表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異国の廃棄王女  作者: 古芭白あきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/49

35. 廃棄王女、懐かしき顔と出会う

「サメルーンの王子と言うと、あのスケコマシですか?」


 マリカ……相変わらず恐ろしい娘。王族相手にも遠慮がないわ。一国の王子にスケコマシはないでしょう。


「……なぜ?」


 シャノンも私の意図を汲めなかったようね。小首をコテンと(かし)げています。大きな黒い瞳がクリクリしてちょっと可愛い。


「今回の件で、お父様が初めからロオカを切り捨てる心算(しんさん)だったのは間違いないでしょう」


 だから、お父様は今回の婚姻の企謀を隠し、私をロオカへ急いで追いやった。そう考えれば色々と納得できます。


「メディア様を捨て駒にされる陛下のお考えは承服しかねますが、状況からその通りなのでしょう」


 カザリアの王としての立場を理解しながらも、心情的には反発しているといったところでしょうか?


「……姫様」


 下から覗き込む黒い瞳が悲しげに揺れています。シャノンも私を心配してくれているのね。大丈夫よ、と声をかけて黒髪を優しく撫でると、シャノンは嬉しそうに目を細める。


「ですが、国王陛下の企てとサメルーンの王子がどう関係するのです?」

「エドガー卿の別れ際の示唆、アセビとカルミアに共通するものがあると言ったでしょう?」

「アセビは馬酔い、カルミアは羊殺しでしたよね?」

「ええそう、どちらも有毒植物なの。そして、毒とはお父様の策略を暗示しているのだと私は考えているわ」


 エドガー卿はお父様が何か策謀を巡らしている。それは私にも関わるのだと教えてくれたのでしょう。


「お父様はロオカに何かを仕掛けようとしている。だけど、カザリアとロオカの間には絶対的な距離があるでしょう」

「裏で糸を引いているのは国王陛下でも、現場で実際に策動あるいは協力する人物がいると言うわけですね」

「それが……サメルーンの……王子?」


 サメルーンは以前より南方の覇者の座を狙っていました。ロオカとは表面上友好的な関係にありますが、水面下では互いを蹴落とそうと激しく争っていたはず。その立場から考えても、お父様がロオカを失脚させる協力者にサメルーンを選択するのは十分にあり得ると思われます。


 加えて、シヴァ王子は夜会で私に接触してきました。サメルーンへ誘っていましたが、きっと私とロオカを仲違いさせる離間策でしょう。あんな美形の王子が私を本気で口説くはずありませんから。


「それにカルミアには裏切りの他に野心という花言葉もあるの。まさにサメルーンやシヴァ王子を指し示しているようでしょう?」


 以上からエドガー卿が忠告してくれたカルミアは、シヴァ王子であると私は確信している……のだけれど、私の力説にマリカやシャノン達は首を捻った。いまいち納得できていないようです。


「私の推測におかしなところがあったかしら?」

「いえ、おかしくはありませんが、少しこじつけのようにも思えまして」


 マリカの発言にシャノンも同意するようにコクコクと首を縦に振っています。その時、ずっと黙って傾聴していたアルトが手を挙げました。


「発言をよろしいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

「裏切りとソレーユ陛下の謀略への加担なら、真っ先に思いつくのは梟ではありませんか?」


 今回のアウルが私に対し情報を隠蔽した件から、アルトは梟に対する不信感を抱いたのでしょう。ただ、表面だけ見れば、アルトの推測は的を得ています。


「あのぉ」


 びくびくしながら青髪の侍女の一人が小さく手を挙げました。カザリアからついてきた最年少の侍女ユイリーです。


「あ、あの、わ、私はアルバート殿下が怪しいのではないかと思うのですが……」

「ユイリー、あんた何てこと言うの!」

「そうよ、アルバート殿下はメディア様の良い人になられるお方なんだから」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 先輩侍女のヤスミンとヨランダが憤慨し、そのせいでユイリーがすっかり怯えてしまいました。


「二人とも人の意見を頭ごなしに否定しない。だいたい、アル様は別に私とは何でもないわよ?」


 マリカを始め、侍女達が私を残念な子でも見るように呆れた目をしています。どうしてでしょう?


「それで、ユイリーはどうしてアル様が疑わしいと考えたの?」

「そ、それは……アルバート殿下がメディア様を誘惑なさっておいでだからです」

「ゆ、誘惑って、わ、私とアル様は別にそんな仲ではないわよ」


 何ですか。どうしてみんなして胡乱な目を私に向けているの?


「それにアル様は軍人気質で実直な方です。とても謀略に加担するとは考え難いわ」

「ですが、メディア様と仲が良いのは事実ですし、今夜のエスコートにしてもギルス殿下との仲をより悪化させているとしか思えません」

「そう言われれば、堅物のように見えたアルバート殿下でしたが、手慣れた感じでメディア様を口説いてましたね」

「それに、国を憂う割に行動が伴っていないようにも思えます」


 ユイリーの意見に説得力を感じたのか、ヤスミンとヨランダも急にアル様を疑い始めました。


「もしかしたら、アルバート殿下の狙いは現国王とギルス殿下の失脚で、国王の座を狙う野心家なのかも」

「だとすればカルミアの花言葉とも合致するわ」


 三人の予測にアル様がカルミアである気もしてきますが、私にはどうしてもアル様がそのような人物とは思えません。これは多分に私情が入っているでしょうか?


「ふふん、みんな考えが浅いわね」

「何よマリカ、ずいぶん上から目線ね」

「そうよ、マリカには誰がカルミアだか分かるって言うの?」

「とーぜん」


 侃侃諤諤(かんかんがくがく)みなが意見をぶつけ合う中、マリカが自信満々に横槍を入れてきました。まあ、マリカのことですから、いつもの的外れな推測でしょうけど。


「それはずばり、宰相のジルベール・デュマンです」

「何を言うかと思えば」


 やっぱりマリカね。


「デュマン卿は最初から私の輿入れに反対されていたのよ。もし、この縁談話が流れていたら、お父様の計画は成り立たなかったわ」

「でも、実際にはメディア様はロオカにお越しになられましたよね」


 マリカの指摘に私はハッと気がつかされた。


「そして、国王陛下の思惑に沿ってギルス殿下との婚姻を妨害しています」

「そう言われれば……」


 マリカの指摘は正しい。どんなに反対していても、取り交わした約束を反故にするのは拙いことくらい一国の宰相なら理解しているはず。


「それに、あの宰相は国を支えてきた名臣だって聞きました。なのにいくらなんでもボンクラになり過ぎじゃないですか?」

「つまり、デュマン卿はお父様に加担して国を裏切っているとマリカは言いたいのね」

「はい、その見返りに何かしらの地位を約束されているとすれば、とんだ野心家ではありませんか?」


 確かにデュマン卿の私に対する言動は、彼の事績から考えればチグハグな印象を受けます。初めて謁見の場へ赴いた時、私もデュマン卿がギルス殿下を止めないことに疑問を抱いたではありませんか。


「そうね。マリカの言う通りだわ」


 ジルベール・デュマン――


 ロオカ王国の宰相にしてジョルジュ陛下の即位からロオカを支え続けてきた股肱の臣。奇抜な才はなくとも如才ない手腕で、ロオカの危難を幾度となく乗り切ってきたと聞きます。


 天才的な偉業の話は皆無ですが、それだけに堅実な実績を重ねてきた老獪な重鎮。それなのに、私がロオカで会ったデュマン卿はまるで正反対の人物のよう。しかし、それも全てが策略であったなら得心がいきます。


 マリカに指摘されるまで失念してしまっていたなんて。私もまだまだのようです。


「私はシヴァ殿下を怪しむあまり、視野狭窄に陥っていたのかもしれない」


 お父様の策謀は既に動き出しています。だから、急ぎカルミアを洗い出し対策を講じなければなりません。ですが、だからと言って、サメルーンをカルミアと決めつけ、別の可能性を考慮しないのは危ういですね。


「他にも疑わしい人物はいるかしら?」

「ルッツ・ヤウロ……カザリアと……使者のやり取り……多い……」


 シャノンの説明では、ヤウロ伯爵領にカザリアから頻繁に人が出入りしているらしい。梟とは別の組織の者らしく、その目的までは分からない……となっているが、もしカルミアならシャノンにだけ秘密にされている可能性が否定できない。


 シヴァ殿下、アウル・ナイトメア、アル様、デュマン卿、ヤウロ伯爵。カルミアの候補がこんなにもいるなんて。


 さて、この中で誰が最も怪しい人物でしょう?


「第一候補はデュマン卿ね。その次がシヴァ殿下とアル様。最後にルッツ・ヤウロ伯爵も動向に注意が必要かしら。アルトには申し訳ないけれど梟は除外していいわ」

「……どうして?……一番怪しい……」


 アウルに騙された感の強いシャノンは、どうにも猜疑心を強くしてしまったようです。


「言ったでしょう。梟はもともと国に属する機関なの。彼らの行動は何も裏切りではないのよ。お父様の命令こそ彼らは優先すべきであって、それはエドガー卿も重々承知しているわ」


 梟の行動は一貫しています。私を奸計に陥るのを黙って見過ごすのも想定内のこと。


「シャノンは今まで通りに行動して。お父様の意思に反しない限り、アウルは私に協力してくれるはずだから」

「……承知」


 顔色は変わりませんが、シャノンの返事には不承不承な色が見える。この子には注意が必要そうね。暴走しなければ良いのだけれど。


「問題は他の四つの勢力の調査をどうするか、だけど……」


 デュマン卿、シヴァ殿下のサメルーン、アル様の王弟派閥、ヤウロ伯爵を筆頭とする中道派。私の臣下はマリカ達侍女とアルト率いる十数名の騎士だけ。


「人手が足りないわね」

「その点を解決する手段として、メディア殿下に会っていただきたい人物がおります」


 私が悩んでいたら、恭しくアルトが私の前に膝を突き首を垂れた。


「私に?」


 誰でしょうか?


 この地に知り合いと呼べる人物はおりません。アルトはロオカで人材探しでもしていたのでしょうか?


「はい、別室に待機させておりますので、ご許可を頂ければすぐにでも」

「随分と用意周到ね」


 私の裁可なく動いていたなんて、アルトにしては珍しい。


「私はアルトを信じています。良いわ、会いましょう」


 私が許可を出すと、アルトの部下がさっと退室しました。今から件の人物をここへ通すのでしょう。それほど待たず再び扉が開き、先ほどの部下の騎士が戻ってきました。


 一緒に入室してきたのは、侍女服に身を包んだ上品な初老の女性――


「お久しぶりにございます、メディア殿下」

「ベルナ!?」


 月花宮に残してきた侍女長ベルナでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ