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第42話 同じだけど優しくない

「ふーっ……」


 ジリジリと高まる緊張感。

 俺は次フロアへと繋がる階段の前で肩を大きく上げて息を吐いた。

 

「次が第六フロア……チギリのいるフロアだね」

「レベルも上がって、アイテムも潤沢……これ以上ないってくらい備えた」

「絶対迎えに行くっすから……お願いだから生きててっす……」


 サクラが身体を伸ばして両手を合わせるようにして祈る。

 俺はサクラの背に前足をやって抱き寄せる。


「大丈夫……生きてるよ。『契約』なんだから。サクラがつけたその名前が、きっとチギリのことを守ってくれるはずだ」


 それを聞いてふるふるとサクラが震える。


 ……サクラは周りをよく見てる。

 俺とガルタの間のぎこちなさのことも……というか俺が一方的に遠ざけてただけだけど。

 お泊まり会の時だってそうだ。

 それによく分からないけど……暴走した時も助けられた。


 そういう人にだって見てくれるやつが必要なんだ。

 だから、ちゃんと見てあげないと。

 俺はサクラみたいに器用にはやれないけど……それでも、見てるよって伝えるだけでも何かが変わるはずだ。


「行こう、迎えに」

「……はいっす!」


 そうして俺たちは足並みを揃え、先の見えない階段を登り始めた。

 一段一段、着実に登っていく。

 静寂に支配された暗闇の中、ゆっくりと。

 互いの息遣いと唾を飲む音が、声を聞かずとも覚悟を共有させていく。

 その覚悟に触れてか、更に暗さを増す階段を登りながら俺の頭はまた勝手に回り始める。

 ほんの数時間前の惨劇を、鮮明にフラッシュバックさせる。

 高速で回り続けるトラウマのフィルムは俺の身体に重たくのしかかり、巡る度に俺から体温を奪っていく。

 次第に呼吸の仕方さえも奪っていき……俺は一段登ろうとしたところで躓いてしまった。

 ベタンと乾いた音が反響し、ガルタとサクラが倒れた俺に振り向く。

 破裂寸前の風船みたいに圧迫された俺は地面に激突した痛みも感じられず、下手くそな笑みを浮かべながら立ち上がる。


「ウサミ」

「あ、ごめ……」

「大丈夫」


 ガルタは正面から俺を抱きしめ、首に手を回してギュッと力を込める。


 あったかい。

 ガルタの鼓動が脳天を通して伝わってくる。

 気持ち早めで、多分緊張してる。


「次は、僕が絶対守るから。大丈夫。大丈夫だよ。君だけが無理して前を向く必要はないんだ」

「ガルタ……」


 ガルタは自分がまともじゃいられない時こそ、周りを元気づけようとする。

 それはきっと自分をまともに戻そうとする手段でもあって、彼の持つ純粋な優しさでもある。

 その優しさがあるから、まともじゃなくても一番欲しい言葉をくれるんだ。

 余裕がなくて人に構ってる暇なんてないのに、それでもガルタはこういうことをする。


 俺は一瞬だけガルタを抱き締め返し、もう大丈夫とガルタの脇をぽんぽんと叩く。

 ガルダはゆっくりと手を離し、腰に手を当てて大きく口角を上げる。


「僕のことも、ちゃんと守ってね」

「当たり前だろ。仲間だぞ」


 顔を見合せて、ふと気づいた。

 俺たちは同じことをしていたことに。

 一緒にいるとだんだんと似てくるって、こういうことなのかな。


 会って数日なのにそんなことを考える俺は、とんでもなくちょろくて浅はかだ。

 でも、今はそれでいいや。

 それに俺は、ガルタみたいに良いやつじゃない。

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