第3巻、オレたちこそが鬼ヶ島ぶっ壊したろう
前回のあらすじ3行。
「桃太郎の世界を改変すべくマシンオーガが襲撃。その際にお供の犬猿雉をサイコロ状にされてしまう」
「それを通りすがりのアルジ・キミヒトが金太郎に変身し、殲滅」
「仲間を失い傷心していた桃太郎はアルジに励まされ、鬼ヶ島で目的を果たすことを再び誓う」
雲一つない快晴。
奥に廃墟の目立つ海岸線こそ見えるものの、それ以外の景色はだだっ広い草原しかない。
鬼の目撃情報のせいか、オレら以外人っ子一人居やしない。
「とりあえずその刀はもう~、刃こぼれしてるだろ。 それじゃ斬れるもんも斬れんし、刀鍛冶かなんかがどっかに居ればどうにか出来たりしねえか」
先の戦いで硬い鎧を攻撃した影響により、刃がしっかり欠けてしまっていた。
「確か……この先の鬼ヶ島が望める浜辺に最近出来たという刀工の小屋があったはず。 そこへ向かおう」
疑いもなく薦めてくるのは桃から産まれた桃太郎とかいう青二才。
そしてそれに何となくうんうんと首の素振りを見せている、入った世界観に余りにも馴染まないオフィスカジュアルの25歳こと、アルジ・キミヒト。
先のマシンオーガ戦でなまくらと化した刀を鬼ヶ島での決戦直前にどうにかしようと考えながら、その目的地へと向かっていた。
「キビダンゴをくれ」
小腹が空いた真顔の25歳。
「えっ」
引き攣る17歳。
「え、じゃないよ。 だいたい、オレは無料で人助けするような安売りはしてねえっての。 犬猿雉にもやってたんだろ? 救出するばかりか、旅のお供までしてんだから食いもんぐれー分けてくれてもさぁ~」
「しょうがないですね……」
本当はもっと余りがあるのだが、気に入らなかったので一粒だけ渡すことにした。
「ウッスウッス」
浜辺にある刀工の小屋の暖簾を潜るまで、強さはともかく本当にこの人大丈夫なのかと変に思っていた。
「客か。 ――よいしょっと……」
如何にも職人気質を感じさせる皺枯れた声色、頭に白い鉢巻か何かを巻いた小柄な爺さん……いや待て。
「あんた、まさかマシンオーガ族か」
どっかの漫画の博士みてーな膨らみのある白髪と中央のハゲに白髭まで蓄えていたので少々分かりづらかったのだが、人間離れした下顎から伸びる二本の小さな牙といい、緑一色の着物の隙間から見える機械仕掛けの灰色と時々錆色交じりのボディ。
やはりヒューマンのそれというより、既知であるマシンオーガ族の年寄りとしか言いようがなかった。
「何と、知っているのか」
「何のつもりで店を構えているのか知らねえが、エネオプのもんなら容赦しねえぞ」
静かな怒りが見られる口調に桃太郎は少し驚いている。
「違う違う、辞めたんじゃワシは! もうアレとは関係ないんだから、その拳を下げてくれんかのう……」
「ほ~う」
……仇敵エネルジオプティマスを去ったと話す老人。
まだ疑わしかったが、とりあえず話を聞いてみることにしてみた。
桃太郎の刀をさっさと手渡して作業が始まってから。
「約3年前、ワシは別次元調査のため工作員として単身この世界に送り込まれた。 しかも鬼ヶ島じゃ。20メートルはあろうかという大鬼に命じられ、配下の鬼のためにせっせと地下で武具を作っておった。 んじゃが……」
刃こぼれ部分を研磨しながらも、ジジイの表情が苦虫を嚙み潰したような険しい表情に変わる。
「あそこの飯はとにかく不味い。 当然ガソリン酒は無く、あるのは焼きネズミやイモリの黒焼きとやら。 燃料と金属が主食のマシンオーガ族故、そりゃ食いたくなさ過ぎて武具原料の鉄で何とか食い繋いでいた。 ……暫くしてからは、空腹に耐えかねたらしく女子供問わず人間の死骸が幾つも島へ運び込まれるようになり、御馳走だと一同沸きあがっておった。 ワシはその光景に気味悪さを感じ、ある晩のうちに食料の鉄と一緒に木船で脱走してきたのじゃよ」
「急に逃げられたんじゃ、鬼も探しにきたんじゃないのか?」
オレの質問に桃太郎が顔を強張らせた。
「らしいな。 ワシはここに来る前、近くの洞窟奥に身を潜めていた。 お陰でワシを探していた鬼の追手は海辺の漁村を探りがてら襲撃し、老若男女関係無しに皆殺しにして島へ連れ去ったようじゃ」
「……そして廃村となった内の住居を借りて、覚えた技術で刀鍛冶ってわけか」
ここへ訪れる際に見えた廃墟は話の筋的にそれへと繋がるわけだ。
「ところで、そこの持ち主よ。 そのサイコロは何じゃ」
『ところでで流すなよ、今のでよ』とキレかけたオレではなく、桃太郎。
仲間だったモノを手の上で転がしていたところへ不意を突かれた。
「ああ……これ、お供です」
「何という……。 こんなことが出来るのは鬼ヶ島にはおらん。 とすれば……」
「お前の同族の仕業だろ」
恨めし気な感情がほんのり込められた声色でジジイに噛み付いた。
「物語改変光線、などと言っていた」
正直思い出したくない。
「オレの知らないところで妙な開発を……。 これだからエネオプは信用ならん。 ……んで、これがどうしたんだよジジイ」
「ジジイではなく、ゲンジと呼べ。 せっかくだから、その『絆升』の力をこの刀に利用できないものかと思ってな」
たった今命名された三つの四角形のそれに考え込みながらも修復作業の手は止まらないゲンジ。
「急に妙な名前付けだしたなおい。 そうだな……その状態のお供から力を取り込んで桃太郎の強化に使えれば……、――悪くないな。 柄借りるぞ、桃太郎」
「えっ、ちょっ」
桃太郎の意見も聞かずにキャリーカプセルから工具を実体化させ、その辺の和紙に設計図を描き出していた。
オレの脳内は設計内容と数式で一杯だった。
「アルジ殿」
「ちょっとかかるかもしれん。 悪いが、外で素振りでもしていてくれ」
「は、はあ……」
何と強引な。
……しかし、ゲンジ殿といいアルジ殿といい、某のために全力で取り組んでくれていることは伝わっている。 今は出来ることをするしかない。
その辺に落ちていた木の枝を使い、夢中で何度も素振りをしていた。
「うーむ、刃の傷みもそうだが耐久力がのう……。 ――そうじゃ!」
―――――――――――――― 一方、鬼ヶ島 ――――――――――――
「大鬼様。ゲンジの居場所を突き止めました」
「うむ。あの裏切り者には死、あるのみ」
真っ赤で筋骨隆々な巨体が見え隠れする茶色の布切れを身に纏い、頭に生える大きく曲がった両角が特徴的な鬼の王。
「御意」
大岩の玉座に腰掛けながら、下級鬼から光子力遠距離対応型トランシーバーで報告を受け爪先持ちで器用に返事をしている。
「まさか、先行で世界入りしていたゲン爺が行方不明だったとはな。 我が社か大鬼、どちらに消されるのが早いか程度だがな」
「……帰るぞ」
「よろしいんですか、アーザフ様(フード被ってて表情が解らんな)」
「ああ。 一先ずはここの悪役に任せておけばいい」
(万が一にも標的がこの次元に来ていたとて、ただのチェンジノイド一人には倒せまい)
大鬼を遠目に、鬼ヶ島の暗がりで数名のマシンオーガが転移した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日。
チュンチュンチュン、ビリビリーンとカワラヒワの鳴き声が聞こえる。
まだ早朝だが、磯で小さなカニを捕まえ、それを囮に小屋近くの川で釣りをしてみた。
「ちょうど海水と交わる場所ゆえ、大物が釣れるはず……。 ――よし来た!」
事前にゲンジさんの小屋前にあった鉄鍋を借り、川釣りの前に海水を火にかけていた。
釣りから戻った後、完成した塩を枝で串打ちにした魚に満遍なく塗り込み、水気が減るまで素振りをしていた。
(いよいよなんだな……。 待っていろ鬼ヶ島の鬼たちよ。 村のためにも、必ず成敗するからな)
頃合いを見て魚を火にかけた。
「おーい二人とも、大物の朱口が釣れたから塩焼きにしたぞ。 三人で食べよう!」
「おお朱口か。 主食の鉄ではないが、折角なので頂こうかのう」
「…シュクチ?」
キャストパスで検索してみると、どうやら汽水の高級魚メナダのことを指し、日本にある岡山県での別名らしい。
(成程、ここは後の岡山県に当たる場所か。 そりゃ桃太郎か)
謎の納得をしつつ、歩きにくそうに杖を突くゲンジと小屋前の焚き火に向かった。
「「「いただきます」」」
他の二人を真似て手を合わせてから、数切れに分けられた状態のメナダの塩焼きを先端の尖らせた小枝で刺して一口頂く。
(くっそうめぇぇぇぇ! 塩味と表面に溢れる脂が合わさって香ばしいし、中の身も豊潤でふっくらしていて意識がぶっ飛ぶかと思った……)
「強火の遠火が火加減のコツです」
桃太郎って、まさかの料理系男子だったのかよ。
味は確かに良いんだが、さっきからこっちにドヤ顔向けてきてるの何なんだ、褒めてほしいのか……?
でもまあ、確かに旨かったので正直に感想を伝えることにした。
「いやスゲーよ桃太郎は。 味の満足度ヤバいし、ここまで出来るとはな」
「幾らでも言ってください!」
もっとこう、かたじけないとか言うのかと思った。
謙虚になれない辺り、年相応というより若干ガキっぽいな。
ところでゲンジはというと……放心していたようだった。
「そういや昨日の刀なんだが、修復が終わった」
「随分早かったですね」
こっちもドヤってみる。
「ああ、うちの次元の技術を利用してな……。 完成品はこれだ」
そういって修復……というか9割新品だが、流れで披露してみることに。
「凄い……。 これを真にたった半日で?」
「そうだ。 刃は結局修復不可だそうで、ゲンジが鬼鉄を打って新たに仕上げたそうだ。 銘は桃花。 柄の部分にはその……絆升を填め込めるスロットと、端に永久燃料の小型光子発電機を取り付けさせてもらった」
「すろっと……?」
四角い穴が三つ並んでおり、黄色かった柄の端には透明で中に蛍のような光の粒が飛び交っているのが見える。
「スロットの上に引き金のようなものがあるが、スロットに絆升を入れて一回動かせば該当の力を持ち主に注入して強化してくれる。 細微な注射針が柄全体から一瞬出るぐらいだから痛みは殆どないはずだ。 三回で最大出力の大技が使えるが、使用後に溜めが要るから連発はしないでくれよな」
これはオレにとっても挑戦だった。
日本刀の見た目にトリガーとか正気かと我ながら冷静になりかけることもあったのだが、後学のためと思い決断した形であった。
「かたじけない。 まさかここまでやってもらえるとは思わず……」
「礼ならゲンジに言ってくれ。 オレはあくまで機能を拡張しただけに過ぎんし、何より……」
まさかとは思っていたが、そこまで……。
「――見つけたぞ、裏切り者め」
気付いた時には遅かった。
「がぁぁぁ…」
――ゲンジの首が桃太郎の足元に転がっていた。
「ゲンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃー!!!!!」
「あ…あぁ……!」
会ったばかりの某のために刀を直すばかりか、鬼鉄と称して自らの右足を切断するまで、某のためにそんな……体を張ってくれたゲンジさんが……。
「済まなかった……桃太郎」
「何がだよ! もうこれ以上喋んなゲンジ!」
「自分が逃げるためとはいえ、名前も知らないここの村人達を犠牲にしてしまった……」
「ゲンジ……さん」
視界が滲んで熱くなってきた。
「この一振りをお主に託す……。 こいつで、この世の悪を斬ってくれ」
「ゲンジさん……」
「おい、ゲンジ……」
――次の瞬間、声量を失いかけてきた首を鬼の足がガシャン、と無機質に踏み抜いた。
「お仕事完了しました、大鬼様」
『よくやった、青鬼』
「「……」」
太刀に付着したオイルを拭う。
「実を申しますと、目の前に人間が二人おりまして。 食料にもなりますし、ついでに仕留めてもよろしいでしょうか」
『構わん』
トランシーバーの通信を切った。
「「…………」」
「何者だ人間ども。 ……まあいい、所詮は我ら鬼の糧とな――ングハァッッ!?」
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる「殺してやる」。
桃太郎は瞬時に拾った桃花の刃を鬼の腹に叩き込み、波打ち際まで吹き飛ばされていた。
「桃から産まれた……桃太郎だ。 この畜生鬼め」
……アルジの目には見えていた。
ふらふらと立ち尽くし、全身から黒いオーラのようなものが溢れ出し、目が血走っている侍の姿。
(オレの知らない桃太郎だ……。 何だよ、これ。 まるで……)
「そうか、そうか、桃から産まれたんだな、お前は……。道理で強いはずだ」
頭にかかった海水を振り払いながら、何か知ったようなことを呟いていた。
「お前を殺す……」
怨嗟の声を吐き捨て、神速の如き速度で青鬼の隣まで来ていた。
無言で手足を次々と刎ね、血肉とともに飛び散らしている。
その度に悲鳴が上がるも、黒き修羅には一切届いていないようだ。
汚れた刃を青いダルマの胸元に突き刺し、スロットは空だが引き金を三回引いた。
――直後、断末魔と共に砂と海水、そして鮮血の混ざった噴水のような飛沫が爆発的に立ち上がると、青鬼の死体は骨すら残さず蒸発していた。
(絆升を使ってもないのに、想定以上の火力だ。 桃太郎の感情が刀に乗ったとでもいうのか……)
「さっさと行こう、アルジ殿。 ――あの島の鬼を皆殺しにしたい」
先ほどまでのオーラは消えていたが瞳に光は燈っておらず、桃花は紅くべったりと濡れていた。
「お、おう……」
ようやっと絞り出せたのはそんな声。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
海は幸いシケってはいなかったが曇り空に変わりだしていたので、カプセルから取り出した光子動力とその辺の木の板などで簡単に組んだプロペラを鬼が乗っていたのであろう木船の後ろに取り付けてさっさと飛ばしてきた。
とりあえず、全体的に岩肌な鬼ヶ島に上陸成功。
なのだが、相変わらずの桃太郎。
忍んでラスボスの首をと思っていたのだが、勝手に入口の鉄扉の前まで来てしまう。
「おいおい、怒髪天になるのは無理もないし当然だ。 だが、敵の本拠地で冷静さを欠いてしまったら成せるものも成せんだろうが」
「…………」
……無視かよ。
「んじゃこうしよう。 そのまま単身で正面突破しといてくれ。 オレは別口からゲンジが話していた地下に侵入して挟み撃ちといこう」
「…………」
本人に聞こえているかは不明瞭だが、今はこうするしかない。
勢いだけで動くような奴には下手に静止を呼びかけるよりも、一人でに突撃を仕掛けてもらって陽動として利用した方がマシだろうと判断することにした。
◇◇◇◇◇ 別行動、開始 ◇◇◇◇◇
遠くで「死ぬがよい」と聞こえたが、他所は他所とばかりに島の裏手に回る。
桃太郎の感情的なものを見せられてしまったせいか、オレはかえってドライになれた気がする。
クールを決め込んだおかげで無事に入口を見つけたが、どうも門番の赤鬼が一人突っ立っている。
(扉は無し。 幸い入口は開放されているから、アイツを目の前の水面まで誘導できれば……)
その場の小石で持参の枝を鋭利な形に研磨し、欠伸をしていたタイミングを狙って石を鬼の目の前に向けて投げつけると、すぐに移動を開始した。
「ん……? 何だ、ポチャンと。 ……誰かいるのか――ッッ!?」
海面を覗きだしたのを機に、隙を突いて後頭部に先端を尖らせた枝を刺す。
オレはそこを目掛けてドロップキックを決めてやった。
「案外ちょろいな、コイツ」
大の字に海へ落ちた門番を尻目に、下り坂になっている地下への入り口から潜入を開始した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「逃げろぉぉぉぉー! 殺されるぞぉぉぉ――ッ ――ア゛ア゛ッ!!」
正面玄関から続く廊下に20人以上?30人以下?の鬼だったものが転がっている。
「……失せろ」
「何をぉぉー」と背が倍はあろう鬼の尖兵らが意気込むもズバズバと切り裂かれ、上半身と下半身が切り離された死体が増していく。
「大鬼様! 現在一人の少年が此方の部屋まで我が兵を斬りながら進んでおります。 すぐ増兵できますか?」
「いいや、むしろ兵をここまで退かせ、おびき寄せろ。 通路では単対単になりがちだが、この大広間でなら包囲戦が仕掛けられる」
「御意! 兵へお伝えしてまいります」
とうとう来たのだな。桃から産まれた……。
「退けー! 大鬼様のご命令である、退け退けーーー!」
「おい、待て、逃げるな。 ――――斬るぞ」
伝令の鬼の指示に従い、立ちはだかっていた鬼兵が一斉に引き返す。
それを復讐に黒く燃える武士はただ感情のままに追跡する。
「待っていたぞ。 桃から産まれた……
我が息子よ」
頭が真っ白になる。
洞窟のような廊下を抜けて突然広い空間に出たと思えば、大鬼と呼ばれているであろう巨大な赤鬼が何を………我が息子………………………………………?
大鬼の指示で鬼に取り囲まれた侍は膝をつく。
――やめろ。
小さく角が生えてくる。
「そうだ。 私こそがお前の……」
――やめろ。
牙が伸びてくる。
「実の父親だ」
――聞こえない。
「偶々地上に降りたった天女をここへ攫い、俺様が身籠らせた」
――聞こえない。
「あの裏切り者と同様に皆が寝静まった夜にな、最後の霊力を使い切り、赤ん坊だったお前を天界へ飛ばしたそうだ」
――聞こえない。
「……などと、拷問中に吐いていたようだったが真のことであったか。 懐かしい、あの女の肉は程よく脂が乗っていて旨かったなあ」
――――――――――――――――!!
「やめろ!!」
(声だ。 知っている声がする)
一面洞窟のような大広間に反響するそれに、踏み出しかけた足が止まる。
「人間がもう一人……?」
報告では少年一人と聞いていた筈だが。
「おい桃太郎! 確かにそいつはお前と血が繋がっているかもしれない。 だが、大事なことを教えてやる」
(そうだ、この声は……)
「親ってのはな、どんなに辛くとも自分から手放さそうとせず、子どものためならと嫌な顔一つ見せず、直向きに愛情を注いでくれる唯一無二の存在なんだよ! それが例え、お前の桃を拾ってくれた爺さん婆さんでもだ!」
「アルジ……殿」
彼の姿が見えた途端、家の二人との思い出が蘇る。
いつも三人で麦が混ざった姫飯を川魚の塩焼き、味噌と囲ったこと。
幼少期のおねしょも文句も言わずに洗濯してくれたこと。
風邪を引いたときも傍で夜通し面倒を見てくれたこと。
そして、鬼ヶ島へ行く時に反対もせず意思を尊重してくれたこと。
……全部、全部、あの二人がしてくれたんじゃないか。
角と牙はすっかり引っ込み、黒いオーラも見えなくなったが目元で何やら光っている。
「もう泣くなよ」
直後に袖で拭き取り、「泣いてなんかおらん!」と強がりを見せてくる。
「人間にしては奇抜な恰好だな。 ……お前、何者だ」
オレのオフィスカジュアルを奇抜と抜かされたが、聞かれたので大見得を張ることにした。
「オレはアルジ・キミヒト。『変身キャストドライバー!!』――全ての世界で主人公になる男だ!――『キャストサーチ………』」
『ジークフリート――キャストチェンジ』
01000011 01100001 01110011 01110100
右手で端末を三回転させてから――「変身」。
01000011 01101000 01100001 01101110 01100111 01100101
『アタックチェンジ・ジークフリート』
キャストドライバーに2回タッチしてスロットに差し込むと、目の前に巨大な白銀の両手剣が地面へと突き刺さった。
白銀の長髪を揺らし青と銀の鎧に身を包む戦士と化したアルジはそれを引き抜くと、桃太郎目指して両手でバサバサ鬼を薙ぎ倒し、進みだした。
桃太郎の元まで辿り着いたところでくるっと進んできた方を向き、一度バルムンクを地面に突き刺す。
『ラストアタックチェンジ・ジークフリート』
バルムンクを再び引き抜き、棘付き棍棒片手に追いかけてきた鬼軍団に大技をかます。
「龍撃滅一閃!!!!」
バルムンクが紫色に発光した後、輝きが蜷局を巻き翼を生やした龍のような形に変わる。
振りかざすと横に伸び切った斬撃を掴んで運ぶように発射され、一面の鬼軍勢を巻き込み大爆発を起こした。
「おのれ…!!」
あまりの惨状に大鬼が激昂する。
邪龍殺しの英雄は「よし、次だ」と意気込みながら桃太郎の隣に立ち、「お前はオレが守る。だから、お前はオレを守ってくれ」と優しく呼びかける。
「ああ!」との返事を確認したところで再びキャストサーチを始める。
『嵐忍者ハヤテ――キャストチェンジ』
桃太郎も鞘に納めていた桃花のスロットに猿の絆升を入れ、引き金を一回引いた。
「『猿力変化!』『連続変身!』」
刀を引き抜くと、桃太郎の全身からニホンザルのような体毛が生えてきた。
……すると、突然世界が暗転しスポットライトのような明かりが何処からともなく現れた赤・青・黄色の混ざった和傘を差している影が一人。
「人も知らず、世も知らず、影となりて悪を討つ!」
和傘が天井向けて投げられた。
「忍風――「ノリノリなとこ悪いが早くせい!」
「アッハイ」と名乗りを中断する、斜めに赤・青・黄色の全身タイツに身を包んだ忍ぶ気ゼロの忍者。
「大鬼様。 ここはお任せください。 ――鬼軍大幹部、このゴウリキ様が相手だ!」と、海賊のような恰好の青鬼が行く手を阻む。
「『アタックチェンジ・嵐忍者ハヤテ』――行けるよなぁ? 桃太郎」
「行けるって何が「行けるな、よし。ついてこい!」えっ、だ、だからなんでござるか~!」
突然――視界を遮る大きな障子が。
「な、なんなんじゃ、なんじゃ、にんじゃ」
「〇忍法、二人影の舞!!」
それって本当に嵐忍者自身の技なのか疑い始めたが、とうとうツッコミに疲れて付き合うことにした。
障子の裏で影となった二人がシルエットしか見えないゴウリキにいつの間にか持っていた鉄刀・忍者旋風丸と桃花による超高速の斬撃を浴びせたかと思えば、今度はアルジがついでと言わんばかりに飛び蹴りまで入れる。
障子が無くなり吹き飛ばされたゴウリキにすかさず「ハーヤーテー!!」との掛け声と共に、二人による頭上から回転斬りを叩き込まれる。
ハヤテが発した「一陣の風になれ……」との一言の直後、ゴウリキは「アイエェェ!」との叫びを上げ、抵抗すら叶わないままシメヤカに爆発四散。 と同時に、ハヤテの変身が時間切れで解除された。
「桃太郎も結構、アドリブが上手いじゃん」
「ありがとうございます」
(力自慢のゴウリキ様がこうもあっさりと……)
(こんなの人間じゃねえ……。 バケモン二人にやられる前にさっさと逃げるぞ!)
(助けてくれ~!)
下っ端の鬼がちりじりとなり、出口という出口から一目散に逃げだしていく。
「仲間からも見放され、とうとう最後の一人だな――デカブツ」
「人間の分際で生意気な……!」
岩造りの玉座の肘置きを何度も拳で殴りつけ、破片が足元へボトボトと落ちている。
「オレは人間じゃなくてチェンジノイドだ。 それに……」
「アルジ・キミヒトであり、金太郎でもあるし、(パシャリ)、桃太郎でもある」
端末を猿力変化から戻った桃太郎に向けて写真を撮ると、『キャストオン――桃太郎』とシステム音声が鳴る。
目の前で突然フラッシュを焚かれて「急に何でこざるか!」と困惑する桃太郎。
「言ったよな。 オレは全ての世界で主人公になる、と――『桃太郎』」
「えっ、まさか……『キャストチェンジ』」
「――変身」
いつもの三回転はせず、そのままキャストパスをスロットに差し込んだ。
『桃から産まれた正義のサムライ! いよぉ~アッパレぇ!』
そんな謎の声とともに自身と同じ姿になってしまった。 ……銀色の腹巻以外は。
鞘から何の変哲もない刀を引き抜くと、桃太郎の持つ桃花に変化した。
「これちゃんと反映されるんだな。 やっぱオレの発明てぇんしゃいだね!」
今の発言で偽物が一気に頭が悪くなった気がして呆れる本物。
「ふざけたことを……!」
立ち上がり、天井スレスレまで頭の位置が行く大鬼。
刃先をそのツラへ向けながら、
「行くぞ……ピーチ・ダブルクリティカルストライクだ!」
「もう何が何だか……」
アルジ独特のペースに巻き込まれながらも今度は犬力変化で大鬼の足元へ四足歩行で走り込み、口に加えた桃花で何度も斬りつける。
偽物も『フォームチェンジ、桃太郎』で脚をキジのものに変化させ、蹴爪で桃花を掴みながら大広間内を網目状の茶褐色をした大きな翼で飛び立った。
「ケンケンケーン!」と叫びながら大鬼の腕を幾度と避けつつ、全身を切り傷だらけにしていく。
(速すぎる……。 これでは私の攻撃が追いつかん)
大鬼は何を血迷ったのか、天井を激しく殴りつけ始めた。
「気でも迷ったのか、あの鬼は……」
「まさか……天井の崩落を狙っているのか。 ――桃太郎! 大急ぎでここを脱出するぞ」
「はい!」
瓦礫を回避しながら駆け足で桃太郎が入ってきた出口まで戻り、鉄扉を雉力変化の蹴りと犬力変化の体当たりで破り脱出する。
桃太郎が元の姿に戻ると後ろで大きな地響きとともに、島中央の盛り上がりを大鬼が突き破って現れた。
「虫けらが……一匹たりとも逃がさんぞ!」
手元の大岩を両手でそれぞれ投擲してくる。 ……中には逃げたはずの下っ端鬼まで。
――――いやぁぁーーーー!!
――――大鬼様、何てことをぉぉぉぉおおぉーー!!
「桃太郎、全ての絆升をはめ込んで引き金を引いてみてくれ。それで最強形態になれる」
「心得た!」
上から犬・猿・雉と入れ――『金太郎』――アルジに飛んできた岩を叩っ斬りながら引き金を引いた――『キャストチェンジ』――
「四天一体!」
背中に雉の翼、犬の耳と爪が生えて猿毛と犬毛が混ざったように手足に生え、猿の尻尾が現れる。
「連続変身! ――『アァーイ!マサカリ 担いだ 金太郎』」
キャストパスを挿入したことで、金髪で筋骨隆々の戦士に姿が変わった。
桃太郎の足が変化した蹴爪で金太郎の両肩を挟み、雉力により生やした翼で飛翔する。
飛んでくる岩や鬼を躱していき……大鬼の真上を取った。
「――お前のエピローグは、決まった!」
桃太郎が脚から離すと、金の腹掛けをバサバサさせながらキャストドライバーに三回重ね『ラストアタックチェンジ、――金太郎』、巨大なマサカリを召喚すると柄を掴んだ。
桃太郎も引き金を三度引き、息を合わせて急降下する。
「「桃金襲斬り!!」」
二人は両側からX状に斬りかかる。
アルジは回転しながら、桃太郎は刃を刺し込むと猿の筋力強化・犬の走力強化を利用して前進。
――――鬼の巨体を全力全開で切り裂いた。
「本物は、偽物には勝てないというのか…………………………………………」
――崩れゆく。
意識が遠のいてゆく大鬼の言葉に対し、アルジは呟いた。
「本物は本物でしかないし、偽物は偽物でしかない。 ……ただ一つ、偽物には本物にはないモンがある。 それは、本物を超えるって可能性だ」
――私は何も間違っちゃ……何処で間違えた……。
私…は……。――――わたし……は。
大鬼の崩れた痕には暖かな夕陽が射し込んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「もう行くのか?」
戦いは終わり、鬼ヶ島からはアルジが地下で見つけた金銀財宝を舟に乗せて浜辺へと帰還していた。
「旅はオレを待ってくれない。 それに、こうしている間にも他の世界が襲われているかもしれないし」
下っ端どもには土下座で迫られたが、桃太郎から島から今後出ないことを条件とする旨の許しもあり、鬼ヶ島でひっそりと暮らしていくそうだ。
「ならば、せめて某もお供するのはどうだ。 百人力だぞ」
「お前が居なかったらこの世界は誰が守るんだよ。 いいな? この次元は桃太郎に任せたい。 その方が安心して飛べる。 それに、オレの装置は一人用だ」
どのみち無理で御座ったか――
「お宝、ちゃんと村に持ち帰ってやるんだぞ。 あと、爺さん婆さんにもよくしてやるんだ、約束だ」
「ああ。 アルジ殿のことは一生忘れない。 ……また会おう」
「おう」
拳を合わせる。
明日の二人を照らすように、海の向こうから夜明けが近付いていた。
『ディメンションゲート』
桃太郎に別れを告げたオレだったが、初めて戦ったマシンオーガの破片からしれっと拾っていた座標コードをキャストパスに入力してみる。
『座標……Y0000K000HER』
「ほう、反応有ってとこか」
アルジ・キミヒトは企業の企みを追跡すべく、ゲート空間から次なる世界へ。
桃太郎はお宝と共に村人・家族と再会しに出掛けました。
めでたしめでたし。
【次回予告】
武蔵国のとある村から随分離れた森へ出掛けていた木こりの若い男、巳之吉と年老いていた茂作。
その帰りは吹雪が特別強く、その晩はなくなく川の渡し場にある渡し守の小屋に避難する……筈だった。




