランル・ランの切られた首を蹴り飛ばし、流れ続ける血を眺めながら言った。
「この首を貴様らの主に持ち帰るがいい。身の程を知れ、という言葉と共に、な」
そう言いながら、衛兵たちに指示を出す。指示に応じて、彼らは二人の身体をがっちりと押さえつけた。
「な、何をなさいます!?」
「貴様らにも、身の程を知るべき、という生き証人になってもらうぞ」
キーム王が合図をして、衛兵たちが刀を抜いた。
「貴様らの首から上の毛を、全て剃ってやる。恥ずべき姿で、貴様らの主の元に帰るがいい」
「なっ……!」
「やっ……やめろ……!」
抵抗しようとする二人を押さえつけ、小突き、殴りながら……衛兵たちは、刀で乱暴にシュウ・ホークとトピクス評議員の髪を、眉を、髭を剃り落としていく。
その様子を愉しげに眺めながら、キーム王は彼らに傲然と告げたのだった。
「貴様らの主に、シブシ王からの命令を告げるから、伝えるのだ」
そして、指を折りながら続ける。
「ひとつ。密偵を送り込んだ事に対する謝罪を行うこと。
貴様らのハーンと『灰の街』の評議長が、ここシブシか、カラベの街まで直接赴いて謝罪に来るのだ。そして我らへの忠誠を誓って貰うぞ」
「ふたつ。今回の償いとして、賠償を行うとともに、今後は我らに朝貢を行うこと。
今回カラベに送り込んで来たものと同様の朝貢品と、同数の奴隷を、今後毎年一回、我らに差し出すのだ。第一回の朝貢は、貴様らが帰ってから直ちに準備しろ」
そう言い放ち、二人を見下ろして続けた。
「この命に従わぬのであれば、王の力を。三百年に亘り『隅の国』に君臨する光輝あるシブシ族の力を知ることとなるだろう。痛い目にあいたくないなら、身の程を知ることだな」
シブシ王イル・キームは、辱めを受けている二人を見下ろしながら、高らかに笑い続けたのだった。
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