挿話10 イプ=スキ族の弓
第三部(イプ=スキ戦争編)では、リリは部族長として最初の大きな試練に直面します。北方のライバル部族、イプ=スキ族が勢力拡大を目指して南進して来ます。
有力な軍勢を有するイプ=スキ族の侵攻をどの様に食い止めるかがこの章の鍵となります。
当時のイプ=スキ族の族長はスナ・ムーシ(右賢王サカの父)で、北方のマイクチェク族との戦いを優勢に進めており、この機会に「火の国」統一のために勢力拡大すべく、南方のヘルシラント族征服を図りました。
以降の展開でも度々登場しますが、イプ=スキ族は有力な騎馬部隊での戦闘を得意としており、短弓による一撃離脱戦法で敵軍を倒す戦法を用います。
ある意味で、この物語では最も一般的な「遊牧民族」のイメージに近く、ゴブリンの部族としてのイメージを代表する存在なのかもしれません。
短弓による一撃離脱戦法は、特に歩兵に対しては有効です。歴史的にも弓騎兵が多く用いており、本作のモデルである匈奴は勿論、モンゴル兵なども用いる戦法です。
歴史的には古代オリエントにおける「パルティア王国」がローマに対して用いたものが有名で、そのために後世では「パルティアンショット」と呼ばれています。
白兵戦を行う(有効な飛び道具を持たない)相手に対して、馬上で後ろ向きに矢を放ってから後退することを繰り返す事で、一方的に攻撃を続ける事ができます。また、敵の陣形が乱れた際に攻勢に転じる事で有利に戦う事ができるため、この戦いで遊牧民族は様々な戦いに勝利して来ました。
「パルティアンショット」(パルティアの射撃)の語源となったパルティアの戦いとしては、一方的な騎射を続け、ローマ軍を破った「カルラエの戦い」が有名です。
この戦いで敗死したローマのクラッススは、カエサルやポンペイウスとの「第1回三頭政治」の一人であり、彼の死は歴史の流れにも大きな影響を与えました。
こうした戦い方は日本ではあまり見ないですが、騎射の技術としては「押し捻り」という後方射撃の技があり、使用された場面もあるのではないかと思います。
こうした戦いは相手の射程外から一方的に攻撃する「アウトレンジ戦法」となります。日本では「マリアナ沖海戦」のためかイメージが悪いですが、本来は極めて有効な戦術であり、歴史上(戦史上)この「一方的に攻撃できる」状況を構築するために様々な努力が重ねられて来ました。現在でも巡行ミサイルなど、その流れは続いています。
ともあれ、作中の時代では極めて有力な弓騎兵戦力を有し、自信を持ってヘルシラント族を攻撃して来たイプ=スキ族ですが、リリの能力と機転による戦術により、逆にアウトレンジ状態を作られ、一方的な攻撃を受け続けて壊滅的な打撃を受ける事となるのでした。
イプ=スキ族はその後も、強弓を装備したマイクチェク族との戦いで苦戦するなど窮地に陥る事となりますが、リリに服属して以降は、改めてハーンの主力部隊としてその持ち味を発揮していく事となります。
今後も活躍する場面は多いと思いますので、イプ=スキ族に注目していただければと思います。
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