第4巻、サムい女と迷いこまれた異邦人
前回のあらすじ3行。
「刀がイカれてしまったので刀鍛冶に持ってったら、何やかんやで今度は桃太郎がイカれてしまった」
「鬼ヶ島で桃太郎を正気に戻しつつ、連続変身と桃太郎との共闘で大鬼をシバき倒した」
「無事に桃太郎の力を手に入れたアルジは、マシンオーガの持っていた座標コードを設定すると再び旅立つのであった」
オフィスカジュアルに身を包んだチェンジノイドのオレ、アルジ・キミヒトはブックワールドで命を狙われてから次元移動の旅に出ていた。
金太郎の世界で追手に襲われたりとなんやかんやあったり(詳しくはまだ教えてあげないよ、ジャン!)、迫るマシンオーガ、機械の軍団は桃太郎一行を狙う黒い影。あとその他の鬼から次元の平和を守るためゴーゴーレッツゴーとしていた。大鬼も新武器携えた桃太郎とのパーフェクトハーモニーで下したし、その際に主人公データの採取にも成功したし。
(いやアルジ・キミヒト万々歳ってところだ。それまでは)
『座標Y0000K000HER』とやたらゼロが多い転移先に来てみたわけd「さみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅFooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!」
あまりにも場違いな服装でブラックとライトブラウンが混ざった無造作なショートレイヤーの髪や黒い縦ストライプ柄のジャケットの肩に雪まで積もり始める、そんな男であった。
武蔵国のとある村。
冬を越すため、随分離れた森へ木こりに来ていた年季奉公人の齢十八、巳之吉と年老いた茂作。
行きは季節相応の寒さこそあれど、雪面が反射する程度には晴れていたのだ。
しかし、山は天気が変わりやすいというもの。
暮れるごとに雪がちらつくようになり、「もう帰ろう。このままでは遭難してしまう」との茂作からの警告に巳之吉は従うも空しく、急激に吹雪き始める。
致し方なく、その晩は川の渡し場にある渡し守の小屋に避難する…筈だった。
――――白黒の砂嵐でも起きたような雑像が巳之吉の眼前を一瞬走り抜ける。
ザシュッ!!
銀世界に似つかわしくない紅い染みが隣で拡がる。
その中心には茂作がうつ伏せに崩れ落ち、息を引き取っていた。
「おいおやっさん!」
前に二人の…明らかに人ではない。何だ、この機械の鬼のようなものは。
「主人公を取り違えるなよビュート」
「申し訳ございません、吹雪で顔が見えませんでした。アーザフ様(相変わらず布切れで表情が見えん……。飲み会も毎回断られるし、腹の内が何とも……)」
「ボサっとするな、残りの奴も始末しろ」
「ハッ!――お前も同じ目に遭ってもらうからな」
(ふむ……。桃太郎の世界で一点物の物語改変光線銃を紛失したとの報告があったが、実に痛かった)
仕事モードに戻ったビュートが震える巳之吉に血塗られた鋭利な爪を立てかけた、その時。
「黒ジャン起毛ちゃんちゃんこ!」
突然鬼顔にジャンパーが掛けられる。
「お主は……、――っ!!」
肉を断つ音がした。
顔の見えないもう一人の布切れの中から物理法則を無視したような大剣が飛び出し、巳之吉を貫いた剣先には鼓動を辛うじて続けている臓物がぶら下がっている。
「ふむ、『アルジ・キミヒト』。だな」
大剣が機械的に引き抜かれ、心臓がボトリと巳之吉だったものの足元に落ち、雪面を紅く汚しながら鳴りを失せていく。
「我はアーザフ。ビュートよ、任務完了だ。次へ行くぞ」
「ムグッ、ムグッ!…ぷはぁ、仰せのままに」
「おい待てッ!逃げるなァァ!!」
生気を感じないフード姿のアーザフとブランド品の黒ジャンパーを投げ捨てたビュートは転移。
(複数人で転移だと……!?オレの開発品は単身用だったのに、いつの間に技術転用をしていたんだ)
時間の流れが乱れているのかと考え込みかけたが、それより倒れている二人を何とかしなければ。
内臓をぶち撒かれ、バタリと仰向けに倒れた青年と知り合いかもしれない老人の亡骸。
雪面を手掘りでどかす。下に見えた地面へ、金太郎に変身して召喚したマサカリで更に掘り起こす。
(野ざらしにしたくなかったとはいえ、雑な埋め方で申し訳ない。ただ今は、静かに……)
黙禱を捧げたアルジだったが、困った。
ここは誰の世界だ。
しかも金太郎から変身解除した途端、隙間無く空を覆っていた曇り空が、というかあちこちで空間が割れ、裂け、壊れ始めてきた。割れた奥には暗黒しかない。
(不味い。この世界にはもう主人公が存在しないから次元が閉じようとしている!早く此処を……)
川の傍らに小屋が見えるのだが、青白い髪の女性が静かに入っていくのを確認した。
金太郎に変身中は崩壊が収まっていたなと思い、キャストドライバーで桃太郎に変身してみると「狙い通りだな」と進行が収まったのを見て落ち着く足ガクブルの武士。
投げられていた黒ジャン起毛ちゃんちゃんこ(ただの上着)を羽織い、白い吐息を漏らしながら桃太郎は小屋に向かった。
「失礼しナス……。お家、借りるぜ。…って誰もいねえじゃん」
う~さみ~とボヤきながら黒ジャンパー姿と化した中性的な顔立ちの少年は屋内の小あがりにある囲炉裏の前で適当に胡坐をかいていた。
当然のように当たれる火は無し、オンボロの木造平屋、玄関というか土間には竈がある。
畳でなく薄い茣蓙が敷かれており、本当にあの女はこんなところを住居にしているのかと疑問視していた。
眠気が起きない代わりに腹の虫が目を覚ましてきたこともあり、握り拳程度の『小型光子変換式荷物収納器』をキャストパスから操作し、調味料のスライスにんにくとすりおろしにんにく、刻みショウガの入った瓶とレンゲ、日本食用のマイ箸。専用アプリ『サモンデリシャス』からは横浜風家系ラーメン一杯(麺並盛)と大盛りライス、それから沢庵の入ったプラケースを生成した。
湯気立つラーメンにはトッピングとしてほうれん草、味玉、薬味のネギ、桃茶色の厚めチャーシュー3切れ、そして多めの海苔8枚(ここ一番重要)が盛られており、雪原で体力と体温を奪われたサムライに微笑みかける。
「スライスにんにくとショウガをササーッと振り掛け、一番上のチャーシューにおろしにんにくを盛る、と(ここも重要)。麺硬め、味濃いめ、油多めの早死に三段活用で生成した一杯をオマタセシマシタと言わんばかりに、啜るゥ!!」
一口分の麺をリフトアップしたところに、浮かせているにんにくをズバッと一口。
「Marvelous!」
雄叫びを出したくなるような、脳を震わせる衝撃。
これだ、これが食べたかったんだとばかりに麺を行く、チャーシューを齧る、ほうれん草で箸休めしてからまた麺。家系永久機関の完成だな!
次にライス。すりおろしのアレと刻みショウガを一口分のライスに追いトッピングし、海苔を一枚スープに潜らせ、それを飾ったライスの上に掛けてそれごと口にリングイン。
「ンンンンンンンソンンンンンンンンンソソンンンン」
一発KO(言語化不可)。
これが自宅だったら発狂している。
「たぁ~まんねえぇ~!!」
口から漏れ出すにんにくと豚骨の臭いが赤字テロップを幻視させるような魂の叫びとともに世界を震わせる。
(なんか殿方が勝手に上がり込んでる上、具沢山のお蕎麦とアツアツ白ごはんを頂きながら発狂してる……。なにこの人、怖い……。というかこの人誰?お化け?)
「――ところでお前が家主か。ドーモ、アルジ・キミヒト=サンです」
「ひっ!?」
「アイサツにはアイサツで返せや!まるで雪女みてーだなあんた」
自己紹介する前に正体を明かされてしまい、狼狽して澄んでいた青い瞳をグルグルさせている。
この時期なのに健康的な太ももをチラつかせる淡い雪色の浴衣だが、動揺するたび小さな雪華模様を震えさせる。肩の付け根から肘に至る部分は肌が透けており、鮮やかさを感じさせる深紅の帯がきゅっと結ばれ、無邪気そうなその存在感をより際立たせている。それにしても、左耳の上に添えられた雪の結晶を模した髪飾りは長い銀髪の上でシャラシャラとしていて正直だ。
「コホン…。正解です、雪女です。わたし」
(あんまり話を聞いてなさそうだが不審者が完食した様子。吞気に「ふー、ごちそうさま」と腹を抑えながら爪楊枝で歯を掃除している。ていうかくっさ!?なに、何食べたのこの人!?)
最初はクールに行こうと思っていたようだが、あまりの惨状を目の当たりにしてしまい三白眼になる女。
(調子狂うな…)
「ちょっと、聞こえてます?」
「ああ、正解か。ねえねえ、似てるから〇イロの〇hiteCulみたいなびえーん声でなんか言ってみてよ」
し、知らねぇぇぇぇぇ!ってびえーん声ってなに、びえーん声って!?心の底からびえーんなんですけど今のわたし。
「あの、さ……。一応わたし妖怪なんですけど、怖いとか…ないの。少年のお侍さん」
「いや、ガチ美少女が何言ってんの。ヒエるというより萌えるだろ」
(ガチ……?燃え…る?)
知らない言葉も混じっているが、外見を褒められているのは何となく伝わってしまい、両手で顔を隠しながらも紅潮させていると、
「まあいいや。外の吹雪が落ち着くまでここおるわ」
あーあ、やっぱ落ち着いた。この侍、ほんとに身勝手な…と感じ始め、
「もう!ウチから早く出て行ってください!迷惑です!」
はっきり抗議したつもりだったのに。
「じゃあさ、オレと雪遊びナンバーワンバトルで勝負といこうか。オレが勝ったらここに居るが、あんたが勝ったら言う通り小屋を出ていくってことで。ところで対決は雪だるま作りでいいか~?」
「ごめん、質問の意味がわからない」
真顔になってしまった。
『いざ掴め!ナンバー!ワァァァーーンッ!!』
(!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
妙な幻聴&謎のBGMが流れてくるとともに突然暗転していた世界が明るくなったと思いきや、
――そう。此処は只の三本ロープのリングではないんだよ、雪女くん。
(勝手に人の思考の中に入らないでくださぁい!!!)
いつの間にか現れていた謎応援団の声援を背に、あの男がリング入りとともに名乗りを上げる。
「故郷を追われて三千世界、
チェンジノイドのアルジ・キミヒト。
成るさ、WINNERに冬の花ァ!」
見た目的に昔話で知った桃太郎とかじゃないのかよと思っていたら、視線で(お前もやれ)と言われている気がしたので乗ってみることにした。
「氷柱滴るいい女。
冬の妖怪、雪女。
大好きなのはかき氷!」
ぎこちなく不審者の真似をして名乗りを上げながら縄を潜ってしまう。
小太鼓の響く中で髪飾りが引っかかってないか触ってみたが心配無いようだ。
『雪遊び、ナンバァーワンバトォル!レディィーーーゴォォォ!!』
謎のキーーーンという音と同時に謎空間から小屋裏の雪原へ乱暴に二人揃って放り出された。
「うわっ!」
「オマエラアノ戦隊ジャナイダロ!勝手ニココヲ使ウナ!」
…なに、いまの。
「ハー、ハッハッハッハッハッ!!オレこそ雪遊びオンリ…ナンバーワンだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
一瞬言い間違えた気がするし、なんか途中で雪玉を蹴り飛ばして「フォームチェンジ・桃太郎・猿力変化」と鳴ったかと思うと全身猿っぽくなるこのお侍さん。わたしは雪だるま作りに集中したくなり、ブンブン首を振る。
「…じゃなくて!今は本気で雪だるま作んなきゃ。やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
二人で全力全開の雪転がしを始める。
段々自身の全身ほどの大きさまで成長してくる雪玉だが、彼と背は変わらないので前の見やすさなら平等か――。
「やっぱ桃太郎はオレより小さいからな」
えっ。
『キャストアウト』
「えぇぇぇーお侍さんじゃなったの!?!?!?!?!?」
「アルジ・キミヒト25歳。通りすがりの…いや、そのネタもうやったな…」
突然見た目変わったし、いやしかもめっちゃ背高いじゃん!頭一つ以上の差あるんですけど、えぇ…。
黒い上着を羽織った南蛮服だし、ほんとのほんとに不審者じゃん!いや、南蛮服と呼ぶには色が大人し過ぎるというか、なんかシュンとしてるというか…。
いやいや、これ以上変なこと考えるのは止そう。
お互いに下の段の雪玉が完成したところで各々上の段を作り始める。
…、………、?なんか空、割れてる?いまパキパキって……。
「うぉぉぉぉぉ雪だるまうぉぉぉぉぉーーー!!」
それはそれとして楽しい。こんなに遊んだの生前の幼少期以来かも…。
「雪女が…負けてたまるかぁぁぁぁぁーーー!!」
本気で遊ぶのって最高に楽しいな…。あの頃の同世代は皆ゴミ売りの客だったし、ずっと独りだったし。「やっぱオレ…、一緒にバカやるような仲間が欲しかったんだな…」
「アルジ…さん?」
「バリカタかよ。もっと砕けた呼び方でいいって」
「バーカ!アルくんのバーカ!はははは!」
『馬鹿という方が馬鹿』だと子どものころ、近所の男の子らがよく言ってたっけ。
――違う。あれ、両方だよ。
「わたしも、こんな場所にいるよりバカになって自由に生きてみたい。だってその方が幸せだから」
「面白いこと言うじゃねーか、雪女」
「やっば、言葉に出てた……」
思わず声が小さくなる。
しかし……。
「でもわたし妖怪だから!50年前にここで遭難して死んだ、幽霊、みたいな…ものだから……」
無理だ。どんなに生きたくても、自由になりたくても、生きているわたしはとっくの昔にいない。
仲良くなったところ悪いけど、やっぱり…。
「ここで何をしている!冬を荒らすものは妾が許さん!」
「あれは…冬将軍!?」
(何、冬将軍?そんなの本編に居たっけ?というか雪山よりデけぇ…。何なんだよあのクソデカ鎧武者は!)
おおよそ隣の雪山と比較するに、3000m前後はあろうかというとんでもない巨体。
「雪だるま作り中止!アイツ先にぶっ潰した方が勝ちにするか」
「うそでしょ…。伝説の大妖怪だよ!?早く逃げて!!」
この地に伝わる伝説上だった存在。
それが今、割れた空を掠めそうなほどの大きさで実在している。
桃太郎に変身して雉力変化したアルジは冬将軍の頭目掛けて飛翔する。
「アタックチェンジ・桃太郎」
キャストパスをチェンジスロットに差し込み、桃花を召喚して斬りかかろうとするが、
「無礼者め!」
刀で桃太郎を雪山の斜面に叩き付けた。
あまりの破壊力にちょっとした雪崩まで起こしている中から対象を掴み出すと、それを握り締める。
「ぐぁぁぁぁぁぁ……あああ!!」
額と鼻から出血しながらも、「食らえ!」と桃花を親指に突き刺したことで怯んだのか手を離され、落下し始める。
視界を覆う大雪の雪崩が一瞬フラッシュバックしたが、首を横にブンブン振って搔き消した。
「……嫌だよ、アルくん。もう、わたしは絶対に独りになりたくなんか、ない!」
周囲の吹雪が体内の妖力を強く活性化させる。
瞳が澄んだ青から濁った紫色に染まると、氷で巨大な滑り台を作って片翼が折れているアルくんを滑らせる。
「うわあああ何だこれ!?すげぇぇぇぇー!」
良い感想が聞けて満足…じゃなかった。
滑り切ったところを強烈な吹雪でキャッチする。
「すげえじゃん雪女!知ってるぞ、超能力だろ!」
「よう…、超能力です」
「だろ?」
変に否定して話の空気を壊したくなかった。
「そういやオレだけアルくんとか呼んでたよな。生前の名前とかないの?」
「いやぁ……。亡くなったの50年前だし、危険な場所だったからか親族誰一人来ないしお墓も建てられなかったしで名前思い出せなくて……」
正直、雪女が出ると恐れられるようになってから長いので、さすがに記憶の彼方だった。
「じゃあ超能力に掛けて~、今から名前はキネシスだ。呼ばれたらワンって言ってキネシ~ス!ってアウチ!」
反射的に氷で大槌を作って殴り倒してしまった。
「その辺の犬扱いすんな!…まあ、わかった。キネシス、だね。ふふふふ!」
「いって~な……。悪かったよ。ていうか何笑ってんだよキネシス」
顔を赤らめながら口元を両手で抑えている。
「なんかさ……。安直だし、面白くてつい。ねえ、アルくん」
「うっせ。……なんだよ、キネシス」
なんだか、
「先にぶっ潰した方が勝ち、なんでしょ冬将軍。いっそ、二人で一位になってみる?」
余裕が出てきたのか、屈託一つ無い今日一番の強気の笑顔が出てきた。
「良いじゃん、二人で一つの一位。やってやろうじゃねえか!」
「決まりだね!」
桃太郎姿のアルジの流血を雪で作った手拭いで拭き取り、立ち上がる。
「いつまでやっているのだ!これでウヌらまとめて…終わらせてやる!」
キネシス作の滑り台を破壊しながら此方に向かってくる、実はおばさん声の冬将軍だが、何故かブチ切れていて今は裏返っている。
(ありゃ冬と名乗る割に冷静さを欠いている様子…。罠を仕掛ければ案外引っかかって大打撃を与えられるか……?って冷たッ!?」
オレの頭にキネシスが頭を擦り付けている。
「へえ…罠、ねえ……。それ、お姉ちゃんにも教えて?」
「思考を読み返されたか…。そうだ!キネシス、今から脳内で設計図を作るから、氷で生成して立体化できないか?」
「よっしゃ!任せてよ、アルくん♪」
楽しそうだなこいつ……。
(男女でよくも目の前でイチャイチャと…!妾だって、生前にもっと金持ちで顔が良くて背の高い豪族のダンナ様さえ捕まれば…!……おや、この棒はなんだい)
太古に生涯未婚のおばさんのまま雪崩に巻き込まれて死んでいった過去を持つ冬将軍の足元に如何にもな太い氷の棒が突然現れた。雪山に突き刺さっており、反対側ではそれと組み合う形で柱のようなものが遥か天空まで立っていて先が見えない。
「ごめんアルくん。位置の最終調整したいから、あと1分だけ時間作ってくれない?」
「1分、だな。とりあえず任せろ」
ならばやることは一つ。
(キャストサーチ………北風&太陽)
「ほーう珍しい、選択式の主人公か。相手が氷だか雪なら…、当然(太陽・キャストチェンジ)」
画面に写ったうち、ニンマリとした表情を浮かべる太陽の絵をタッチしてキャストパスに重ねる。
「連続変身!」
燦燦と照りつける大いなる恒星……とはいかなかったが、冬将軍の頭ほどのスケールでも温度はかなりのもの。熱にも強く作られているキャストドライバーだが、鉢巻のように巻いており帯も伸び切ってしまっている。
「食らえ、紅炎の息吹!」
太陽ガスを秒速5キロで口から噴射し、高熱で冬将軍を攻め立てる。
「くっ、まさか太陽に変身するとは……!?しかし、熱いな……」
暑さにやられ、僅かに罠の棒から後退しながら滝のような汗をかいている。
「アルくん!そろそろ完成だよー」
「りょうかーい!(よし、仕掛けを溶かさないうちにこの辺でキャストアウトしとくか)」
「完成だと!一体、何を言って…。あっ」
――カチッ。
気付いた時にはもう遅かった。
目の前に出していた氷の棒はブラフ。
冬将軍の下がった先に用意してもらっていた氷製の感圧版をトリガーに罠は起動。
ダミー棒に繋がっていた支えの柱が地下から伸びてきた氷のピストンに押されて砕け、上空から冬将軍と同じ程度の超巨大な氷塊が落ちてくる。
「フォームチェンジ・桃太郎・四天一体」
太陽から戻った桃太郎は犬・猿・雉の力を取り込んだ最強形態に変化して高く飛び上がり、
「アタックチェンジ・金太郎」
現れた人間大サイズの巨大マサカリを手に、ようやく空を見上げて氷塊の存在に気付いた冬将軍の上がった極太の両腕に攻撃を仕掛ける。
「マサカリ飛去来ぶん投げアターーック!」
右腕を捉えて投げつけた直後、手が空いたので「ラストアタックチェンジ・桃太郎」と急ぎでキャストドライバーに三回スキャンさせ、チェンジスロットにキャストパスを叩き込んだ。
今度は桃花を召喚し、投擲したマサカリが天に伸ばされた右腕を切断して此方へ帰ってきたところを、
「必殺打法…ピーチ・フラミンゴ・インパクト!」
左足を上げ、羽ばたきながら右足を捻る。そして、桃花を野球バットのように扱い、カキーーーンと打ち鳴らした。
(やる~!)
吹っ飛ばされたマサカリは左腕を断面綺麗に切断すると、光の粒となって消滅した。
「な……妾の腕が、斬られただと!?あぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁー!!!!!」
雪で出来ていたのか痛覚は無いようだが、無情な氷塊の一撃の前には関係無かった。
甲冑は砕け、全身が白い霧を伴う形で爆散。が、
「「やっば」」
飛んできた破片の雪塊が雪女の住居に直撃し、完全に圧し潰されてしまった。
「わたしの、お家が……」
FXで有り金全部溶かしたような顔をしている雪女。それにしても表情豊かだ。
「ゆきだるまなんばーわんばとるはわたしのかちですね……」
戦いの影響でアルジ側の雪玉が粉々になっていたが、運良く下の段が残っていたキネシスは手のひらサイズの雪玉をちょこんと乗せ、覇気皆無で勝利宣言していた。
「Winner!妖怪〜キネシィィス!!」
何処からともなくゴングを連打する音とともに某応援団の叫びが響き渡った。
(なんだいまの。とわたしは思った)
「勝ち負け云々の家がもうアレだしなあ…」
疲れ切ったアルジが変身解除して座り込む。
「まあその…、なんだ。家なき子同士、仲良くやろうや」
「ふっざけるな!アルが冬将軍に勝負なんて持ち掛けるから!うぅ~」
キレてたはずなのに、急に泣き出す雪女。
「いやほんと悪かったって、うん」
「もう…いい。責任、取ってもらうから」
なにを言って……「どわっ!?」
キネシスがアルジの眼前に立ったと思えば、突然その肩を押して雪の上に押し倒された。
「五十年間、孤独だったんだ。もう、一人になんて……。――他の誰にも、渡すもんか」
(抑えられない。妖怪雪女としての本能にはもう、抗えない)
雪で背中を濡らした男へ最後にそんなことを呟くと、紫色に瞳を染めたキネシスは瞼を閉じて唇を近付けてきたのだが…。
「コ゜ッ!?」
直前で思い切りむせたキネシスはアルジの左に倒れ、ピクピクと全身を痙攣させていた。
(そういやラーメンにニンニクありったけトッピングしてたのを忘れてた。あとでブレスリセットでも飲むか)
――ごごご…と夢から醒ますような地響き。
冬将軍は既に動かない。
「……あっ、変身解除していて主人公じゃなくなってたわ」
「いや何やってんのアルくん」
正気に戻ったような声息で左耳側がひんやりしていた。
世界の崩壊がだいぶ進んでいる。焦って二人とも立ち上がって見渡してみるも、既に小屋跡地の半径10mしか残っておらず大ピンチの二人である。
どのみち長居してたら自分らごとこの次元は消滅してしまうわけだが、
「ディメンションゲート!!」
キネシスを孤独にしたくない。
「まさか孤独にしたくないからって、それを開いたのにわたしと消える気?」
「バレてたか…」
「バレてるよ。あと、わたしを逃がしてアルくんが消えるのもナシだからね」
抱き着かれて全身くっそ寒い。
「全身寒いなんて知ってる。アルくんの何もかも、全部知ってる。だから、行って。わたしのせいで死んでほしくないし」
「嫌だね。それに……」
キネシスの背中に両腕を回す。
「幽霊由来なら、オレに憑り付けば実質一人扱いで次元移動できるだろ」
迂闊だった。そういやわたしって妖怪であり、幽霊じゃん!
「触れてるんだから、お前の能力でまだ思考読めてるぞ」
「くっ……。一心同体になってくれるなら、できるはず。でも実体で抱き着いたりはもう、できないからね」
「それももう読んだ。必要になったら氷で体作ってそれを操ればいいじゃないか」
またうっかりしてた。
「いいからやるなら早くしてくれ。もうさっきの半分しか面積ないぞ」
もう周囲は暗黒そのもの。視界内では世界のほぼ全てが消えかかっていた。
「わかった。…そいや!」
キネシスの全身がオレの体にすっと浸透してくる。
空を抱いていた腕を正し、手に持ったままのキャストパスを差し込んだ。
「座標不明、ランダムディメンション!!」
「「どうにでもなーれ!!」」
同時刻、エネルジオプティマス52階、兵器開発室。
付き人のビュートは腹痛を訴え、2時間お手洗いに籠っているため部屋には研究者との2名のみ。
「座標Y0000K000HER、消滅確認しました。アーザフ様」
「消滅時のエネルギー回収班を直ちに向かわせろ。…話は変わるが、物語改変光線銃はどうなった」
「当然、紛失の可能性を予想しておりましたので既に量産体制に入っております。先にご用意がありますので、お受け取り下さい」
「うむ」
大剣のように受け取った銃を体内に格納した後、周囲を見渡している。
「……ザマーマは欠席か」
「お出掛けらしいです。何でも、商品開発部で開発された小型タイプの光子変換型生物転送装置を改良のためご自身で試されているとか」
「ふむ……」
アーザフは大型コンピューター前の回転椅子に腰掛けた。
アルジリーダー、…いや、キミヒト。
(お前は将来、どうなりたいのだ)
手元のガソリン酒瓶を掴むと一口含み、口内で転がしていた。
むかーし、むかし、とある海辺に心優しい一人の漁師が住んでいました。ある朝、浜辺を歩いていると……。
これは海底に存在するとされる、人魚だけの国で起きた話。王国6番目の王女として日々何事もなく暮らしていたが、幼少のころに読み聞かせされた絵本をきっかけに陸の世界や人間に興味を持つ。ある日海に溺れていた人間を見つけたのだが……。




