第183話 回廊の戦い(10)てつはうVS魔導砲台2
攻撃する「雷撃隊」の先頭に立っていたチリンガ隊長を打ち抜いた砲台「ナガマンテの鞭」は、そのまま音も無く少し旋回しながら、続けざまに二発発砲する。
低い金属音とともに打ち出された2発の砲弾は、チリンガ隊長の後方を走り、攻撃のペアを組んでいたゴブリン騎兵2騎を正確に撃ち抜いた。
……………
「識別番号7-5-0-3から7-5-0-5、撃破!」
部下達が魔導表示板の表示を見ながら叫ぶ。クルトセン技師は、冷静な口調で指示を出した。
「新たな目標、640の方向」
技師たちの指示に応じて、砲台は無音で180度以上高速で旋回した。
そして、反対側から攻撃を仕掛けてきていたゴブリン騎兵の集団に対して、砲台の下部から薬莢を排出しながら続けざまに発砲した。
ドン、ドン…という低い金属音とともに弾丸が撃ち出され、一発毎に一人のゴブリン兵が正確に撃ち抜かれていく。
散弾で撃ち抜かれたゴブリン兵たちは接近する間も無く絶命した。
砲塔は続けて右側に旋回し、同様に正面方向から接近していたゴブリン騎兵の一隊を撃ち落としていく。
あっという間の出来事で、イプ=スキ族騎兵の前衛攻撃部隊「雷撃隊」は、一発も「雷撃箭」を放つ間もできずに壊滅した。
……………
「しょ……将軍! 雷撃隊が……!」
後方の「爆撃隊」。ハクスイ将軍の後方に控えていた兵が、前方の戦況を指し示して驚愕の声を上げた。
前方で突撃した「雷撃隊」のゴブリン騎兵たちは、砲台からの射撃で全滅。
高速で旋回して正確無比な射撃を行う砲台「ナガマンテの鞭」の前に、全員が射撃で撃ち抜かれ、攻撃距離まで接近する事すらできずに壊滅したのであった。
「おのれ……っ!」
後方に控えていたイプ=スキ兵の一人が激昂し、拍車を入れて馬を全速で走らせ、砲台へと突撃していく。
「ま、待て……っ」
ハクスイ将軍が慌てて制するが、もう遅く、突出したその兵は一足先に突撃に入っていた。
やむなく、ハクスイ将軍は一呼吸遅らせて右腕を掲げた。赤色の目立つ布地を羽織った右腕の合図に、周囲に展開した残り約20名の騎兵たちが一斉に加速、突撃を開始する。
「雷撃隊」の方は各方向から次々と波状攻撃を行う攻撃法であるが、彼ら「爆撃隊」は同時に一撃離脱戦法で攻撃して、一斉に「テツハウ」弾を投擲する戦法であった。
(いかにあの砲台といえど……周囲から全く同時に、全速で接近されれば対処できまい!)
ハクスイ将軍は、まっすぐに砲台を見据えながら騎馬を走らせた。
……………
「前方から識別番号7-5-2-3、更に接近! その後方周辺からはゴブリン兇奴兵約20が同時に接近中!」
魔導表示板の表示を確認しながら、部下達が叫ぶ。クルトセン技師は自信の笑みを浮かべながら呟いた。
「くくっ……。同時攻撃であれば主砲を攻略できるとの考えか。だが……甘いな。我らの武器はこれだけではないのだよ」
そして、腕を組みながら号令を発する。
「『魔燕弾』発射始め! 一斉射!!!」
「『魔燕弾』発射!!」
復唱して、部下が端末の発射指令ボタンを押した。
次の瞬間、砲台の後方にある多数の箱のような物体の蓋が、音も無く開いた。
そして、轟音とともに箱の中から、光り輝きながら羽ばたく燕の様な飛翔体が飛び出してきた。
その飛翔体は轟音とともに煙の航跡を残しながら、高速で滑空する様に前方のゴブリン騎兵たちに向けて飛んでいったのだった。
……………
「!?」
先行して突撃を開始した「爆撃隊」のイプ=スキ騎兵は、前方から二つの燕の様な飛翔体が自分の方に向けて飛んでくる様子を目の当たりにした。
光り輝き、煙の航跡を残しながら高速で向かってくる。当たるとただ事では済まない事は明らかだった。
「くっ!?」
その騎兵は騎馬の進行方向を左に曲げて迂回し、飛翔体を避けようとする。
しかし……飛翔体は空中で進行方向を変えて曲がり、まっすぐに自分の方向に向かって来たのだった。
「わ……あ……!」
その兵士が最後に見た物は、煙を吐きながら自分に向けてまっすぐに飛翔してくる、輝く二つの飛翔体の姿だった。
兵士に命中した飛翔体「魔燕弾」は、轟音と共に続けて爆発。騎乗馬もろとも彼の身体を「粉砕」した。
たちこめる爆発の煙が周囲を覆い、轟音が響き渡る。
突撃のため、彼の直後に馬を走らせていたハクスイ将軍は、煙に突っ込む形となり、何も見えなくなった。
「な……何が起こっている!?」
これまで体験した事のない、焼け焦げた匂いの煙に巻かれながら当惑の声を上げる。
先ほど目の前の部下を打ち落とした攻撃は、彼を追いかける様に空中で曲がった様に見えたが、投擲攻撃の軌道を変えて相手に向けて誘導する、空中で曲げるなど可能なのか? 攻撃魔法でも空中で曲がるものなど見た事が無い。
そんな考えを巡らせていた、次の瞬間だった。
轟音とともに、彼の前方から多数の後続の飛翔体「魔燕弾」が轟音とともに飛んで来て、彼をかすめてすれ違うように後方へと飛んでいく。
「!!?」
そして、煙の航跡と共に次々と空中で進行方向を曲げ、砲台の周囲から突撃を掛けている部下の騎兵「爆撃隊」のそれぞれに向けて飛んでいったのだった。
もはや間違いがない。この攻撃は狙う相手を認識して、目標に誘導される様に飛翔方向を曲げる事ができるのだ。
部下の兵達は、自分たちに向けて飛んで来た飛翔体を認識する。
彼らはそれぞれが精鋭の兵である。初めて見る攻撃にも冷静に反応し、それぞれ攻撃を避けようとした。
ハクスイ将軍が見遣った兵の一人は、馬に拍車を入れ、更に加速する事で飛翔体を引き離そうとした。
「振り切れっ……!!!」
ハクスイ将軍が応援する様に、願うように叫ぶ。
しかし……
飛翔体「魔燕弾」の速度の方が遙かに早く、その兵士は飛翔体に追いつかれ、次の瞬間轟音とともに爆発の中へと消えていったのだった。
彼だけではない。その周囲では、各々の方法で飛翔体を避けようとした兵達が、空中で自分の方に航跡を曲げて向かってくる飛翔体に次々と追いつかれ、打ち落とされていた。
前、左右、どちらに向けて避けようとしても、誘導された飛翔体は進行方向を変えて、正確に目標を打ち落としていく。
一部の兵は大胆にも後方に下がる形で飛翔体を避けようとしたが、そんな彼らにも飛翔体は飛行ルートを変え、どこまでも彼らを追いかけて追いつき、轟音と煙とともに彼らを打ち落としたのだった。
「そ……そんな、ばかな……」
ハクスイ将軍が呆然の声を上げる。
彼の見守る前で、飛翔体は次々と轟音とともに兵士たちに命中して、爆発音を上げていく。
次々と響くその音と爆発の閃光とともに、ハクスイ将軍の部下たちは、イプ=スキ族が誇る精鋭の騎兵たちは……何も出来ず、敵陣に攻撃する事すらできずにその命を無慈悲に、そして無造作に散らしているのだった。
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