幼馴染はオールドファッション
氷砂糖恋衣は闊歩していた。
講義室からの勢いそのままに、恋衣は糖太の腕を離さずにキャンパス内を練り歩く。
「えーっと、恋衣?その...さっきは、ありがとう」
急に予想外の声を掛けられた恋衣は、ピタリとその場で立ち止まってしまう。予想外の急ブレーキに、糖太は思わず前のめりにたたらを踏んだ。
「...っと、どうした?さっきから、ちょっと変だけど」
今日は感情も行動もジェットコースター状態に思える幼馴染。まぁ変と言うならば、ここ最近のメンヘラムーブも十分変ではあるのだが。
「ごめん。さすがに、ウザかった...かな」
しょんぼりと肩を落とす恋衣。さっきまでの自信に満ちた表情は鳴りを潜め、腕をつかんでいた恋衣の手がそっと離れた。
「んー、ウザいというか、びっくりはしたけど」
キャンパスの出口付近で立ち止まっているからか、追い越していく帰宅途中の学生たちの視線が少し痛い。
「正直、助かったよ。ちょっと怖かったし、あの子」
周りからの好奇の目を気にしながら、さっきから伏せたままの恋衣の様子を伺う。ピタリと立ち止まったその足は、まだ重そうで動きそうにない。
(んー、これでもダメか。ならば仕方がない、奥の手だな)
言論での誘導を諦めた糖太は、拠り所を失くして宙ぶらりんとなっていた恋衣の手をギュッと握りしめた。
「えっ!?」
急な接触に声を上げる恋衣を無視しながら、踏み出した勢いそのままに恋衣の手を引いて歩き出す。
「えっ、えっ、ちょっ、まっ」と言葉にならない恋衣のリアクションを楽しみながら、帰宅する学生たちの流れに乗ってキャンパスを抜ける。
「ちょ、ちょっと!待って、トータ!!」
ようやく言語を取り戻した恋衣は、再び急ブレーキをかけて立ち止まる。引っ張られるように糖太も立ち止まるが、掴んだ恋衣の手は離さない。
「......えっと、その。急に、手...」
繋がれた手を持ち上げながら、照れっぱなしの恋衣。いや、自分さっき、急に腕に抱きついてきたくせに。
「ウザくないよ。恋衣がいて、すごく助かってる」
直視できずにチラチラと視線を外す恋衣を、真っ直ぐに見つめる。痛くならない程度に、握りしめた手に力を込める。
「一緒に帰ろ、恋衣」
なるだけ自然に笑いかける。ぜんぜん自然じゃない、ファッションメンヘラな幼馴染に向けて。
「...うん、帰る」
めずらしく素直で真面目な返事をした恋衣は、今日も地雷っぽい服装に包まれたまま。
それは、まるでドーナツを纏う砂糖のように。
甘く、綺麗にコーティングされたオールドファッション。
食べた端から、ほろほろと崩れてしまわないように。
「じゃあ。ドーナツ、買って帰ろうか」
次回作にご期待ください




