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Ep.73 執念深い女

 流石にあそこまで取り乱していると可哀想だな、と。愛しいセレンに泣きつくアイシラを見ながらガイアは小さくため息をこぼした。


「……止めなくていいんですか殿下。というか、もしかしなくても初めから彼女の本性を知っていましたね?何故今まで騙されたフリを?」


 アイシラに振り回されるセレンを見つつ、ガイアが隣で笑いを堪えているウィリアムに話しかける。実に楽しそうな王子様は、慌てているアイシラを見つめながら爽やかに微笑んだ。


「だって、あんなにも強かな少女が私に愛される為だけに必死で真逆の女性を演じているんだよ?とてもおバカで、可愛らしいじゃないか」


「……本当、いい性格してますね」


 恐らく、全ての始まりとなった卒業パーティーの一件も初めからこの男の策の一環だったのだろう。ただの馬鹿王子かと思っていたがとんでもない。恐ろしい方だ。敵に回したくない。そう肩を竦めるガイアから離れ、腹黒王子は悪役令嬢に歩み寄る。


「キャンベル公爵家は昔からキナ臭い部分が多かったんだけど、権力が強すぎてなかなか切り込めなくてね。時間がかかってしまったが、これでようやく我が国のガンを切り落とすことが出来そうだ。ありがとうナターリエ、君が最低最悪の悪女で本当に良かったよ。安心して?君だけじゃなく、君のご実家にも罪は償ってもらうから、投獄されても一人じゃないからね」


 それはつまり、もう実家の権力での悪事の揉み消しもさせないと言う意味だ。


「あ、あぁ……嫌……嫌ぁぁぁぁぁっ!!」


 絶叫を上げるナターリエを見ても、何の感情も動かない。ただ、ようやく終わったと安堵の息をそっと溢すくらいだ。だが、そんな中。


「…………なんて、このわたくしが言うと思いまして?」


 穏やかな朝に暗雲を立ち込めさせるような、執念深い女の怪しい呟きが聞こえた。


「はぁ?まだ諦めていないのかい?もう夜も明けた。恋華祭りの夜会も、君の悪行も終わりだよ」


「全くですね。大体今さら何が出来ると言うのか。夜会も今頃、最後に陛下の挨拶と乾杯でお開き……、ーっ!」


 そこで嫌な予感がして、ハッとガイアが青ざめた。ウィリアムも顔色を変え、まさかと小さく呟く。

 途端にけたたましい蹄の音が朝の森の静寂を破り、見慣れぬ制服の騎士団が自分達の周りを取り囲んだ。うちの部下じゃない。嫌な予感は的中した。


「居たぞ!杯に毒を盛り国王陛下の暗殺を企てたウィリアム第一王子とその恋人アイシラ・メール、ならびに暗殺と公爵令嬢誘拐の《《実行犯》》であるガイアス・エトワールだ。直ちに捕らえよ!!」


 公爵家の暗部が辺りに転がっている異様な光景も無視で、近衛騎士団が一斉にウィリアムとアイシラ、そしてガイアを拘束にかかる。

 さっと腰の剣に手をかけようとしたガイアにナターリエが囁いた。


「あら、いいの?今貴方が下手に抵抗すれば、あの子まで共犯者として捕まってしまうわよ?」


 そう指差された先には、ただ一人騎士団から捨て置かれ狼狽え今にも泣きそうなセレンの姿。彼女だけは、命に替えても死なせたくない。その想いをまんまと利用される言葉にし難い悔しさに、歯を鳴らすしか出来ない。しまった、最後の最後にはめられた……!


「下道が……!」


 その呻くような呟きを聞き、ナターリエが勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「居たぞ、ガイアス・エトワールだ。捕らえよ!」


「ナターリエっ、無事か!!?」


「ああっ、第二王子殿下!助けに来てくださったのですね!力尽くで彼のものにされそうになって、わたくし、恐ろしくて……っ!」


 いかにもいたいけな少女の顔で、悪女が第二王子に泣きつく。愚かな傀儡の王子が、憎しみの目でガイアスを見た。


「貴様、一年彼女と離れていて焦ったからと血迷った真似を……!この罪は万死に値する。兄上諸とも処刑台に送ってやるから覚悟しておけ!」


 今のこの男に何を言っても無駄だ。そう判断して、剣を地面に投げ捨てた。降伏の証だ。

 『連れていけ!』その一声で連行されていく自分とアイシラにすがり付いたのは、涙を堪えたセレンだった。


「まっ、待って!彼等は悪事なんて、誘拐なんてしてません!」


「何だこの娘は、お前も共犯か!?」


 騎士の一人が上げた声で、皆の注目がセレンに向いてしまった。しまったと青ざめるガイアより早く、機転を利かせたアイシラがセレンに向かい右手を振り上げる。パァンと乾いた音がして、セレンが地面に倒れ込んだ。

 

「貧乏人の手で触んないでくれるぅ?あんたの利用価値は終わったの、友情ごっこは初めっから全部嘘だったのよ。もう用なんて無いんだから!」


 そのアイシラの言葉に、騎士達はセレンを『悪女に利用され切り捨てられた可哀想な罪無き娘』と判断したようで、再び彼女以外の連行に戻った。


 『ごめんね、生きて』。そう唇を動かしたアイシラとウィリアム王子がまず牢車に乗せられ、ガイアの体には幾重にも魔力阻害の鎖が巻かれる。


「ガイア……っ!」


 そのまま連れ去られる自分に伸ばされたセレンの手を、《《あるもの》》と一緒に振り払った。


「……もう俺は君の護衛じゃない、まんまと利用されて残念だったな」


 心臓が押し潰されそうな苦しみを噛み潰し、彼女を突き放す。本当はその小さな体を、今すぐ、抱き締めたいのに。


『今君まで捕まってはいけない。どうか、逃げ延びて』


「アイちゃん……っ、ウィリアム様、ガイア……ガイア……!ガイアーっ!!!」


 冷たい態度に隠した本心など、彼女には明け透けだっただろう。託したものを握りしめ泣き叫ぶように自分の名を呼ぶ絶望に満ちた声が響くなか、鎖の作用によりガイアの意識はプツリと途絶えた。



     ~Ep.73 執念深い女~


   『執念深き毒蛇が如き、女の悪夢は終わらない』


 

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