表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/238

第185話 回廊の戦い(12)閃光粉末

 大音響が音の波となって、身体を震わせる。

 そして前方の戦場では、巨大な炎と煙が立ち上り、タヴェルト軍陣地の砲台が吹き飛んでいるのが見えた。


 巨大な規模の爆発の衝撃は戦場にいる敵味方全ての身体を震わせ、立ち上る炎と煙の凄まじい有様は、全ての者たちの目に焼き付いたのだった。


「……………」

 それはわたしも例外ではない。

 わたしは櫓の上でサカ君と共に並び、砲台を巡って繰り広げられた戦闘の経過を。そしてその結果である全てを吹き飛ばした爆発を見守っていた。

 わたしも、サカ君も。そして後方で立ち並んでいた廷臣たちも、目の前で展開した凄まじい有様に、言葉を発することが出来ず、呆然とした表情で見守っていたのだった。


「……………っ」

 わたしの横に立っているサカ君は……砲台を巡る攻撃に加わったイプ=スキ騎兵の主である右賢王サカは、わなわなと身体を震わせながらしばし俯いていたが……しばらくして、表情を引き締めて、わたしの方に向き直って言った。

「りり様……ハーン」

「はい」

「ハクスイ将軍率いるイプ=スキ騎兵部隊は……責任を果たしました」

 わたしは一歩踏み出して、サカ君の手を包み込む様に握りしめて、答えた。

「わたしは……朕は、確かに見届けました。そなたたちイプ=スキ騎兵の命を賭けた勇戦を。そなたたちの働きを、決して忘れる事はないでしょう。ありがとう」

 サカ君は頷き、俯きながら答えた。

「ハーンのお言葉を賜り、ハクスイ将軍を始め我が兵たちも誇りに思うことでしょう。有難き幸せにございます」



「……ハーン。イプ=スキ騎兵の働きにより、敵の切り札である砲台を破壊することができました」

 後方から、コアクトが進み出て言った。

「これで我が軍の危機もひとますは回避できたと言えます」

 更にもう一人、シュウ・ホークが進み出て進言する。

「そして、我が軍の切り札である『テツハウ弾』の威力を十二分に敵軍に突きつける事ができました。この威力、そして巨大な爆発という結果を見れば、敵軍も我が陣地への攻撃を躊躇する筈です」

 前方で破壊された砲台陣地を見ながら続ける。

「これにより、現在の防衛陣地で守り切れる確率が上がったと考えられます。ハクスイ将軍率いるイプ=スキ騎兵は充分に責任を果たし、その功績は大であると考えます」

 二人の、あえて感情を抑えての冷静な報告に、わたしも心を落ち着けながら答えた。

「……ありがとう」

 そして、サカ君を初めとする居並ぶ皆を見回しながら告げる。

「皆の言う通りです。彼らの活躍により、敵軍の切り札であった砲台を破壊する事ができました。そして、我らに強力な兵器がある事を敵軍に突きつける事もできました。この状況となれば、敵軍も我が陣地への更なる攻撃を躊躇する筈。この回廊を防衛して我らが勝利する状況が近づきました」

 わたしの言葉に、皆も頷く。

「実際には『雷撃箭』や『テツハウ弾』の残弾には限りがありますが……敵軍にはそれはわからない筈。敵も迂闊に手を出せない筈です」

「その一方で、敵軍が攻撃の拠点にする筈だった砲台陣地は破壊できました。敵軍は大きな切り札を失った事になります」

「切り札を無くした以上、これ以上の攻撃を諦めて撤退する可能性も充分にありますな。そうなれば、我らの勝利です」


 イプ=スキ騎兵の決死の働きもあり、意気が上がるわたしたちリリ・ハン国の陣営。

 しかし……。

 敵軍……タヴェルト侯の軍勢は「切り札を全て無くした」わけでは無かったし、攻撃を諦めるつもりでも無い事を、わたしたちはすぐに知ることになるのだった。



 ……………



 タヴェルト軍の陣営。


「何というザマだ、ノムト侯の客人よ」

 タヴェルト侯ドーゼウは、出城から撤退してきたクルトセンたちノムト侯の技師団を見渡して嘲笑した。

 目の前にいるクルトセン技師たちは、直前で逃げ出せたものの爆発には巻き込まれ、白衣は煤塗れに汚れていた。逃げ遅れて大怪我や火傷を負い戦線離脱した者も多く、技師団の数は約半数に減っていた。

「ノムト侯ご自慢の魔法技術を見せてくれるというから期待していたのに、あの程度のゴブリン兇奴の攻撃すら捌けずに、しかも盛大に自爆とは……。全く情けない」

「……………」

 タヴェルト侯の罵倒を黙って聞くクルトセン。

(違う……ゴブリン騎兵にあれほどの練度と覚悟が、そしてあの様な武器を持っていたのが想定外だっただけだ)

 確かに魔導砲台は爆発物の集まりであり、火気に弱いという弱点を持っている。だが、本来であればそんな事は問題は無かった筈だ。砲台「ナガマンテの鞭」と「魔燕弾(カクハヴァド)」を持ってすれば、ゴブリンの襲撃など問題なく、接近される前に撃破できていた筈なのだ。

 しかし、ゴブリンたちも火薬の兵器を保有していたという事実が。そして何より、あのゴブリン騎馬兵の卓越した技術が。命に代えても絶対に砲台を攻略するという覚悟の深さが。一瞬の油断を突いて、砲台に攻撃を届かせたのだ。

 だが……そんな反論をタヴェルト侯にしたところで、詮無きことだ。


「あの大爆発と、出城陣地の崩壊で我が軍の士気にも影響が出ておる。助勢のために派遣されておきながら、碌な成果も挙げずに我が軍の足を引っ張るとは、ノムト侯の責任も問わねばならぬな」

 嫌味な表情を浮かべて見下ろすタヴェルト侯。クルトセン技師は反論して言った。

「侯。我が主ノムト侯からいただいた兵器は、あれだけではございませぬ」

「ほう?」

 タヴェルト侯は興味を示してクルトセン技師の顔を覗き込んだ。

「砲台より少し遅れましたが、我がノムト侯軍の切り札たる『閃光粉末(ファレンホワイデ)』が輸送を完了し、到着したとの連絡が入っております。今晩……我らが誇る魔導兵器の威力を、我が主ノムト侯の真の力を。改めて侯にお見せいたしましょう」

 クルトセン技師は、自信に溢れた表情で告げた。



 ……………



 砲台を巡る戦闘から半日。

 タヴェルト侯の軍勢はそれ以上の動きを見せなかった。総攻撃を仕掛けて来るのでは……と危惧していたが、その様な動きもなく、陽が沈もうとしている。


 わたしは櫓の上に立ち、西側に沈んでいく夕日を眺めていた。

 一年の中で最も陽の長いこの時期。それでも夕焼けとともに陽が沈んでしまうと暗くなるのも早く、西側に見えるタヴェルト軍の人影も、次第に見えなくなっていった。

 その一方で、タヴェルト軍側では篝火を焚き始め、景色の向こう側には次々と赤い炎の明かりが灯り始めていた。

 陣営が夜の体制に入るのはわたしたちリリ・ハン国の陣営も同様であり、櫓の下では布陣している各部族の兵が次々と篝火を焚き始める。夕食の準備に入った陣営もいる様で、わたしがいる櫓の上にも美味しそうな香ばしい匂いが漂って来ていた。


「ハーンにご報告申し上げます。前衛陣地の再構築は、無事に完了いたしました」

 シュウ・ホークが、櫓に上がって来て報告した。

「ありがとう。これで一安心ですね」

 わたしは答えて、側に佇んでいるサカ君やコアクトと頷き合った。

 マイクチェク族の離脱により歯抜け状態となっていた前衛陣地。残された他部族の兵達を再配置するとともに、後衛から兵力を移動させて補う事で、何とか防衛ラインの再構築を無事終える事ができた。

 再構築前に敵の総攻撃があり、脆弱になった前線を突破される事が一番怖かったが……実際には敵の攻撃は無く、何とか無事に再構築を終えて防衛体制を整える事ができた。


「結局、敵軍にはあれ以上の動きはありませんでしたね」

「そうですね。やはりイプ=スキ騎兵の働きのおかげでしょうか」

 わたしはちらりとサカ君を見ながら、コアクトの声に応えた。


 やはり、あの砲台での戦闘がタヴェルト軍に心理的影響を与えたのであろうか。我が軍に高威力の「テツハウ」弾があり、砲台を破壊した事実。これが敵の目論見を狂わせ、攻撃の意欲を削いでいるのかもしれない。


「しかし、それにしても敵軍に何も動きがありませんでしたね。我が陣に乱れがある間に何か仕掛けてくると思いましたが……」

 サカ君が西方向、篝火が灯る敵陣を見ながら言った。

 敵軍が更なる攻撃を仕掛けてくる事は危惧しており、サカ君とイプ=スキ族の軍勢には出撃する準備を整えて貰っていた。しかし、結果的には出番が来ないまま夜になっている。


「このまま、敵軍が手詰まりとなってくれればいいのですが……」

「そうですね」

 もしこのまま敵軍に打つ手がないとなった場合は、再び戦線は膠着状態となる。そうなればしっかりとした防衛陣地で守り、本国からの兵站も万全で長期戦にも対応できる我が軍の方が俄然有利になる。

 このまま攻めあぐねたタヴェルト軍が撤退してくれれば、我が軍の勝利。防衛成功となる。


(もしかして、勝ち筋が見えてきた……?)

 わたしの心の中で、その様な考えが浮かんでくる。


 しかし……その直後。その様な考えが甘いという事を、わたしたちはまざまざと思い知らされる事になったのだった。



 ……………



「!? あれは何でしょう?」

 櫓から景色を眺めていた、観戦武官のレバナスが西の方を指差して叫んだ。

「?」

 その声に、櫓に居並ぶわたしたちは西の空に目を遣る。


 西側の景色。敵陣の赤い篝火が多数灯っているのが見える中に加わる様に……ぽつぽつといくつもの白い光点が灯り始めた。

 そして、その白い光は……動き始め、次第にこちらに近づいてくるのだった。

「!?」


 いくつもの白く光る何かが、空を飛んでこちらに向かって来ている。

 その白い光点は、光る粉末の様な軌跡を引きながら夜空を飛び、西の方から次第にわたしたちの陣地へと向かってきていた。

 夜闇の空を貫き、光る軌跡を残しながら飛んでくる物体。それはまるで……

「何でしょう、まるで流れ星のようですね、綺麗ですな」

 レバナスが空を眺めながら言った。


 しかし……「それ」は、そんなロマンに溢れる代物では無かった。


 その光点がわたしたちの陣地の頭上に差し掛かった瞬間。

 わたしたちの頭の上、我が陣地の上空で……その白い流れ星は、ぱあっといくつもの小さな流れ星に分裂した。

 次の瞬間、その分裂した多数の流れ星は……金切音と共に次々と我が軍の陣地に降り注いだ。

 そして、地面に衝突した瞬間、轟音と共に次々と爆発した。


「!!!!!」

 我が軍の陣地の各所に同時に降り注ぐ光弾。そして轟音とともに多数発生した爆発は、一瞬にして我が軍をパニックに陥れたのだった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ