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【4000view感謝】恋愛ゲームの世界なのに私は攻略対象キャラじゃないので情報屋になろうと思います  作者: フユめん


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12/42

氷解

「ま、お人形さんみたいね〜。撮影かしら? あら違うの、でもとっても可愛いわね〜。お写真撮らせて貰ってもいいかしら?」

 清桜駅前、朝倉くんを待っていると、フリフリドレス姿のアタシを見たマダムが、話しかけてくる。

 褒められるのは嫌じゃないけど、そこまで褒められると少し照れる。

 この駅前には、すぐそこにロリィタショップがあるから、ロリィタな娘もたまに見る。

 この人は、ロリィタを見る度に、こうして話しかけてるんだろうか。話しかけてるんだろうな。

「いえ、そんな……可愛いだなんて……」

「ふふふ、謙遜しなくても良いのよ。最近見たロココ調のドレスを着た娘の中だと、貴方が一番美人よ」

 そう言うと、マダムはブランド物のバッグから、立派な一眼レフを取り出して、一枚写真を撮った。

「ありがと、おかげで目の保養になったわ」

 マダムは満足した様子で、手を振って去っていく。

 まだデートが始まっても無いのに、どっと疲れた。

 こんな事なら、約束の時間ピッタリに来ればよかった。朝倉君は、時間ピッタリにしか来ないんだから、先に来る必要なんて無かったのに。

 お店で着付けしてもらわなきゃならないにしても、早く来すぎた。

カーン……カーン……カーン…………

 時計の鐘が10回鳴った。まさにその瞬間、朝倉君がやって来る。

 待ち合わせの時間、10時。嘘みたいに、一分の狂いも無い。

「橘………さん?」

「あ……、朝倉君………」

 朝倉君は、ロリィタドレスのアタシを見て、不思議そうな顔をしてる。というか、目の前にいるのが本当に橘さやかなのか、半信半疑というリアクション。

 そうだよね、制服か道着かジャージかのアタシが、お姫様みたいなドレスを着てたら、びっくりするよね。

「変かな……? 」

「そういう訳じゃなくて、その……橘さんって、こんなに可愛かったんだって……」

「え、あ……、あり……がと……」

 急に可愛いとか、言わないで欲しい。照れる。顔が熱くなる。

 さっきのマダムに褒められた時は、照れはしたけど、顔は熱くなったりしなかった。

 朝倉君に可愛いって言われると、何故か心臓がドキンとなって、胸がキュッとなって、顔が熱くなる。

 これはきっと、慣れない格好をしてるせい。そう、きっとそうだ。

「えっと……、コメット珈琲に行くんだよね?」

 あ、そうだった。

 これから行くのは、大盛り料理で若者や肉体労働者に人気があるコメット珈琲だ。

 その予定を、佐伯さんと小鳥遊さんに伝えてなかった。

 しまった。それを伝えておけば、あの二人ならTPOを考えて、それなりの格好にしてくれたはずなのに。

「あ……、この格好で行く店じゃない………よね?」

 あー、完全に失敗した。アタシの馬鹿。なんで忘れてたの。

「えっと……その………」

 朝倉君が、言葉に詰まってる。

 そうだよね。デートにこんなの着てくるなんて、おかしいよね。

「いや……、実は下見に行った時、居たんだよね、橘さんみたいな服のグループが……」

「え?」

 下見に行ったって、もしかして、今日のために行ってくれたの? しかも、似たようなドレスを着た人も居たって。

「その人達は、楽しそうにしてたし、店員さんも特に気にしてなかったから、多分大丈夫だと思う。あ、その時はコーヒーしか飲まなかったから、カツサンドはまだ見てないよ」

 朝倉君は、言い淀むのを止めて、普段の爽やかな笑顔に戻った。

 その笑顔を見たら、緊張感がすっと解けて、ホッとした。

 さっきのマダムも、朝倉君も、ロリィタショップの店員さんも佐伯さんも小鳥遊さんも、この格好を手放しで褒めてくれたんだから、ウジウジしてたら、かえって失礼だ。堂々としていよう。

「そっか……、行こう、朝倉君」

「うん、行こう」

 朝倉君は、自然な様子で隣に立ってくれる。

 この人の隣に立つと、不思議と安心する。理由は分からないけど、居心地がいい。

 この人といると、幸せな気持ちになる。

 この気持ち、なんでかな? なんでこんなに、この人の隣が心地良いんだろう。

*********

「すごいボリュームだったね……」

「うん、写真より大きいとは聞いてたけど、ここまでとは思わなかった」

 コメット珈琲店名物、逆写真詐欺カツサンド。デカい! ヤバい! って噂には聞いてたけど、想像以上だった。

 ただでさえ大きいカツサンドの付け合わせに、ミニカツサンドが付いてきた。意味が分からない。

 アタシも朝倉君も、結構食べる方だと思うんだけど、その二人で精一杯の量だった。

「今日はもう、何も食べられないね」

 朝倉くんは、膨れたお腹を撫でながら言う。

「うん……、食べ歩き、出来なくなっちゃったね」

 喫茶店で、軽くつまんでから、食べ歩きを楽しむつもりだったのに、全然軽くなんてなかった。

 これからどこに行ったらいいのか、朝倉君が立てたプランは、全部ダメになってしまったはず。

「ゴメン。アタシがコメットに行きたいって言ったから」

「いや、二人で食べるのは、すごく楽しかった。それに、食べ歩き以外にも、楽しい事はあるよ」

 朝倉君は、爽やかに笑ってそう言った。アタシが申し訳なく思ってるのを、察してくれたんだろうか。

「ついてきて」

「えっ……、ちょっ……ちょっと」

 朝倉君は、アタシの手をとって歩き始めた。

 急な事に戸惑って、声がうわずる。

 デートで手を繋いで歩くなんて、いよいよカップルみたい。アタシ達は、そんな仲じゃない、ただの友達。一緒にご飯を食べに来ただけだ。

 って何考えてるの、アタシ。

 せっかく二人で来たんだから、恥ずかしがってないで、楽しまないと損だ。手を引かれるがまま、ついていけばいいんだ。

 ついて行く先々で、街の景色が広がっていく。毎日見てるはずの景色なのに、今日はいつもより輝いて見える。

 隣に朝倉君が居るから? 服が可愛いから? 

「ちょっ……ちょっと待って……!」

 手を引かれるのは、嫌じゃないはずなのに、思わず声をかけてしまった。

「えっ、あ、ごめん……」

 朝倉君は、女の子の手を握るのが何を意味するのか、ようやく気がついたのか、慌てて手を離そうとする。

「違うの! 手は……その……嫌じゃなくて……えっと………」

 その手を、もう片方の手で掴んで止めた。

「手を繋ぐなら、横を歩きたいなって……」

 アタシは何を言ってるんだろう。頭に無い言葉が、口をついて出てくる。恥ずかしくて、顔が熱い。自分で言っておいて、自分で照れている。

 朝倉君まで、赤くなる事ないのに。我ながら大胆な事を言った自覚はあるけど、赤くならないで。

「あ……ああ、うん、そうだね」

 朝倉君は、すっと手を繋ぎ直して、アタシの横に並んで歩き出した。

 アタシも、手を握り返す。向こうに主導権を渡したら、気を保ってられない気がして、少し強めに。

 さっきまで緊張してたのに、並んで歩くようにしたら、今度は目に映る景色が、さっきよりずっとキラキラしてる。理由は、分からない。

 そっと、アタシは隣の朝倉君を盗み見る。

朝倉君も、アタシを見る。顔を合わせて、どちらからともなく、笑い合う。

 やっぱり、この人といると幸せだ。


「いらっしゃいませ〜」

 朝倉君に連れられて着いたのは、絵に描いたようなファンシーショップ。

 店のどこもかしこもパステルカラーで、アクセサリーとかぬいぐるみとか、女の子が喜びそうな物だらけ。

「橘さん、こういうの嫌い?」

 アタシが戸惑ってるのを見て、朝倉君は不安そうな顔をした。

 こんなフリフリドレスを着た女なら、カワイイ物が好きに決まってるって思ったのかな。うん、正解、その通り。

「嫌いじゃない……、というか、好き………」

 アタシがそう言うと、朝倉君は、ほっとしたように笑った。

「よかった、橘さんの服装を見た瞬間、絶対ここの店が合うって思ったんだ。食べ歩き出来なくて、結果オーライだったね」

「うん、連れてきてくれてありがと」

 アタシがお礼を言うと、朝倉君は「どういたしまして」と笑った。

 この、フリフリドレスが役に立ったのかな、このドレスが、アタシ達をここに導いたと言うなら、佐伯さん達に感謝だ。

「橘さん、はいこれ」

 朝倉君が差し出してきたのは、大きなテディベア。白くて、フワフワの、つぶらな目がカワイイ熊さん。

「これ、プレゼントさせてよ」

「えっ……、でも………」

 こんな大きさのテディベア、安くはないはず。朝倉君に買ってもらうのは悪い気がする。

「俺からじゃダメ?」

「ダメじゃない……」

 欲しい。持って帰りたい。けど、男の子に買ってもらうのは……って思うけど、ダメじゃない、むしろ欲しい、贈ってもらいたい。

「じゃあ、決まり」

 朝倉君は、アタシの胸元に、テディベアをぽふんと収めてくれる。ほわほわの毛が、あごに触れる。

「……ありがと、すごく嬉しい」

 アタシは思わず、テディベアを抱きしめて、顔を埋めた。

 可愛い、欲しい。でもこんな大きいの、買わせちゃっていいのかな。

*********

「ありがとう、今日は本当に楽しかった」

 帰り道、家の前まで送ってくれた朝倉君に、お礼を言う。今日一日で、ありがとうを何回言っただろう。

「こちらこそ、ありがとう。また一緒に遊ぼうね」

「うん、またね」

 今日からは、もっと素直になれる気がする。

 空手女が、カワイイ物好きだっていいじゃないか。隠す必要なんて、無かったのかも。

 朝倉君は、受け入れてくれた。佐伯さん達も、可愛いって言ってくれた。みんな、アタシの好きを受け入れてくれた。

 それもこれも、佐伯さんのおかげ。小鳥遊さんを連れてきてくれたのも、佐伯さんだ。

 アタシに、これだけの幸せをくれた佐伯さん。

 それなのに、佐伯さんは恋愛を諦めて、人の恋路ばかり応援してる。

 諦めた理由が、何かは分からない。でもいつか、佐伯さんも自分に素直になって、恋を楽しめるようになってほしい。

 いつかきっと、そんな日が来ますように。

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