表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/62

第五十五話 お好み焼き

「「ごちそうさまでした」」


 あっという間に平らげてしまった俺たちは、再び街をぶらぶらと歩き出した。


「店員さん、いい人だったね。私の魅力に気づいてたし」


 そう言って、しずくはドヤ顔をした。


「ああ、俺が店員さんでも、おまけしてたと思う」

「ふふっ、だよね! ……ん? 待てよ?」


 突然、しずくが訝しげな視線を向けてきた。


「あの人の気持ちが分かるってことは……純太郎も、喫茶店に可愛い子が来たら、サービスしてるってこと?」

「え⁉ い、いや……」

「むむむ……その反応、怪しいなぁ~」


 俺が慌てていると、しずくはぷっと噴き出した。

 どうやら、またもやからかわれていたらしい。


「ごめんごめん! 反応が可愛くて、ついね」


 俺が顔を逸らすと、しずくは手を合わせながら、茶目っ気たっぷりなウインクをした。

 どうすれば自分が一番可愛く見えるか、完璧に理解しているとしか思えない仕草だ。

 こんなの、許してしまうに決まっている。


「はぁ、しずくはずるいなぁ」

「ふふっ、まあね。でも実際さ、好みの人が来たら、少しはお近づきになりたいなーとか思う?」

「好みっていうのが、まずよく分からないんだけど……」


 そもそも、誰かを好きになったのも、しずくが初めてだ。しずく以外に好意を抱く自分が、まったく想像できない。


「……だめだ、いくら考えてもしずく以外の人と話してる自分が想像できない」

「おうおう、愛いやつよのぉ! ……まあ、彼女としては安心だけどね」


 脇腹を肘でつつかれる。思ったことを素直に言っただけだが、妙に気恥ずかしくなってしまい、たまらず俺も質問する。


「そういうしずくはないのか? 誰かに近づきたいとか、付き合いたいとか思ったこと」

「えー、純太郎以外はないよ?」

「え、そうなのか」

「ちょっと、なにその意外そうな顔。そんなに恋多き女に見える?」


 しずくは、ふざけた様子で、垂れた髪を耳にかけ、胸に手を当てながら天を仰ぐ。

 ふざけるときの演技ですら、様になってしまうのがなんとも面白い。俺は観念して、またしても素直な気持ちを言うことにした。


「しずくは可愛くて美人だし、男側が放っておかないと思って」

「そ、その通りではあるんだけどさぁ……」

「ん? どうした?」

「なんか、可愛いとか、美人とか、改まって言われると照れるっていうか……不意打ちは卑怯っていうか……」


 今更照れているしずくに、俺は首を傾げる。いつもなら、得意げになるはずなのに。


「もう! 確かに私はモテますよ! ええ!」


 何故か開き直ったしずくは、思い切り胸を張る。薄着なせいもあって、少し目のやり場に困った。


「でも、こっちから誰かを好きになるって、不思議となかったんだよね。こういう仕事だからさ、そりゃ周りにもかっこいい人は、たくさんいるんだけど、前にも言ったじゃん? 私、見た目で恋人は選ばないって」

「ああ、言ってたな」

「だから、うーん……やっぱりないね。仕事の人たちとは、プライベートまで踏み込まないし、学校の男の子は、下心しかなくてちょっと怖いし」


 しずくが今まで、どんな恋愛をしていたとしても、嫌いになるわけがない。しかし、彼女の口からはっきりと〝俺以外にいない〟と聞けたことに、つい安心してしまった。


「あれ? もしかして安心した?」

「うぐっ……また顔に出てたか?」

「ううん、訊いてみただけ。当たったみたいだけど」


――――くそ、嵌められた……。


 しずくの視線に耐えられず、俺は顔を伏せた。

 そんなことをしているうちに、ようやく日が傾いてきて、街は、少しずつ夜の顔を出し始める。もうじき、俺たちの居場所はなくなってしまいそうだ。


「さ、そろそろご飯食べよっか!」

「ああ、賛成だ」


 新幹線で調べておいた店に向かってみる。夏休みということもあって、少し待つことにはなったが、二十分ほどで入ることができた。


「わっ! なんか列増えてない?」


 俺たちが席に案内されたあと、店の外には、長蛇の列ができていた。

 少し早めに来てよかったと、互いに胸を撫で下ろす。


「入ったときは全然お客さんいなかったのに、途中からすごい混んでくることってない?」

「ああ、確かに……たまにあるかも?」

「やっぱり? なんか、めっちゃラッキーな気がしちゃうよね」


 しずくはそう言って、右手を猫の手のように丸めて、上下に動かした。


「ふはっ、なんだそれ、招き猫?」

「うん、私がお客さんを招いてるのかもなーって」


 しずくは目を細めて、にゃお、と鳴いた。思わず頭を撫でそうになるが、己の理性と、周囲の視線も相まって、なんとか我慢することができた。

 他愛もない話をしているうちに、注文した豚玉と、海鮮ミックスがやってきた。


「よし……ねぇ、せっかくだからさ、どっちが綺麗に焼けるか挑戦してみない?」

「いいけど……」


 俺が疑いの視線を向けていることに気づくと、しずくはむっと頬を膨らませた。


「もしかして、下手くそだと思ってる?」

「……そうは思わないけど。ほら、しずくって意外と不器用だから」

「それ、下手くそって言ってるのと変わらないからね⁉︎」


 しずくは、料理があまり得意ではない。しかし、その話になると、やたらとムキになる。

 なんでも、以前喫茶メロウで俺のナポリタンを食べて、衝撃を受けたらしい。それ以来、何故か対抗心を燃やしているようだった。


「女子が女子力で負けてたまるかっての!」


 しずくは海鮮ミックスが入ったボウルを奪い、勢いよく混ぜ始める。

 果たして、お好み焼きを焼くのに、女子力は必要なのだろうか? よく分からないまま、俺も豚玉をかき混ぜる。確か、ふんわり空気を含ませるように混ぜるのがコツなんだっけ?


「じゃあ、私からね!」


 しずくが、油を引いた鉄板に、生地を流し込む。そして両手にヘラを持ち、豪快に生地を丸く整えていく。少々ぎこちない手つきではあるものの、ここまでは大丈夫そうだ。

 しずくは落ち着かない様子で、何度もヘラを持っては焼き加減を確認する。俺はそれを、はらはらしながら見守っていると、ついにひっくり返すときが来た。しずくは、改めて両手にヘラを構え、お好み焼きを持ち上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ