第182話 回廊の戦い(9)てつはうVS魔導砲台
リリ・ハン国の陣地を出撃したイプ=スキ族の騎兵部隊……砲台攻撃を行う騎動部隊約40騎は、タヴェルト軍の陣地に向けて隊形を整えながらゆっくりと前進した。
彼らの前方には、タヴェルト軍の前進陣地が。そしてその前面には新たに配備された魔導砲台が設置されている。
その攻撃力は不明であるが、砲台の攻撃をかいくぐって「雷撃箭」「テツハウ」弾で攻撃して無力化、砲台を破壊する事が彼らの目的であった。
「……攻撃態勢に移行せよ」
ハクスイ将軍が発声と共に手振りで指示を行う。その合図を受けて、騎兵達は整然とそれぞれの配置に移動し、攻撃に向けた隊形を取った。
精鋭騎兵部隊40騎のうち、半数の「雷撃隊」が先行して攻撃を行い、砲台および操作する敵兵たちを無力化する。その直後に残り半数の「爆撃隊」が急接近して「テツハウ」弾を投擲攻撃し、砲台を破壊する手筈であった。
先行して攻撃する「雷撃隊」の20騎が間隔を取った攻撃隊形を整えながら先行し、駈足で馬を走らせながら次第に砲台に接近していく。
その後方で、「爆撃隊」は一気に全速力でまっすぐ砲台に突撃すべく、じりじりと前進しながら加速して駈足に入るタイミングを伺っていた。
「現在の速度を保って接近、攻撃距離まで到達したら我が号令と共に加速せよ」
「雷撃隊」を指揮するチリンガ隊長が前進しながら麾下の兵達に命ずる。騎兵達は駈足で前進しながら、前方に見える砲台の様子を伺っていた。砲台が今のところ攻撃してくる様子は見えない。
「攻撃目標まで、残り2唪!」
先頭の兵が叫ぶ。彼らは歴戦の経験から、測量などせずとも、肌間隔で目標との距離を把握する事が可能であった。
ハクスイ将軍と隊長のチリンガはあの「ナウギ湖畔の戦い」の死地から生き残った猛者である。部下たちは他方面に回されていたのであの戦いを経験していないが、「隅の国」侵攻には参加しており、「オスミ高原の戦い」においてはシブシ王の軍を撃破する原動力となった。歴戦の強者であり、イプ=スキ族と右賢王サカが誇る最精鋭部隊なのであった。
「各員、攻撃ポジションに展開せよ!」
チリンガ隊長の号令とともに、「雷撃隊」の騎兵たちは散開して、砲台を取り囲む様にそれぞれの攻撃位置に移動した。
散開して砲台の周囲各方面から一斉に攻撃する事で、砲台から有効な反撃をさせない手筈であった。
その後方では「爆撃隊」の方も攻撃準備に入っていた。
「この戦いで我らイプ=スキ族の力を示し、ハーンと右賢王様に勝利をお捧げするのだ」
「爆撃隊」を指揮するハクスイ将軍が告げる。周囲の兵達が一斉に「応!」と応えた。
「全騎、『テツハウ』弾への点火準備! 投擲火縄を確認せよ! 雷撃隊が攻撃した直後に我らも突撃、砲台を破壊するぞ!」
「ははっ!」
各兵が装着している麻の火縄を確認する。投擲火縄は「テツハウ」弾に装着されており、彼らが敵陣に「テツハウ」弾を投擲すると同時に導火線に点火される仕組みになっていた。
「爆撃隊」の兵達は同時に、前方で周囲から砲台との距離をじりじりと詰めていく「雷撃隊」を確認する。彼らが突撃を開始すると同時に、自分たちも一呼吸遅らせて突撃を開始するのである。
総攻撃開始の瞬間は、刻一刻と迫っていた。
……………
対するタヴェルト軍の前進陣地。
魔導砲台の後方では、クルトセン技師率いるノムト侯派遣技師たちが、手元の光る板……魔導表示板に示されている表示を眺めていた。
彼らの前方で整然と行動して攻撃態勢に移るゴブリン兵達の動きが、幾つもの光点として表示されている。
「ゴブリン兇奴の騎兵、およそ40! 弓と榴弾により武装! 二隊に別れて攻撃してくる動きを見せています!」
「前方の弓兵たちは散開! 周囲から一斉攻撃を掛けるつもりの模様!」
部下の技術兵たちの報告に、クルトセン技師は小太りの身体を揺らしながら頷いた。
「くくく……愚かな事だ。ゴブリンの蛮族風情がこの砲台を攻略しようとはな」
前方で銀色の光を放つ砲台と、その後ろに多数置かれている箱状の物体を眺めながら不敵な笑みを浮かべる。
魔導技術に優れたノムト侯から派遣されてきたクルトセン率いる魔導技術部隊。そして彼らの根拠地「築きの国」から持ち込まれた魔導兵器の数々。
魔導兵器でゴブリンどもを薙ぎ倒してこの戦いを勝利に導くとともに、その威力を現在は友軍であるが本質的にはライバルであるタヴェルト侯に見せつけて威嚇し、「東方戦役の戦後」「ゴブリン領土征服後」の情勢で有利を構築するための示威行動も、彼らが派遣されてきた理由であった。
その事を考えると、まずは目先の戦い……攻撃を掛けてくるゴブリンたちに対して完勝すること。魔導砲台の強大な威力をまざまざと見せつけて一蹴する事が、ゴブリンたち、そしてタヴェルト侯に対しては必要となってくる。
「ゴブリン兵約40、全騎ロックオン完了しました!」
配下の技師が、魔導表示板を確認しながら訊ねた。
「『魔燕弾』による全自動迎撃でよろしいですか?」
「……………」
クルトセンは、砲台の後方に置かれている箱状の物体……「魔燕弾」発射装置を見ながら考え込んだ。
たしかに全自動モードであれば簡単に片が付くが……。
少し考えてから、クルトセンは答えた。
「……いや、手動モードで行こう。折角の機会なので砲台も使っておきたいしな。我らが主砲……『ナガマンテの鞭』の威力をゴブリン共だけでなく、タヴェルト侯に見せつけるのも、我らに課された使命だ」
「承知いたしました! 迎撃モード、手動射撃モードに変更します」
「うむ。射撃管制は、手動にて行う」
……………
イプ=スキ族騎動部隊のうち、先陣を率いる雷撃隊が、各方面から砲台へと接近した。
「攻撃目標まで、1唪!」
部下が大声で報告する声とともに、雷撃隊のチリンガ隊長は手を上げて合図をしながら大声で命令を発した。
「雷撃隊……総員、攻撃開始!」
合図とともに、雷撃隊約20騎は、一斉に馬を全速まで加速させ、襲歩に入った。
「ヒャッハー!!!」
叫びながら「雷撃箭」の弓を引き絞り、全速で砲台へと迫っていく。
全速で走る馬の背中にありながら、各ゴブリン兵の身体は全く動揺が見られない。鍛え抜かれたイプ=スキ族の騎乗技術であった。
その先頭で馬を疾走させながら、チリンガ隊長は迫り来る砲台の姿を見た。
砲台はあらぬ方向を向いており、少なくとも自分に反撃できる様には見えない。
そして、その後方ではよくわからない箱の様なものが多数置かれ、その周囲で白い服を来た連中が佇んでいる。武装はしておらず、とても自分たちの攻撃に対して対処できるとは思えなかった。
「たかが一門の砲で……何ができるというのだ!」
チリンガ隊長は自信の笑みを浮かべて、弓を引き絞った。
……………
「兇奴兵接近! 識別番号7-5-0-3、先頭で60の方向より接近!」
手元の魔導表示板と、前方から目視でも確認できる突撃してくるゴブリン騎兵を交互に見ながら、技師が大きな声で叫んだ。
クルトセン技師は全く慌てた様子も無く、白衣のポケットに両手を突っ込みながら告げた。
「右方迎撃戦闘、(指揮)端末指示の目標。撃ち方、始め!」
その指示を受けて、配下の技師が復唱する。
「識別番号7-5-0-3、主砲、撃ち方、始め」
「撃ち方、始め!!」
その言葉と共に、右手で握り込んでいた発射ボタンを押した。
……………
騎馬を疾走させて突撃するチリンガ隊長の目の前で……前方にある主砲、「ナガマンテの鞭」が音も無く高速で旋回した。
そして、砲塔がまっすぐ自分の方向を向く。
「!!?」
驚く間も無く、次の瞬間、低い金属音とともに砲弾が撃ち出される。
高速で打ち出された砲弾は正確にチリンガ隊長に向かって飛翔し……彼に着弾する少し手前で炸裂した。
信管の作動により炸裂した砲弾は、多数の散弾となってチリンガ隊長の身体を貫く。
「!!!!!っ」
全身を打ち抜かれたチリンガ隊長は、悲鳴を上げる間もなく絶命した。
散弾は彼が騎乗する馬の全身も打ち抜く。傷ついた馬は、破壊されたチリンガ隊長の身体を乗せたまま数歩走り……崩れ落ちる様に倒れたのだった。
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