第8巻、目覚めた鬼と銀世界ライブ
前回のあらすじ3行。
「人魚姫の世界を一面銀世界に変えてしまった正体不明の氷の女と交戦するが、その最中にキネシスを『カイ』として操られてしまう」
「敗北し海に沈んでいくアルジは人魚のデヴィガイオに助けられ、海底の人魚王国マリネリアの病院で治療を受けていた」
「キネシスを連れ戻すため、アルジは徹夜で新たな武器と強化アイテムを開発。デヴィガイオは国王の父から金色の三叉槍・海神槍トライデントを託され、二人は再戦のため地上を目指すことに」
「何だここは…、ってアッツ!?」
(なんだ、鎧ん中に入れっぱのオートカイロか……)
それにしても、天井は洞窟のような……。そんで、見渡す限り窓の無い氷の壁、壁、壁…。
「ワシは何故ここに?そういえば、クールとナスは……」
壁の表面に映った自身の顔に気付き、思わず両手を顔に当てる。
「な…何じゃあこりゃ!?」
2m以上ある鋼の全身が氷に覆われ、頭の両角まで完全に埋まってしまいショックを受けている。
その時、此処へ来た時の記憶を思い出した。
「そうだ……。ナスが偽人魚に改変光線を当てた後、突然全員が氷漬けになったがその後の記憶が曖昧やぞ……」
「カイ……」
アイツだ。
廊下を遮る扉も無いのでよく見える。この前連れて来たあの青白いニンゲンも一緒だ。
うーむ、磔にされた水着の姉ちゃん相手に何やら良からぬことをしているとみた。
(部下の仇め……。そうだ、まずはあの雰囲気を邪魔してやろう)
「女王様!お食事の用意が出来ました!死にたての、新鮮なニンゲン肉でございます」
生モノの嫌な臭いが充満する部屋からエサにしていそうな老若男女の人間の死体20~30ある中から若い男性の遺体を運び出し、両手を合わせて黙祷してから腹部を爪で裂き、キッチンワゴンのようなものに乗せてきた。(早くエネオプ本社に帰りたい……)などと考えながら。
「ころすぞ、ゾーコ」
「アッ、ヒャイ!!」
(お、おっかねぇ~!オイルチビっちまうかと思ったぁぁ~~~⌒,_ゝ⌒~~~)
青白っぽい女王様は水着の美人から離れると、振り返って手を探るように前へ突き出し、ワシが氷のテーブル上に盛ったエサの前へ移動してきたので部屋から抜け出す。
「カイとの至福の時間を邪魔するとは許せぬ…」と部屋の外から独り言が聞こえてしたり顔のゾーコ。
「アレなら暫くは部屋に籠るだろうよ。んで、次は……と」
クールの面影を感じる氷の鬼を見つけて手を振った。のだが、まるで反応がないまま何処かへ行ってしまう。と、今度はナスだったような雰囲気の同族を見つけた。
「おーい、ナス。ワシだぞ、ワァ~シィ」
「…………………………」
あかん。二人とも、まるで抜け殻のようだ……。
(仕方がない。こうなればワシだけでも)
吹雪が吹き込む洞窟のような根城の入口を抜けてきた。
(じゃあな。クール、ナス。――あれは、まさか)
入口の右に見覚えのありそうな黒い棒のような何かが落ちていることに気付く。
(これはこれは、物語改変光線銃か!ヤツに再び使えればまた大人しくなったりしてな~!)
だが、ゾーコも内心思ったこともある。
(あんな狭い空間で使ったら反撃されそうで怖いぞ……。隙を見て何処かで使えればいいのだが)
リスクを考え、銃を回収するとそそくさと離れることにした。
「地上に近づくにつれてより寒い、になってます!」
赤紫色のサイドポニーが特徴的な王国マリネリアの人魚姫、デヴィガイオ。
「だな!どうせ濡れるからとあんま気にしなかったけど、防寒もう少し考えりゃよかったかこりゃ~」
水中だろうとお構いなしにいつもの黒い縦縞模様のオフィスカジュアル、アルジ・キミヒト。
(ブランド物だからあんましあの上着使いたくねえっつうか……)
二人は王国の国王から借りたタツノオトシゴに騎乗し、ハイペースで地上の流氷を目指していた。
「アルジ。あのひどい怪我はまだ治っていない、になってないか?」
「問題ないね。オレは変身種族チェンジノイドなんだが、変身先に合わせて自身の細胞組織を入れ替えたりするために再生力が進化しているお陰で、致命傷でない限りは短時間で元通りさ」
デビ子はほうほうと頷く。
「そういやデビ子こそ、貝殻水着でこんな海寒くないか?」
「いいになってます!確かに寒いけど、オシャレは一番の上着、だよ!」
そういうと小さくくしゃみをしたので、アルジはジャケットをデビ子の前に突き出した。
「腕、疲れちまうから」
「ありがとう…、アルジ」
父から託されたトライデントを両手で握っていたので、デビ子の横までタツノオトシゴを寄せて肩に掛けてやった。
「もう地上だな……」
「はぁ~。クール、ナス。チームの仕事はまるでダメだったが、あの頃は楽しかったな…」
腹、減ったなあ……。
「何か空き缶とか沈んでたりしねえかな~…………。ゑっ」
「は?」
「「どわぁぁぁぁ~!!」」
アルジ運転のタツノオトシゴと海中を覗いていたゾーコの頭が衝突、ともに流氷の上へ吹き飛ばされる。
「えぇ……」
後ろで見ていたデビ子は困惑した表情をしている。一方、落下した海馬は横になったまま跳ね続けて海へポチャンと帰っていった。
「おいおい、お前たしか社内手配書の……」
「社内手配書ぉ?ひょっとしてお前……」
両者が氷上にて立ち上がった。
「『アルジ・キミヒト』『マシンオーガ』じゃねぇ~か!!!!」
吹雪の中、睨み合いながら対峙する二人と色々と置いて行かれるデヴィガイオ。
「キネシスを助ける前だが、此処は力づくで!」「雪の女王様に復讐したいとこだが、試し撃ちやぞ!」
ともにキャストドライバー、物語改変光線銃を構えた。
「変し…、いや待て、いま雪の女王って」「改へ…、キネシスって誰ぞ?」
「キネシスはオレの大事な相棒で」「雪の女王はワシの仲間を氷漬けにして」
「氷のバケモンみてーな女に操られて」「ワシも凍らされて操られて」
「「そのまま攫われたんだ!!」」
寒空の下で二人は見つめ合うと無言になり、突然握手を始めたのだった。
(この二人敵同士っぽかったのに、なんか、急に仲直りになった……)
………ピシガシグッグッ……。
二人は握り拳を左手同士で重ねるタッチを交互に行い、両腕をL字にするとグータッチをしている。
「寒くて死にそうだっていうのに、下らないことしてないで行く、になりますよ!」
「…情報交換といこうか。その~」
「ワシはゾーコだぞ。エネオプの落ちこぼれ、元な。アレを倒せるなら幾らでも教えてやるぞ」
「おう、どうも」
デビ子にやられて頭にたんこぶが出来たバカ二人とデヴィガイオは、一人除いて頭をさすりながらゾーコの案内で例の女王とやらの根城に向かっていた。
「アイツは目が見えていないぞ。その分、耳でもいいのかワシの足音一つにも直ぐに反応してくるぞ」
(盲目で、そのぶん聴力に優れている、と……)
「え~とデヴィガイオです。ゾーコ、その持っている、になっている黒い筒はなに」
今更ながら自己紹介をしつつ、見慣れないそれについて尋ねる。アルジも気になっていた。
「あ~、これはまあ、物語改変光線銃っと言ってな。これで撃たれた主人公は消滅して、それ以外はランダムに変化するぞ。何になるかは……」
「――――まさか、これで亀もバイクに?」
「ああ…、その節は浦島太郎に悪かったぞ……」
(ということは、桃太郎のお供もこの銃が原因だったのか……)
「これをあの女王に再び撃ち込んで…」
「――再び?そういや、この世界に戻ってから偽デビ子を見ねえけど」
此処の世界の主人公に似せてキネシスが生成した偽物のアイスドール。
浦島の世界から戻った時、出発地点の浜辺(雪原)は見えていたのだが、そういえばデビ子の偽物を一度も見ていない。話の内容的に、今回の流れがだんだん見えてきた。
「お察しの通り、その偽人魚姫に仲間の一人がこの物語改変光線銃を発射した。だが、主人公だったハズのそれはあの女王に変異してしまい、ワシを含む3人全員をカチンコチンにしてもうたのだぞ。それで――」
「それで、あんたらも操られていた、と」
氷漬けにされたマシンオーガ達はキネシスと同じような状態にされていた。
「聞いた限り氷で包んだか、元から氷の身体である対象を操作する能力ってか。氷そのものを操る能力といい……」
冬将軍からの氷属性二連戦かぁ…となるアルジ。そんな事を考えているうちに、
「着いたぞ」
「「おおー」」
氷上にポツンとかまくらのような形状。入口と思われる場所からは洞窟のようなゴツゴツとした壁が暗いながら見えている。
「この中に、あんたの言う雪の女王とキネシスが居るんだな」
「ああ。だが、ワシが見てきた限り中は狭い通路が多い。地の利は確実に向こうにあるだろうし、中でやり合うより誘き出す方がアルジらも戦いやすいだろうぞ」
「確かにな。アイツはノータイムで氷の槍を生やしたりもしてくるし、それが壁やら天井やらから繰り出されでもしたらたまったもんじゃないな」
キャストパス内の童話一覧のデータベースから『雪の女王』について検索し始めるアルジ。
「どうやって誘き出す、になりますか」
デビ子も質問を投げかける。それにはアルジが顔を上げてから得意げに答える。
「そうだな、デビ子。アイスドールとはいえ、キネシスは傷つけたくない。となれば、方法はただ一つ…」
「ワシとデビ子…はここで待機していればええんだな?」
雪の女王が根城としているかまくらの入り口の横でしゃがむ元マシンオーガの現アイスオーガ(自称)と、その左肩に腰掛けて尾鰭をひらひらさせているデビ子。
「そうだ。あとはこれでお目当てのやつが来てくれれば…(キャストサーチ……)」
来い。何か大きな音か声が出せそうなやつ!
「――オオカミ少年」
(嘘言いまくった後に本当のこと話したら信用されなかったっていうあれか。まあ、試してみるか)
とりあえずアルジは腰に今度こそ銀のベルトを装着する。
「変身キャストドライバー!!――キャストチェンジ」
ドライバーにキャストパスをスキャンされると、お約束と言わんばかりに右手で3回回した。
「びえっくしょん!、変身」
チェンジスロットに差し込むと、みるみるうちに10歳ほどの少年に姿を変えた。
緑のベレー帽、赤茶色の革ジャケットに白い無地シャツ&緑色のボロボロなズボンに身を包み、左手には?型の羊飼いの杖を握っている。
「(あれだな、あのお決まりのヤツ…)オオカミが出たぞぉぉーーー!!」
「は……?」
外から聞こえた少年の声に反応する氷ドレスの女は、釣られるままにキネシスの居る部屋から入口へ向かった。
「もしかして、今の声って……」
氷の壁に磔にされている水着姿のキネシスの目に光が戻る。
(来たな…、雪の女王)
キネシスを洗脳した張本人が入り口から姿を現した
「ほんとにオオカミが、出たぞー!!おーいおいおいおい」
視えていないだろうが腕をバタバタさせてアピールするオオカミ少年。
「うるさいカイだ。クール、ナス、周りにそのオオカミとやらは居るか」
「「いいえ、我が女王様」」
背後から出てきたゾーコの元同僚が返事をする。見た目は同じアイスオーガだが、虚なその目からはもう生気を感じられない。
「オオカミなどおらぬそうだ。嘘つきのカイには罰を与えねばならぬな……」
「「女王様の仰る通り、嘘つきのあの少年には罰を与えましょう」」
――発動条件を満たしたな。
ワォン、ワン、ワン、ウォン、ワォン!
「オレ言ったよな。ほんとにオオカミが出たぞ、ってよ」
(キャストパスの画面にはこうあった。『この主人公は特定のワードに対して嘘つきと言われた場合にのみ能力が発動する。』と)
「なっ、まさか本当にオオカミが!しかも群れナスておりますぞ!」
ナス?ああ、コイツがナスか。
(早く行け、二人とも)
(了解だ、アルジ)
少年姿のアルジは根城入口付近の2人に目配せすると、デビ子を肩に乗せたまま忍び足で侵入していった。
「くそッ、数が多いな」
嘘から出た実で発現した概念オオカミの群れに囲まれて動けずにいる敵方3名。
一方、アイスオーガのゾーコとその左肩に乗るデヴィガイオはもぬけの殻となったかまくら内の廊下を迷わず進んでいた。
「ゾーコはあの二人と違ってなぜ無事になっていた」
「カイロだぞ~。気温が氷点下以下になると自動検知して温度が上がるようになっていたんだぞ。……本当なら浦島太郎や此処ではなく、雪女の世界に行く予定だったところだったんだぞ……」
(そう、出発直前で標的がどうのとかで仕事を取られたぞ。あの横入り幹部のアーザフめ…、せっかくワシら落ちこぼれがのし上がれるチャンスだったものを……)
「ラッキー、だったね」
「ラッキー…か。今思えば、そうかもしれねえなぁ」
ゾーコの拳を握る力が緩んでいた。そして、
「見つけた!になった。おーい、キネシスぅ!」「水着の嬢ちゃん!今その楔を外してやるぞー!」
「――ブレーメンの音楽隊」
(オオカミ少年も時間切れだったから更にキャストサーチをと思ったが、これ当たりか…?んん?何だ、この見慣れない格好。ていうかこいつロバじゃなくてアルパカ!?ニワトリポジも何故かペリカンだし色も変だし……。いやもうすっげえパチモン臭するけど、やるしかねえ!)
通常の変身とは異なり、キャストサーチによる変身は一度きりな上に制限時間は僅か一分間。
「キャストチェンジ、――――変身!」
再びキャストドライバーに端末を翳した。
「何だアイツ……。また姿が変わるのかよ、勘弁してくれよ……」
「狼狽えるな、クール」
「はい、女王……様」
アイスオーガ化しても性格が変わらないクール。
「うおおお……、オレの身体が四匹に分かれるだと~!?」
人体だったアルジが光に包まれた途端、それは横に四つの光の玉となって並んだ。
「うぽぉぉぉぉおぉぉぉん」
奇声を上げるそれはロバではなく黄色い首輪をした白い体毛のアルパカに。
「はい、どうも~」
気さくな挨拶とともに全身が真っ青でサングラス風ゴーグルが特徴的なペリカンに。
「ブレーメンの音楽隊でぇ~……」
挨拶の最後が時空の彼方に消えたような黒猫は、緑とグレーの迷彩柄のニット帽を被った上に此方も同じく目元の見えない黒いサングラスっぽいゴーグルを装着している。
「名乗ってたのグループ名だし、しかも挨拶の途中でデジョンしてんじゃねーよ!」
頭に赤鬼のお面を斜めに掛けたふわふわ白毛のポメラニアンが黒猫の隣から鋭く突っ込む。
「アタックチェンジ・ブレーメンの音楽隊」
アルパカの腹巻と化したキャストドライバーにペリカンがパスを力強く摘んで操作する。
「散れ~お前ら、早くチベぇ~」
「いまチベ~って言ってたろ」「言ってたねぇ」「聞き逃さなかったよ」
「いいから早く持ち場につけってんだよオマエら!明太子食わすぞ!」
「「「はーい」」」
「「「……………………」」」
独特な雰囲気の四匹組を相手に呆然とする雪の女王ら。
四匹は四方に分かれた後、青いペリカンが言う。
「尺的にサビだけですが聴いてください、『フルコンボ★オーバードライブ』」
活舌が絶好調なペリカンはいつの間にか用意していた電子ピアノを、アルパカも見た目が岩石っぽいギターを前足で弾き始めると4匹でノリノリに歌い出した。犬猫のコンビも曲に合わせて二足歩行で激しいダンスをこなしている。
「「「「バグだら~けの こ~の~世界で~
俺たちは今日も~ MU・TE・KIのモード さ~
フルコンボ★オーバードライブ!
ミスっても~ 笑い~飛ばせば OKだろぉ~?
一 発 勝 負で 突っ走れ~
伝説のスタートさぁ~ はい、B・E・E・N!!」」」」
置いてけぼりのままの雪の女王をよそに、何処からか取り出したタオルを振り回して正気でも失ったかのように一緒に盛り上がっていたアイスオーガのクールとナス。
「「B・E・E・N!!」」
「アリガト~!じゃあ時間ギリだからシメて~」
「銀世界のみんな、ばぁ~~い」
「バイバーイ」
「ギリギリ~崖の上を、行くように~!!」
二足歩行で黒猫とポメラニアンが手を振り、ペリカンとアルパカの流氷ライブの終わりを告げる掛け合いの後、「変身解除」の電子音声とともにアルパカの元へ三匹が光の玉に変化して吸い込まれ、元のオフィスカジュアル姿のアルジに戻る。
(何だったんだ今の変身……)
珍しく変身中の記憶が曖昧だった。複数人?への同時変身は負担が大きかった可能性もあるかもしれないが、足止めは狙い通り上手くいったらしい。
「お~い!アルジ、例の嬢ちゃんを助けてきたぞ~!」
「成功した、になった!」
かまくらの出入口から二人の声と三人の姿。
デビ子は侵入時と変わらず左肩の上でトライデントを振り回し、右肩には水着姿のキネシスがぐったりした状態で引っ掛けられている。
「よくやったぜ、みんな!」
「―――カイを、返せ!」
大盛り上がりのアルジらへ、初対面の時とイメージが違いすぎるぐらいに怒りを露わにした雪の女王が口元から鮮血を垂らした、鬼のような形相で此方へ走り込んできた。
自信に満ちたアルジの一言で戦いの火蓋が切られる。
「さあ、ここからは実験の始まりだ!」
「オオカミ少年の変身は原作に忠実だよなーと思っていたらまさかのブレーメンの音楽隊だったわ。にしても、あのメンツ……。う~む他人の空似」
「アルジ、それ以上あの四匹の秘密には突っ込んではいけない、だよ」
「え、何それは……」
「ワシらの次回もよろしくだぞ」




