表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/262

第85話 カラベ事件 ~通商使節団殺害~

 トゥリ・ハイラ・ハーンの2年(王国歴594年)、鳥の月(5月)。

 ハーンからの特使であるランル・ラン、シュウ・ホークの二名は、「灰の街」側の使者であるトピクス評議員とともに、「隅の国」に入った。

 「隅の国」北部の街カラベにおいて、密偵の疑いを掛けられ抑留された通商使節団の解放を交渉するとともに、改めて「隅の国」を支配するシブシ族との友好通商関係を樹立する事が目的である。


 最終目的地は「隅の国」南部にある本拠地シブシであったが、まずは「リリ・ハン国」および「灰の街」の合同通商使節団が抑留されている、北部カラベの街に入った。

 「隅の国」を支配するシブシ族にとっては、最北端になる重要拠点。他国からの防衛拠点でもあるため、全体を城壁で囲まれたこのカラベの街が……後の世に歴史の転換点として伝えられる「カラベ事件」の舞台となる。


 抑留された通商使節団の様子を確認するとともに、可能であればカラベの太守、テューク総督と交渉して、早期の解放を実現する……。

 その目的のために、カラベの街に入ったゴブリン二名、人間一名で構成された一行三名であったが……街に入った途端、捕らえられてしまったのである。



「何をなさる!」「我らは、正式なハーンの特使なのですぞ!」

「私も『灰の街』の使節ですぞ! 交易を求める人間たちの代表です!」

 抗議を無視して、衛兵ゴブリンたちに腕を縛られた彼らは、太守であるテューク総督の所まで引き立てられていった。



 ……………




「侵略を目論む密偵どもめ……また来おったか」

 太守の玉座に座る、派手な衣装に身を包んだ中年のゴブリン……カラベの太守、イナル・テューク総督は、捕らえられた三人を睥睨し、吐き捨てる様に言った。


「……違いまする! 我らはハーンの特使! シブシ族との友好を求めるものです!」

 縛られたまま、正使であるランル・ランが反駁した。

「そうです! ハーンからの親書も持参しております!」

 副使を務めるシュウ・ホークも訴え掛ける。

 ゴブリンの衛兵達が彼の荷物を漁り、封印された巻物を取り出した。

「確かに、それらしきものを持っております!」

「ふん……」

 テューク総督はそれを見て、鼻で笑って言った。

「何がハーンからの親書だ。笑わせるな! 小娘が書いた稚拙な文章など、何の意味があるというのだ!」

「ぶ……無礼ですぞ! 畏れ多くもハーンに対してそのような……」

 ランル・ランが抗議するが、テューク総督は嘲って言った。

「何がハーンだ。役立たずのゴブリリごときが、未開地域を多少束ねた程度で偉そうに。我ら『隅の国』を三百年治める、光輝あるシブシ族と……そして、族長であるイル・キーム王と対等だとでも思っているのか?」

 彼は、話にならない、という表情を浮かべたが、気を取り直して続けた。

「……まあいい。貴様らの身柄は、シブシまで送ってやる。そこで王の裁きを受けるが良い」


「……待ってくだされ!」

 隣で縛られていた、「灰の街」代表のトピクス評議員が言った。

「その前に、この街で捕らわれている、通商使節団を解放して下され!」

「そうです!」「まずは使節団の解放を!」

 ランル・ランとシュウ・ホークも一緒になって訴え掛ける。

「彼らは、我々『灰の街』の人間と、ハーンが派遣したゴブリンたちの通商使節団です! 彼らを抑留するのは間違いです!」

 テューク総督は吐き捨てる様に一蹴した。

「笑わせるな。あれは我が国の内情を探るための密偵であろうが」

「違います! 友好を……通商を求めて送り出した使節団なのです! ハーンの、そして、我が議長の親書も持っていた筈です!」

 トピクス評議員が、必死に訴え続けた。

「交易のために、沢山の品物を持参していたのが何よりの証拠です! あの一部は、貴方様への……そして、シブシ族長どのへの贈り物でもあるのですぞ!」

「それは密偵である事を隠すカモフラージュだろうが」

 トピクス評議員が訴えたが、テューク総督は鼻で笑って言った。


「それに……『贈り物』なら、もう貰ったぞ」

「!?」

「あの連中が持参していた品物は……儂が全て没収した」

「な、何ですと!?」

 共同で派遣した、大規模な使節団。彼らが運搬していた大量の交易品、そして献上品が……全て彼によって没収。いや、略奪されたと言うのだ。

「何という非道な……!」

 呆然とした声を上げるシュウ・ホークの横で、ランル・ランが改めて訴えた。

「ならば、せめて使節団の身柄だけでも解放して下さい! 持ち物を奪ったというのであれば、もはや拘留する必要はないでしょう!」

 その言葉に、テューク総督は嘲笑って言った。

「馬鹿を言うな。情報漏洩を防ぐためにも、密偵として入り込んで来た連中を返すわけがないだろうが。それに……」

「それに、何ですか?」

「『もはや、返す事は不可能になった』という方が正解かな?」

 テューク総督はにやりと笑って言った。


「……奴らはもう、全員、処刑したからな」

「!!」

 テューク総督の言葉に、特使の三名は戦慄して凍り付いた。

「処刑……ですと、まさか……」

「罪の無い通商使節の者たちを……あれだけの人数を……。全員、殺した、というのですか!?」

「ああ」

 青ざめている彼らを見下ろして、テューク総督は笑いながら言った。

「密偵なのだから、情報を守るためにも、当然だろう?」

 あまりの言葉に呆然と顔を見合わせている三人を見ながら、テューク総督が部下たちに告げた。

「……見せてやれ」


 テューク総督の命令によって、三人はシブシ族の兵によって、縛られたまま東の城壁まで引き立てられてきた。

「見るが良い」

 その言葉とともに、シブシ族の兵は三人の首を押さえて、東の城壁の外側に広がっている光景を突きつけた。


 城壁の下。

 そこには……夥しい数の、ゴブリンと人間の死体が転がっていた。

「!!」

 あまりの光景に、三人が息を呑む。

 カラベの街の、城壁の外。東側の草原に、殺害された使節団の夥しい数の死体が、野ざらしになって転がっていたのだった。

 城壁の上からなので、遠巻きでしか見えないが、転がっている死体の損壊が激しいこと。そして、身につけているものが殆ど無い事が見て取れる。彼らが全員……激しい略奪を受けた事を示していた。


「な……何と惨い……何という事を……! この様な事が許されると思っているのですか!!」

「ハーンが、りり様が知られたら、どれだけ怒り……いや、悲しまれるか……」

 ランル・ランとシュウ・ホークが抗議の声を上げる。

「お前らのところの小娘がどう思おうが、知った事ではないわ」

 にやにやとして処刑された者たちを見下ろしながら、テューク総督が言った。



「こ、この様な非道に対して、『灰の街』として抗議します!」

 続いてトピクス評議員が声を上げた。

「『灰の街』からの、そしてリリ・ハン国からの友好通商使節を殺害、略奪するという事が、どれだけの国際問題になると思っているのですか! こんな蛮行を独断で行うなど、貴方の王もお許しになりますまい!」

「そうです! 一都市の総督が、国家間の通商使節団を独断で虐殺するなど、到底許されませんぞ!」

 ランル・ランも合わせて抗議したが、テューク総督は嘲笑って言った。

「許すだと? 貴様らの許しなど必要ないわ。密偵が露見したのだから、殺される。当然の事だろうが」

「ですから、密偵などではないと……」

 シュウ・ホークが反駁しようとしたが、テューク総督は押さえつける様に言葉を続けた。

「それに、この対応については当然、族長の、シブシ王の許可と指示の元に行っておる。これが貴様らの行為に対する、シブシ族としての答えだ」

「何……ですと……」

 呆然とする三人を、シブシ族の兵達が更に強く縛り付けていく。更に目隠しまで被せられ、彼らの視界は完全に閉ざされてしまった。

 その様子を見ながら、テューク総督は告げた。

「貴様らをこのままシブシのイル・キーム王のところまで送ってやる。そこで、王の裁きを受けるがいい」



 ……………



 こうして使節三人は、檻車に乗せられ、更に南……半島の南端にある港町、彼らの本拠地であるシブシの街まで身柄を送られた。

 その身体は強く縛られたまま。そして、彼らが言うところの「情報漏洩防止」のためであろうか、目隠しをされて外の様子が何も見えない状態で搬送された。

 長い時間、拘束は解かれず。目隠しも外されず、檻車に乗せて連行するその様子は……到底、国家間の特使に対して行われる対応とは思えなかった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ