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第177話 十四代の乱(5)反乱軍撃破

 クシマの街にマイクチェク族の軍勢が出現、反乱軍の先遣隊が撃破されたとの情報は、反乱軍の拠点、シブシの街まで伝わった。

「まさか、回廊からマイクチェク軍が派遣されてくるとは……」

 ショウウンを初めとして、反乱軍首脳部の者たちは焦りの表情を浮かべていた。


 ハーンの主力軍はタヴェルト軍に対抗するために「ク=マ回廊」に貼り付けられていて、当面の間は「隅の国」に送り込めるだけの兵力が存在しないという事が、この反乱の前提条件となっていた。

 出てくるとしても、せいぜい国司軍の残存兵力程度だろう。反乱軍を遮る兵力は存在せず、最低でも半島(隅の国)のほぼ全土を制圧し、最後の拠点であるカラベを包囲するところまでは持っていけるだろう。そしてもしカラベ陥落まで達成できれば、ハーンの本国である「火の国」まで進出する事も可能となる。それが当初の目論見であった。


 こんな早い段階で、回廊から新たな兵力が送り込まれてくる事は想定外だった。

 思ったよりも早く、回廊での戦いに決着が着いたのか? いや、そんな情報は入っていない。まだタヴェルト軍とハーンの軍勢は回廊で睨み合っている筈だ。そんな状況で軍勢を割いて「隅の国」に送り込める筈がないのに、何故……?

 ともあれ、現実に討伐軍が……それも、最精鋭であるマイクチェク族の軍勢が差し向けられている以上、対策を考えなければならない。


「ショウウンどの。この事態、大丈夫なのですか?」

 盟主の少年、シブシ王カ・キームが心配げな表情で訊ねる。

「……初期の想定とは状況が変わりましたが、問題ありません」

 ショウウンは少年を落ち着かせる様に言った。

「どのみち、いずれ『回廊での戦い』に決着が着き、軍勢が送り込まれて来る事は想定済みです。そしてその軍勢を迎撃、撃破する事で我らの……隅の国の、シブシ族の独立を達成するのが我らの計画です」

 そして、地図を見せながら説明する。

「計画よりは早まりましたが、ハーンの討伐軍を食い止める事ができれば、我らの再起は達成できます。そして、その『勝ち方』次第では更に領土を広げて、『隅の国』だけでなく『火の国』にも進出、果てはハーンに変わって大陸南部を領有する事すら可能になるのです」

「それはいいのですが、ハーンの討伐軍を撃退できるのですか?」

 少年王の問いに、ショウウンは自身ありげな表情で頷いた。

「問題ありません。既にシブシの街の北方に、前線の砦4カ所を設置、防衛ラインを設定しております。それぞれの砦で防戦し、ハーンの討伐軍を削り殺す計画です」

 正面盟主をみつめながら続ける。

「……そして、万が一全ての砦が抜かれたとしても、その時は我らシブシ軍本隊が迎撃に出陣して迎撃すれば問題ありません。我がサタの街の軍勢、そしてシブシ王たる貴方様の声望で集まった軍勢の力をぶつければ……前線の戦いで疲弊し削られたハーンの軍勢など敵ではありません」

「なるほど……そうですね」

 頷く少年盟主に、ショウウンは笑顔を浮かべながら言った。

「まずは前線の防衛線を守る我が軍の奮戦にご期待くださいませ。いずれも精兵でございます。若君……シブシ王様が出るまでもなく、ハーンの軍勢など撃退……」


 その時だった。血相を変えて伝令兵が飛び込んで来て、悲鳴の様な声を上げて報告した。

「き……急報です! ハーンの……マイクチェク族の軍勢がシブシ北方付近に出現! こちらに向かって進軍中です!」

「ば、馬鹿な! 前線からの報告は来ておらぬぞ! どういうことだ! 各砦の防衛線はどうなったのだ!」

 ショウウンが驚愕の表情を浮かべながら訊ねる。

「状況から考えるに、各防衛ラインの砦と防衛軍の全てを壊滅させて来たとしか考えられませぬ……!」

「そんな……クシマの街に出現したとの報告から、十日も経っておらぬぞ……!」

 シブシ族の諸将たちが震える声で顔を見合わせた。



 ……………



 6月5日にクシマの街を解放したウス=コタ率いるマイクチェク族の軍勢は、数日間街に留まり、犠牲となった部族の民たちの弔いを行った後、南下を開始。


 シブシ族反乱軍側は、砦4箇所に防衛ラインを設置。装備が充実したサタの街の軍勢、そして各所から集まった士気の高いシブシ族の軍勢が配備されており、精強な軍勢であったが……。

 マイクチェク族の軍勢は更に、そんな彼らとは比較にならないほど、強かった。

 元々がリリ・ハン国で最強と言われる大柄な体躯の精兵。そして充実した装備。更に……自部族の民衆が、家族が殺戮されて、怒りに燃えるマイクチェク族の兵たち。彼らの圧倒的な力に、各拠点を守る反乱軍の軍勢はなすすべもなく一瞬で打ち破られた。

 マイクチェク軍の軍勢は、各所での合戦全てに鎧袖一触で圧勝、僅か5日ほどで、全ての砦を撃滅、防衛ラインを突破してシブシの街の目前まで兵力を進めてきたのであった。

 あまりの勢いに、各防衛ラインの者たちは救援を呼ぶことも、来襲を知らせる伝令を出す間もままならない状況で撃破され、反乱軍の首脳たちにとっては、充分な戦況を知ることができないまま、突如マイクチェク軍が本拠地の目前に出現する格好となったのだった。



 ……………



「うろたえるな!」

 狼狽するシブシ族の諸将たちに、ショウウンが窘める様に言った。

「我らがシブシ王の本軍で、ハーンの討伐軍を撃破すれば良い! 当初とは形は違えど、元々の計画通りだ!」

 そして、盟主たる少年、シブシ王カ・キームの側に歩み寄り、肩に手を当てて言った。

「ご安心ください、若君……我らが王よ」

 そして、その場に集う諸将と街に待機する兵たちを指し示しながら続ける。

「我らが王を奉じて立ち上がり、シブシ族の再興という大義に燃えるこれだけの精兵たちがおります。出撃してハーンの軍勢を迎え撃ち、積年の我が部族の思いを。ハーンに虐げられた怒りをぶつけてやりましょう」

「……わかりましたショウウン殿。頼りにしていますよ」

 カ・キームの言葉に、ショウウンは力強く頷いた。

「王の下に集いし、我らサタの軍勢と、シブシの民達の連合軍。その力は誰にも打ち破ることはできません! 明日は貴方の……シブシ王の軍勢の力、その神髄をお見せいたしましょう! 者ども、頼んだぞ!」

 ショウウンの呼びかけに、諸将たちが、そして周りに集まったシブシ族の民衆たちが、応!と掛け声を上げた。



 ……………



 翌日、トゥリ・ハイラ・ハーンの4年(王国歴596年)、水の月(6月)13日。

 ショウウン率いるシブシ族の反乱軍本隊は、シブシ王カ・キームを奉じて出陣。本拠地シブシの北方まで進軍していたマイクチェク軍と相対した。


 向き合った両軍。異様な雰囲気と、凄まじい圧力を感じさせるマイクチェク族の軍勢に内心気圧されながらも、軍勢を主導するショウウンは前方に進み出て言った。

「我こそはサタの領主にして、シブシ王の宰相、ショウウンである! そして、者ども控えよ! こちらにおわすは、シブシ族復興の大義のために立ち上がりし、我らがシブシ王……」

「マイクチェクの勇士たちよ! 奴らが反乱軍の首魁だ!」

 蕩々と口上を述べ始めたショウウンを目にすると、マイクチェク軍からウス=コタが進み出て、指を突きつけると大声で叫んだ。

「俺たちの同胞を、家族を殺した奴らだ! 絶対に許すな! ぶち殺せ!!!」

「おうっ!!!」

 後方でマイクチェク族の兵たちが一斉に大声で応え、凄まじい迫力で前進を開始する。その威圧感に気圧されてショウウンの口が止まった。

「ハーンに反逆する賊どもだ! 一人たりとも生かして返すな! ラナイカ! カマホル! 両翼から押しつぶせ!」

「御意!」

 命令に応じて、ラナイカ、カマホル両将軍が率いる左右両翼の軍勢が包み込む様な動きで突撃を開始する。

「ひ……ひいっ!」

 鬼気迫る迫力のマイクチェク族の攻撃。元々体格が一回り違い、充分な装備で武装しているマイクチェク族。そしてそんな彼らが怒りに燃えて凄まじい勢いで攻撃してくるのだ。

 勿論シブシ族の兵達も、抑圧への怒りや部族復興の理想に燃えて立ち上がり、士気高い者たちであり、サタの街の経済力の後ろ盾により、装備も比較的充実している。

 しかし……マイクチェク族の士気と迫力、そして戦闘力は彼らとは比較にならない高さであった。


 ぶつかり合う両軍であるが、その力の差は歴然であった。

 凄まじい勢いと気迫で迫るマイクチェク族の攻撃の前に、シブシ族の軍勢は各所でなすすべもなく撃破され、防衛戦は突破された。

 シブシ軍の両翼を撃破したマイクチェク軍は敵軍を包囲する陣形に移行、元々の戦力差もあり、包囲網の中でシブシ族の軍勢は次々と殺戮されていき、見る間に壊滅状態に陥った。

「ば、馬鹿な……これほどまでに強いとは……」

 包囲された軍勢の中心で、反乱軍の首謀者ショウウン、そして盟主であるカ・キーム少年は、見る間に壊滅していく自軍を呆然とした表情で見回していた。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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