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第180話 回廊の戦い(7)魔導砲台の脅威

 時は再び遡り、トゥリ・ハイラ・ハーンの4年(王国歴596年)、水の月(6月)2日。


 ク=マ回廊に展開したわたしたちリリ・ハン国の軍勢は、マイクチェク族の無断撤兵(「隅の国」への出兵)という非常事態への対応に追われていた。

 そして、当面の対策について相談しているわたしたちの元に報告されたのが……タヴェルト軍側が攻勢に出るという兆し、そして前線に出城の形で陣地が増設され、謎の砲台の様な兵器が設営されているとの報告であった。


「……………」

 わたしは、陣営の櫓に上り、「眼鏡の人の眼鏡」をコアクトから借りて、敵陣営を眺めていた。

 眼鏡の効果で、草原を挟んだ向こう側、タヴェルト軍の陣営で兵士達が慌ただしく動いているのがはっきりと見える。

 両軍向かい合って膠着状態にあったこれまでに無かった動きであり、我が軍でマイクチェク族が抜けた事を察知して、攻勢に出ようとしている動きであると考えられた。


「……これは、タヴェルト軍が攻めてきそうな動きですなぁ」

 櫓の上、わたしの横に立っている中年の人間男性が、言葉とは裏腹に軽い声で言った。

 彼は「灰の街」から送り込まれていた観戦武官、レバナスであった。

 わたしより背が高い彼は、遠望を望遠する魔道具であろうか、両側に硝子が嵌め込まれた筒の様なものを通してタヴェルト軍を眺めていた。


「偉大なるハーン。恐れながら、攻勢に移られたらピンチなのではないですか? 守り切れるのですか?」

 そう言いながら、敵軍を眺め続けるレバナス。

「我が国の軍勢は堅陣を構築し、各部族の兵達かしっかりと守っております。ご心配にはおよびませんわ」

 わたしの横に控えていたコアクトがきっぱりと答えた。

「そうですかぁ? でも、マイクチェク族が抜けた影響は大きいのではないですか? 陣形の乱れ具合を見ると、無断で陣を引き払って離脱した様に見えますが……」

「マイクチェク族は、『隅の国』の反乱を鎮圧して後方を固めるために、ハーンが征東将軍に任命して派遣したのです。計画的な転進です」

 同じく控えているシュウ・ホークが、「公式にはそういう事になっている」建前をレバナスに語った。

「計画的な転進ですか……」

 レバナスが曖昧な表情で頷いた。

 勿論我が陣営の状況から、実際にはマイクチェク族が突然無断離脱した事は明らかである。そして、観戦武官である彼は既に報告の文烏(ふみがらす)を飛ばしている筈。この情報は既に「灰の街」には伝わっていると考えるべきたろう。

 そしてここから更に我が軍の形勢が不利になった場合も、……そして、もし敗北してしまった場合も、観戦武官であるレバナスを通じて直ちに「灰の街」に伝達されると考えるべきだろう。それは、我が国に対する「灰の街」の去就にも影響してくるであろう事は、考慮しておく必要があった。


「まあ、それはいいとしても、問題はあの新たに作られた出城陣地ですな」

 レバナスが、タヴェルト軍の前方に新たに設営された陣地を示しながら言った。

「あの出城によってタヴェルト軍の防衛ラインはより近くに前進します。それを拠点に圧力を掛けられたら、兵力が欠けたハーンの軍勢にとってはよろしくないのではないですか」

 そう言ってから、レバナスははっと気がついた様な表情になって言った。

「あ……参戦国でないところの観戦武官であるわたくしが勝手な助言をしてはいけませんでしたな」

「いえ……。あなたが言われる事は、わたし……朕も認識しています」

 わたしはそう答えて敵軍の陣営を見た。


 レバナスの言う通りであり、今回タヴェルト軍が新たに出城(陣地)を設営したのは、陣地の前線を前方に進める事で、我が軍への圧力を高めるためだろう。

 より前進した陣地から圧力を掛け、我が軍の乱れを見定めて一気に敵軍を前進、総攻撃を掛けて我が軍の防衛線を撃破する事を狙っているのだろうう。

 確かにマイクチェク族が離脱した直後である我が軍にとっては強烈なプレッシャーであり、兵達を更に動揺させる事になる。陣の乱れと兵達の動揺を見れば、タヴェルト軍は一気に攻勢に出てくる事だろう。


 今総攻撃を掛けられるのはまずい。少なくとも我が軍が完全に落ち着いて再編成できるまでの間、できれば敵軍が出城を起点にして、前線を詰めてくる事は避けたいが……そのためには、あの出城を「なんとかする」必要があるのだった。

 だが、今回増設された「出城」は、ただの前進陣地ではない様であった。


「あの出城に設置されている銀色の物体は何なのですか。砲台なのですか?」

 見たこともない、銀色の筒の様なものから、棒が突き出している様な物体を見ながら、わたしは訊ねた。

 「眼鏡の人の眼鏡」の効果でその姿ははっきりと見えるが、結局何なのかはわからない。

 人間より二回り大きくいらいの大きな銀色の筒。そして周囲に置かれた多数の箱の様なもの。一帯何なのだろうか。

「わかりませんが、人間の勢力圏に多く残っていると聞く、古王朝時代の流れをくむ兵器ではないでしょうか」

 シュウ・ホークの言葉に、わたしははっとして改めてその物体を見た。

「もしかして……文献で読んだ事のある、魔導砲台!? 古王朝時代にはその様な兵器があったと書いてあるのを見た事があります」

「私も見た事がありますわ」

 コアクトが頷いて続ける。

「人間の勢力……特にノムト侯の領地では現在でも古王朝時代の遺物が数多く残っており、その流れを受けて魔導技術も高いと聞いた事があります。タヴェルト侯は現在ノムト侯と同盟を結んでいますし、魔導砲台の供与を受けているのかもしれませんね」

「そうなると、あの砲台、侮れませんね。どの様な能力を持っているのでしょうか」

 わたしがそう訊ねると、コアクトは首を傾げた。

「それはわかりませんね……私も、文献に絵が載っているものは見ましたが、詳しい説明は無かった気がします」

「そうですねぇ……」

 わたしも頷く。わたしが読んだ文献でも、載っている情報は同じレベルであり、具体的な能力については載っていなかった。

「しかし、もしあれが古王朝時代の魔導砲台であるとすれば、極めて高い能力を持っていたとしてもおかしくありません。例えばもし、あの距離から我が軍の陣地に攻撃が届く武器であれば……大変な事になります」

「それは……何とかせねばなりませんね」


 現代の技術では、普通の投擲兵器では、あの距離から我が陣地を直接攻撃する事は不可能だ。

 しかし、あの砲台が古王朝時代の技術で長距離攻撃が可能で、あの距離から我が軍に一方的に砲撃できるとなると……戦闘は一方的なものとなり、我が軍の防衛体制が崩壊する事になる。

 あの砲台がどの様な兵器なのかはわからない。

 しかし……本格的に稼働する前に、何とかして破壊しておく事が必要であった。


「何とかする……破壊するとしてもそれはそれで大変そうですな」

 横に立っているシュウ・ホークが言った。

「もしあれが古王朝時代の兵器だとすると、砲台としての能力も高い筈。防御力、迎撃力も高いとみるべきです」

「そうですね。そして後方にタヴェルト軍の本陣が控えている以上、歩兵部隊を前進させるわけにもいきません。不利な状況での野戦になってしまいます」

「……そうですね。陣地での守りをみすみす捨てて不利な戦いに持ち込む様なものです」

 コアクトの発言にわたしは頷く。

 わたしたちが相談する様子を、レバナスは黙って聞いていた。「灰の街」の観戦武官である彼に、我が軍が「打つ手が無い」と思われるのは宜しくないが……。


「ハーン、我らにお任せ下さい」

 その時、後方からサカ君が進み出て言った。

「我がイプ=スキ騎兵部隊の攻撃により、あの砲台を破壊してご覧に入れます」

「サカ君……いや、右賢王よ。あなたたちイプ=スキ族の部隊があの砲台を攻略するというのですか?」

 わたしの問いに、サカ君は頷いて続けた。

「はい。我らイプ=スキ族の精強なる騎兵部隊にお任せ下さい。そして……」

 前に進み出て、言葉を続ける。

「今こそこの場に、我らの切り札、『雷撃箭』と『テツハウ弾』を投入すべきだと考えます。使用を許可していただければ、我らイプ=スキ騎兵部隊の手で、あの砲台を破壊してご覧に入れましょう」

「右賢王様、誠でございますか?」

 コアクトの言葉に、サカ君はしっかりと頷く。

 献策を採用するべきか、わたしたちは考え込んだ。


 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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