第6巻、渡る世界は鬼だらけ
前回のあらすじ3行。
「消滅寸前の極寒世界を脱出したアルジと相棒の雪女・キネシスは、常夏の海辺の次元へと辿り着く」
「そこへバイクに姿を変えられた亀に乗せられ次元を越えてきた哀愁漂う浦島太郎と、カタコト赤毛人魚のデヴィガイオに遭遇」
「一行は浦島太郎を元の世界へ帰しつつ、デビ子のご意見で竜宮城へ向かうことになった」
橙色の海原を背にする釣竿を肩に掛けた質素な着物と草履の姿をした男、
浦島太郎と珍妙な形状をした亀のバイク、カメーン。
「着替えが終わるまで待っていような」
「カメェェーーン!」
潮風が砂浜を撫でる中、彼の隣に佇むそのバイクは傍から見ればあまりにも異質なデザインだろう。
甲羅を思わせるエメラルドグリーンのボディには、メカニカルなブラウンの発光ラインが走り、
前面には機械化した亀の頭が瞳を海色に輝かせ、それを挟む形で2つのヘッドライトが点灯している。
かつてウミガメとして浦島を背に乗せ、竜宮城へと案内する筈だったのだが、浦島の世界で遭遇したマシンオーガの扱う物語改変光線銃が照射した黒い光線を浴びてしまい、現在のバイク姿へと変貌。
カメーンだのハマーンだのとしか発すること出来なくなったが、その願いを聞き取れる者は確かに此処に居る。
「待たせたな浦島!どうせ海行くなら、と思ってな」
キャストパスにある着替え専用アプリこと、ドレスアッパーから出た『ドレスアップ!』の電子音声とともに現れたのはアルジ・キミヒト。装いも普段の黒一色のオフィスカジュアルではなく、黒い短パン風サーフパンツ姿。首からは着替え前から身に着けていた銀色の本型ペンダントがぶら下がっており、控えめなシックスパックが強調されている。
「遊んでる風の見た目になっちゃったけど、潜るなら軽装がいいかなってさ。キネシスも着替え終わったか~?」
「はーい。今、行くからね」と返事が聞こえる。岩陰からキネシスと、その近くでジッと様子を見ていたデヴィガイオが後ろから下半身を引きずりながら出てきた。
「どう……かな?アルくん」
上下にフリルが飾られている水色のビキニ、頭には普段の雪だるま型の髪飾りではなくハイビスカスの髪留め、ビキニのフリルと合わせたデザインの帯をしたビーチサンダルという、お洒落だが可愛らしい恰好。
「やっぱガチ美少女じゃねえかよ……」
「お前さん、随分べっぴんな伴侶が居て羨ましいな~おい」
砕けたノリで聞いてくる浦島。
「いや、その、別に伴侶だとかそういう関係では…っておい!?」
アルジの細く筋肉質な左腕へと絡めるように抱き着く、ひんやりとした柔肌。
「……伴侶、いいじゃん」
紅潮した表情を隠すように砂浜に目線をやりつつも、ぎゅっと腕に膨らみを押し付けてくる。
「おい…、その、当たっ「わざとだよ」
2人とカメーンに見られているということもあり、恥ずかしさで振り解きたかったのだが、
「見られててもいいから、もう少しだけ、こうしていたいかな」
正直いまの感触の心地良さといい、表面は冷たいのに温かくて甘美な態度のせいで脳内がぐちゃぐちゃにされいて無理だ。内心、そういう滾る欲に従うしかなくなってくる。
「お姉ちゃん、お盛ん、だね。そろそろ竜宮城とやらに行く、になりたいな」
浦島の馬鹿野郎が口笛を鳴らす中、ジト目ながら目的を忘れないクールな人魚。
キネシスの情欲が収まったところで早速アルジは次元移動の準備に取り掛かる。
カメーンの甲羅に綱を括り付け、それをキャリーカプセルから取り出したバナナボートに結んだ。
「そういえば主人公が居ないと世界やばいらしいよね。わたしの世界で変身してる間は何とも無かったんだし、代わりになりそうなのがあれば大丈夫だったりする?」
「代わり…。そうか、アイスドールか!」
キネシスの提案が通った結果、一瞬で体育座り姿のデヴィガイオそっくりのアイスドールが浜辺に生成された。色まで再現されており、無言だが此方に手まで振っている。
「うおー、すごい、になってるよ」
デビ子も興奮しているな。
――――しかし、このような細工で世界が騙せるといいのだが。
「これでよし。浦島はカメーンに乗って指示出しを頼む。あんたの方が言う事を聞きそうだしな」
移動の準備は完了っと。
「あのー、何でバナナボートが荷物に入ってたの。バカンス用?」
「まあ…そんなところだな。オレの居た会社には研修旅行が時々あってな」
首を傾げるキネシスに尋ねられたが、懐かしい。いつもコレに後輩のマシンオーガ達を乗せてオレは先頭から水上バイクで引っ張っていたからボート側には一度も乗れなかったっけ。楽しみがあるとすれば、ワザと急なカーブを入れたりして落ちないように必死にしがみ付いている状態のところをミラー越しに愉悦を感じてから全力で全員を海に振り落とすことぐらい。正直アレはストレス発散になっていた。
「じゃあアルくんがボートの先頭でワタシが二番目、最後にデビ子ちゃんだね」
「了解、になった」
デビ子が腰掛けるように乗り込み、取っ手に掴まる。黄色いボディを挟み込む足が無いので少々不安だ。
「なあ、やっぱデビ子は真ん中にした方が良くないか?端っこだと振り落とされないか心配なんだけど」
アルジのそれを聞くなり耳打ちしてくる。
「……他の女を視界に入れるな」
「は、はぁ……」
結局、独占欲の強いキネシスの主張が通り、各自その順番通りとなる。案の定、あの感触が背中に蘇った。正直一番前で助かったと前屈み気味に着席している。
「出発だ、カメーン!」
「カメェェーーン!!」
バイクの叫びがした後、顔面を挟んだ2のライトから緑色の光線が放たれ、それは眼前の海上に別次元へと通じる穴を穿つ。
カメーンは自動操縦でエンジン音を上げると、ボートを引っ張りながら、そのトンネルへと走り込んだ。
ゲーミング気味に輝く空間内を走行中。
アルジはサーフパンツに忍ばせた白いカプセルを2つ取り出し、片方を運転席の浦島に手渡すと自身もそれを飲み込んだ。
「これはなんだ、アルジ」
「ああ、それはオレ開発の水中呼吸用カプセル。水中の酸素…、まあ呼吸に必要なものを地上と同じように鼻から集めて取り込める体質に変化させる。一日持つが、必要なら予備は幾らでもあるから言ってくれ」
「すまん、助かる」
後ろのキネシスにも目をやる。
「素体はアイスドールだから酸素不要だろうが、海水に体が溶けるようじゃ不便だろ」
もう一つ取り出したのは無地のスプレー缶。
「何それ」
キネシスが表情に疑問符を浮かばせている。
「もう一つの発明品、リフレクトコートだ。これを全身に振り掛けると防御幕が覆って水分を弾いてくれるんだ」
他所の世界から落ちてきた100均一のチラシにあった、布製カバンに振り掛けて撥水加工をする雨用のスプレーを参考に開発してみた品物。
「凄いね。さっきから色々出てくるけど」
「これでも商品開発部のリーダーだったからな。いつも仕事でアイディアを絞って作っていたが、生まれ育った街の住民の生活を豊かにするために全力で取り組んでたよ。あれはあれで楽しかった」
それが当時のオレにとっての、眩しくて戻れない瞬間。
オレの身勝手が今の状況を生んでしまったのは事実だが、エネオプの極秘計画を知ろうが知らずまいがどの道あの平穏は続かなかっただろう。
(あぶねー、移動中にあれこれ渡しておいて正解だった)
カメーンが開いたゲートの先は海中だった。
皿のようなもの、サボテンのような形状をした珊瑚や背の長い海藻だったりするものが海底をひしめき合い、そんな自然の迷路を優雅に泳ぐ色鮮やかな魚群。仄かに差す陽の光が景色の神秘性を高めている。
(アルくん、あの赤い建物かな)
(だろうな。城だと聞いていたが建物が目立つ見た目している分、周囲には他に人工物も無いからなかなか物寂しげな感じだ)
目的地のぱっと見の印象について、本体が一心同体のキネシスと精神内で話していた。
全体的に朱色に塗装されている、三階建の和風宮殿。向唐破風の奥には、少々暗いが珊瑚と亀の彫刻があしらわれているのが見える。だがやはり、それが海底にポツンと建てられているのは浦島太郎の世界だと肌で分かっていても不自然さというか、不思議だという第一印象を抱かずにはいられない。
まあ、海中をバイク&バナナボートで移動する奇妙な4人組もあまり他所のことを言えない気はする。
同時刻、アルジらが浦島次元に移動した後。
「カメェ~ンだとか叫んでたバイクと目標の浦島太郎は取り逃すし…」
「物語改変光線銃、ひょっとして不良品ナスか?www」
「バカヤロー!ここで挽回せんと、ワイらの降格&給料ダウン確定やぞ!」
満月の浮かぶ夜の砂浜で路頭に迷いかけているマシンオーガ三人組。
「おーい、そういやここの座標って人魚姫じゃなかったけか…?」
一点を見つめながら二人の仲間へ呼び掛けるように尋ねる。
「そうやぞ。別の世界とすぐ隣り合わせっていう、珍しい位置にあってな。ところで何故急に」
「アイツのことじゃないナスか?」
ナスが指差した先には如何にもな人魚が体育座りをしている。
「あれやっぱ人魚姫だろ…。暗い浜辺に座って何してんだ、気味悪いな……」
「あれも標的なら、コイツで後ろから一発ナスよ~。発射ー!」
「あっおい待てやぞ!?」
心配性のクールとリーダー格のゾーコのことなど気にもかけず、勝手にナスが手柄優先で物語改変光線銃から真っ黒の光線を発射する。海を見ている赤紫色毛の人魚は気付いていないのか、避ける動作も見せずにそのまま命中した。
「まじかよ、おいナスさあ…」
「ったく、リーダーのワシに確認も無く撃ちやがって…」
二人はナスを咎めるがナスの様子が黙ってしまい、様子がおかしい。
「いや二人で言って悪かった。無許可は良くないが、標的はこれで…」
「いや、仕留められていないナス……。物語の世界っていうのは主人公さえ倒せば壊れる筈ナスよ?」
言われてみればそうだ。ワシらの世界に居る次元、揺れも無ければひび割れすら起きていない。
というか、人魚姫は体育座りのままびくともしていない。
「おかしいよ…。普段なら直ぐにでも異変が起こるんじゃなかったのか…!」
――――雪?
「おいクール、ナス。あれは人魚姫ではない、人魚姫の姿をした別の何かだ!今すぐ逃げ――」
突然のことだった。
人魚姫のような何かに目をやろうとしたら既に居らず、部下二人に視線を戻した途端、既に氷漬けとなっていた。
「は……?」
先ほどまでの熱帯夜の海辺は何処へやら。
砂浜には雪が積もり始め、海には流氷まで現れ、満天の星空は一転して雪を降らせる曇天へと変わっていた。
「…………は、どこ」
背後から聞こえる、感情の無い冷たい声色。
「それって――」
「あなたは…………ではない」
ゾーコは振り向く間もなく一瞬で凍り付いた。
「…………は、どこ」
「着いた~!ここが竜宮城か」
………………………………………………………………………………………………。
おかしい。乙姫とか、そういう感じの、おとぎ話によくあるあのお迎えの人は?
「誰もいないみたいだな。廃墟か?」
「カメェーン?」
オレ達はバナナボートを置いて、カメーンと竜宮城の正面玄関だと思われる箇所から入っていた。
無人の受付カウンターがある玄関ホールはさながら、昔拾った旅行雑誌のようなものの写真にあった日本旅館にそっくりだったのだが、誰もいないのか静まり返っている。
荒らされた形跡もない。
「誰もいない、になってますか」
「アルくん、奥とか行ってみる?」
「そうだな…。手分け、つっても連絡手段も無いしこのまま集団で向かうか」
先に廊下があったので進んでみることに。
「此処は……」
アルジと浦島、キネシスとカメーンに乗せてきたデビ子の一同は襖を開いた先の広い部屋を見渡す。
「宴会場だな。もっとも、ボクらの身分じゃ縁は無かったんだけどね」
リアル畳だ、初めて見たな…と内心感動していると。
「出たな報告にあった浦島太郎!」
バサーッと畳が一斉に飛び上がる。本来なら板の床材がある筈の下、海水と土が混じった堀からマシンオーガが十体ほどぞろぞろと姿を現した。
「おいおい、サブタゲの写真の男、アルジ・キミヒトどころか別次元の人魚姫までいるじゃねえか!!こりゃボーナスエグいてリーダー!」
「バーカ、勝って兜の緒を締めよと人間言葉にも有っただろうが」
「それって、勝ってから使う言葉ですよ。鉄クズさんたち」
キネシスの瞳が紫色に染まっていく。
「アイツら、アルくんの命狙ってるんだよね?皆殺しにしても構いませんか?」
「ああ、海の藻屑にでもしてやるか」
アルジも続くように左肩を回す。
「デビ子、アレをくれ」
「アレを投げる、だね!」
カメーンのシートを開け、中からキャストドライバーを取り出すとアルジに放り投げた。
「させるかーー、(キャストサーチ…)ぐわ!?」
アルジは邪魔しようとした手下を回し蹴りで退かし、(変身キャストドライバー!!)それを装着したところで(王子像)、キャストパスの背面で迫ってきた爪をいなしてから銀の六角面に翳し(キャストチェンジ)、端末を右手で三回転させてから、「――変身!」とチェンジスロットに鮮やかに差し込んだ。
「うわ、なんだなんだ!?」
「浦島さん、見ててください。これが、アルくんの変身です」
キャストドライバー一式以外の全身がみるみるうちに石像化していく。
「石、になるですか!」
青く透き通ったサファイアの眼、腰に差された剣には赤いルビーの装飾が施され、灰色の石に変わった全身を覆うように足元から金箔で全身を塗り上げられる。
「幸福の王子か。ふっ、面白い。――行くぞ、キネシス!」
アタックチェンジも無しに剣を引き抜くと目の前に居た鬼に斬りかかる、かと思ったら足の曲げ伸ばしで体重を乗せた蹴りを鬼の膝に落として粉砕する。
「もちろん、相棒!…浦島さんはデビ子ちゃんとカメーンを玄関まで連れて脱出の準備を!」
「承った!」
デビ子はカメーンに乗せられたまま浦島と部屋を後にする。
「……行ったね。絶対零度!」
両手を前に突き出すと、正面の鬼が二~三体まとめて氷漬けにされる。
「アタックチェンジ・桃太郎」
(今回は使わない)四角いスロットが三つ柄に空いた刀、桃花を召喚すると左手に装備。
ルビーに彩られた石剣と桃花の二刀流で迫りくる爪の攻撃を打ち返し、刀のトリガーを三回引いてから両腕を伸ばしてその場で右回転し囲っていた鬼を一掃する。
「フリーズバインド!」
最後に一体残ったところで、それの足元が氷で固められる。
ルビーの剣を堀に敷かれた土に突き刺すと三回ドライバーにパスを重ねる。
「ラストアタックチェンジ・王子像」
「—―お前のエピローグは、決まった!」
先端に泥汚れが付いた石剣と桃花を一緒に右斜め、左斜めからと交互に何度も振り下ろし、最後に両方を蛇腹状の柔らかい腹に突き刺してからそこへ全体重を込めた中段蹴りを繰り出すと、マシンオーガは衝撃に耐えられず「ボーナス入ったら、ハイオク酒を買いたかったぁーー!!」を謎の断末魔とともに爆散した。
直後、うわーっとともに鈍い音が廊下の先から聞こえた。
「わたし達も、早くデビ子ちゃんらの元へ!」
「おう!」
ご丁寧に堀の下からフロアに続く氷の階段が生成されると、変身解除したアルジは滑らないように上がり、キネシスと玄関まで走った。
「何やってんの浦島」
ぶつけたのか膝に息を吹きかける着物の同世代くんが此方に困ったような表情を見せる。
「カメーンがそっちの音に驚いてその娘を乗せたまま先に走ってしまってな。慌てて追いかけてたら箱で躓いてしまって……いてて」
呆れ顔で患部にそっと冷たい息を吹きかけるキネシス。
「竜宮城で箱、ねぇ……。紐でぐるっと封されてるし、これひょっとしてあの玉手箱か」
黒い塗装に豪華そうな金色の模様、そしてそれにぐるっと巻き付く赤い紐。
話の筋書き通りなら、コイツこそが開けると煙が上がって年寄りになるっていう代物に違いない。
「もしかして、宝とか入ってたりしますかね~」
期待で目を光らせながら両手をワキワキと開閉しているキネシス。
「やめとけキネシス。しわくちゃになるぞ」
「いやいや、享年二十歳だから大丈夫だって」
そういやそうだった。
「人魚は三百歳ぐらいまで生きられる、だから安心。今日で15、になった」
すっげえ長生きなんすね…。ていうか「「誕生日おめでとう」おめでとう、デビ子ちゃん!」。
「どうもどうも、です。十五の誕生日の儀式で上まで泳ぐになってた。そこでコイツ拾う、になった」
「カメーン!」
亀バイクのシートに腰掛けるデビ子が指差した浦島はバツの悪そうな苦笑いをしている。
「大事な儀式を邪魔してしまってごめんな、嬢ちゃん」
「過ぎたことだしいいってこと、です」
デビ子は無邪気に微笑んでいた。
浦島がまだ箱に触れないうちに、顎鬚のそいつとオレで地上に戻る準備を進める。
玄関窓から見えたマグロにカメーンが一言。
「ツナァァーーン!!」
「うっせえよ」とアルジ。
バナナボートの紐を再び括り付けているところへキネシスがやってきた。
「地上の様子はまだ分からないけど、とりあえず浦島さんの件は解決だね」
「短い間だったしあんまし話せなかったけど、カメーンのこと親身にしてたし、やっぱ良いやつだなーと思った」
「ですね……」
お別れか~。まあ目的はどうあれ、旅に出会いと別れは必然だしな。
「主人公が居ない世界は崩壊してしまうからしゃあない。毛色が全く異なる主人公が代わりに居ても物語が書き換わっちゃうし」
「えっ、それってまさかこの前の冬将軍も……」
オレとキネシスが初めて共闘した、伝説の大妖怪などとあの世界で呼ばれたデカいヤツ。
「伝説の大妖怪って、脳内に突然浮かんだろ。あの世界、実は別の主人公がマシンオーガにやられちゃってたんで緊急的に桃太郎へ変身していたんだ。そん時に主人公誤認が起きて物語の流れが変わってしまったんだろうな……。たぶんだけど、キネシスはあの時点ではまだ世界の一部扱いだったからその改変の影響を受けて新たな知識を植え付けられてしまったんだと思う」
「そういうことだったんですね……」
人魚姫の世界には現在、同じ姿のデヴィガイオがお留守番している筈だから問題無いだろうが。
「しゅっぱ~つ!ですっ!」
デビ子の掛け声に続いてカメーンが地上へ向けて走り出した。
(マシンオーガの奇襲には驚いたが、無事に対処した上に目的の玉手箱まで入手した。あとはこれを浦島に手渡して人魚姫の世界に戻り、さっさと次の世界へ行こう)
(ですね……。本当はアルジさんともう少しあの世界に居たかったけど、目的があって旅をしているワケだし)
海中のため、再び思念で話している二人。
「うぉ…空が裂けてるな。だが、近所は無事みたいで良かった。なあ、カメーン」
「ハマヤネーーーーーン!」
「そら浜なんだろうがよ。そら、玉手箱やるよ。まだ開けるなよ?」
「お、悪いな……」
何事もなく地上の海辺へ帰ってきた面々。
人魚姫の世界とは異なり浜の幅は短く、目の前は獣道が一本通っただけの薄暗い雑木林となっている。
そういや、ここには主人公が二人居る。なら、当然やることは一つ。
「デビ子!浦島!一枚写真撮らせてくれ!」
「了承、になった」
「写真?よく知らないが、痛くないなら構わないよ」
一人ずつキャストパスのカメラを向け、一応フラッシュ機能をオフにしてから撮影していく。
「キャストオン、デヴィガイオ」「キャストオン、浦島太郎」
横から『?』な顔色のキネシスが尋ねてきた。
「集まって撮るとかじゃないんだ」
「まあ今後もやってくから慣れてくれキネシス。……やっぱ、集合写真も別に撮っとくか」
流木に挟めそうな部分に端末を横向きに挟み、タイマー機能を押して水着姿のままアルジはカメーンを含む一同に加わり、ピースサインをバッチリ決める。
浦島は困惑していたが、釣竿を右肩に掛け、左手で他の被写体の手の真似をしたところでシャッター音が鳴った。
「カメェェーーン!!!」
先ほどの世界と同様、カメーン前方の二つのライトの灯りによって次元移動用のゲートが開いた。
「またボクの世界へ遊びに来いよ、みんなー!」
「キャメェェーーーーン!!!!」
手を振る浦島と灯りをチカチカさせているカメーンに見送られる。
「じゃあな~!!」
「お元気でー!」
「また会おう、になりました!」
徒歩になると若干長く感じるゲーミングカラーのトンネルを移動する。
デビ子はオレがおんぶしようとしたら何故かキネシスに脅されたので、そのままキネシスが背負って移動することになった。素体は頑丈そうなアイスドールだから、恐らく重さも気にならないだろうか。頑丈とは言ったが、ちゃんと柔らかい部分は上手く再現していた辺りも含めて芸が細かい。
「デビ子ちゃん、いよいよ出口ですね~」
「早くお父様に冒険のご報告をする、になります!」
次の世界は何処にしようか………、寒っ!またキネシスの冷気か?
――――勘違いであって欲しかった。
ホールを抜けたオレ達を待っていたのは、急激な斜面の氷山。
「「「ワァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」
そのまま滑り落ちてしまう。一番下のアルジはうつ伏せでソリのように二人が上に乗っていたこともあり、腹筋が冷たいというかかなり痛めた。
あれ、世界間違えた…?いや、周囲はどういうわけか氷で覆われているが、離れの砂浜と氷漬けのヤシの木の辺りに居たので間違いでないことを確信する。しかし…、これは一体どういう状況だ?
――――――――――――――殺気を感じる。
「アタックチェンジ・金太郎」
前方に巨大なマサカリを召喚すると、前から突然氷柱のようなものが飛来してきたので丁度よく盾になった。
「誰だ!」
それは白く、そして禍々しかった。
氷結した白銀の長髪は、波のように揺れながらも一切の温もりを宿さない。
人の顔をしたその何かの蒼く燐光を放つ瞳はあらゆる生者を拒み、見据えられた者の心臓を内側から凍らせんとするような圧倒的な威圧感を思わせる。
唇に残る赤黒い痕は、犠牲者を食らったと思しき血のような汚れと絶えぬ“渇き”の証を現している様。
そんな彼女が身に纏うのは、ドレスに似た刺々しい氷晶の鎧。
雪のように白い人肌を見せ、誰をも寄せ付けぬその容姿は美しいが、何かの返り血を浴びており残酷な素性を露わにしているとも云える。
言ってしまえばその『氷海の王妃』は、静かに唯一言問うてきた。
「……カイは、どこ」
「せっかく一難去ったというのにまた一難って聞いてませんよわたし!」
「いやいや、オレに聞かれても解らんて。ていうかあのヤバそうなの関わり合いたくないんだが、まさかアレ倒すんか。オレらが?如何にもラスボスクラスのやべー奴じゃん。絶対こんな旅始めたてのオレら相手に出てくるようなポジのアレじゃないだろ……。いや、マジで相手するの嫌だからね。こんなら別次元へさっさとトンズラして、のんびり○LEACH1話表紙の週刊少年○ャンプか、最近電子データ化されていた○ニメディアにある○マ娘の○ングレ記事とか読んでるからね」
「まさかの現実逃避…。なんか本の内容気になったから、読めそうになったら隣でお供するけど」
「それじゃ次回も読んでくれる、になって欲しいな!」




