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告白リテイク


 「んふふ、んふふふふふ」

 「………………」

 「ふふふふふふんふふ」

 「…………きもい」


 ひどい。

 

 ノアと私だけしかいない、放課後の食堂。頬杖をつきながらニヤニヤ笑いが止まらない。

 

 アメリアはダンスパーティー以来、お父様の研究に協力することが増えて今もわざわざ学園まで来た研究員さんと面会中だ。微調整したいことがあるんだって。フレイヤ様は冬季休暇中にしていた領地の仕事(おてつだい)の事後処理がまだ残ってるからと一足先に寮に戻ってしまった。王都にあるタウンハウスにいるお兄さんに会いに行かないといけないんだって。

 寮に戻る直前、私の服の裾を引っ張りながら上目遣いに見つめてくるフレイヤ様がかわいすぎた。抱きしめそうになるのを抑えながら頭を撫でておいた。人目があるからね。公衆の面前でイチャイチャは控えますよ。

 

 さっきのフレイヤ様を思い出しながらニヤニヤが止まらなくてノアに「きもい」って言われたんだけど。


 「……んふふ」

 「また笑ってるし。よかったわねぇ、ユーリ」

 「うん! まさかフレイヤ様も同じ気持ちなんて思いもしなかったからびっくりしたけどね!」

 「…………気づいてなかったのはあんたくらいよ」


 私の表情筋は緩みっぱなしだ。普段から緩めだけど今は全然仕事してないんじゃないかってくらいゆるゆるだ。こんな私の様子を見て、ノアはあっという間に私とフレイヤ様の間に何があったか察したみたいで、ふたりで教室に戻ってすぐに「おめでとう」と祝福してくれた。そして今、私の話に付き合ってくれている。


 「フレイヤ様、かわいいよねぇ」

 「はいはい。かわいいかわいい」

 「さっきもね、真っ赤な顔で目をうるうるさせながら私のこと見るもんだからさ! かわいすぎて悶えそうになるのを必死に抑えて――」


 気付けばノンストップでいかにフレイヤ様がかわいかったかということをノアに力説してしまった。同級生が彼氏のことを友達に惚気けているのを遠目に見てた時は「幸せそうだなぁ」なんて他人事だったけど、自分のことになるとよくわかる。大好きな人の大好きなところは人に話したくなるんだね!

 

 「はいはい。で、付き合うことになったと」

 「…………ん?」

 「だから、「好き」って伝えてフレイヤにも「好き」って言われたんでしょ? 両思いじゃない。なら付き合うんでしょ?」

 「え?」

 「え?」

 「………………」

 「…………返事、もらってないの?」

 「………………」


 あれ? ほっぺにちゅーはしてくれたけど、「好き」って言われてなくない?

 ってことは告白の返事、もらってない? っていうか私が言った「好き」って恋愛的な意味だって伝わってるよね? そういうのを含めて確認されたんだよね? 今更だけど私の告白はちゃんと告白だってフレイヤ様、わかってるよね?


 「……まさか、あんた」

 「……好きって言われてない」

 「…………はぁ。あんたもフレイヤも肝心なところで抜けてるわよね」

 「で、でも! ほっぺにちゅーされたよ? 「私の気持ち」だって」

 「それは親愛の挨拶でも……あー、フレイヤはそんなことするタイプじゃないわよね。じゃあそれが答えのつもりってことか」

 

 ノアがなんだか慌ててフォローしてくれてる気がするんだけど、やっぱり私の告白はちゃんと告白になってないんじゃないかって不安がむくむくと湧いてきた。さっきまでの浮かれ気分が一転、ちょっと泣きそうだ。

 

 「ノアぁああ」

 「うわ、急に弱気になるじゃない」

 「だぁってぇ……」

 「……まったく。恋愛事になるといつも以上にポンコツになるんだから」


 はぁっと大きくため息をつきながらもノアは私の頭に手を置いて撫でてくれた。なんだか不器用な感じでちょっと頭が揺れるけど、ノアなりに励ましてくれてると思う。……だよね? さっきから髪の毛引っかかってるけど?


 「あんたたちのことだから、あんたたちでちゃんと話し合いなさい。私が協力してあげられることがあったら協力はしてあげるわ」

 「うぅ……ありがとう、ノア」


 なんだかんだノアは優しい。

 ……うん、ちゃんとフレイヤ様ともう一回話してみよう。それで、ちゃんと私の気持ちをしっかり!伝える!



 ◇   ◇   ◇   ◇



 意を決してやってまいりました、フレイヤ様のお部屋! の前!

 放課後別れてから王都内にあるベロニカ公爵家のタウンハウスに行っていたフレイヤ様が帰ってきているのは確認済み! なんせ夕飯の時にフレイヤ様を見かけたからね。私が食べ終わる頃にやってきたから、一緒にご飯はできなかったけど。残念。

 まぁこれからいくらでも一緒にいられる機会はあるし、今までだってそうしてきたのだから今だけ。ドタバタが落ち着けばきっと一緒にいる時間だって今まで通りに取れる、はず。

 

 とにかく今はフレイヤ様と想いが通じ合ったんだってことを確認しないと!


 ふん!っと鼻から息を吐いて気合を入れ、ドアをノックする。この時間にフレイヤ様のお部屋を訪問したことはないから、ちょっとドキドキだ。


 「はい」


 中から聞こえてきた応答に一層鼓動が速まった気がする。左手を胸に当て、息を大きく吸ったり吐いたり深呼吸。落ち着いたところで中に呼びかけた。


 「フレイヤ様。ユーリです」


 ドタ、ドタバタタタ、いたっ――


 …………大丈夫かな? なんか結構いろいろ倒れてそうな音がしてるような?


 「……フレイヤ様?」

 「………………ちょっとまって」


 さっきよりもドアの近くで声が聞こえた。そしてさらに何やらゴソゴソと物音がした後に、やっとドアが開いた。ちょびっとだけ。

 そしてそのちょっと開いたドアの隙間からフレイヤ様が上目遣いでこちらを見ている。


 「…………どうしたの?」


 おぅふ。

 え、かわ、え? お風呂上がりなのかな? ほっぺた赤いし、髪の毛がちょっと乱れてる。少し視線を下ろすと真っ白いワンピースタイプの寝巻きが見えた。その上に淡い水色のカーディガンを羽織ってる。私のほうを伺うような顔には嬉しそうな、恥ずかしそうな色が見え隠れしていて、なんというか………………えっちぃ。


 「え、あ、えっと。お休みのところすみません。ちょっとお話できれば、と思って」


 バクバクと胸の内側から鳴る音を抑え込みながら、なんとかいつも通りの笑顔を意識してみる。けど、ちゃんとできてる気がしない。だって顔が熱いし真っ赤になってるもん、絶対。


 「…………どうぞ」


 どことなくぎこちない動きでドアを開けてくれたフレイヤ様に導かれ、私はフレイヤ様の部屋に入った。


 寮生活を始めて半年以上。フレイヤ様のお部屋には何度か来たことはある。私が暮らしている部屋よりも広く、充実した設備だ。なんせ公爵令嬢だからね。まぁ、使用人がいるから、っていうのも理由のひとつなんだけど。

 私の部屋は前世で言うところのワンルーム。フレイヤ様のお部屋はLDKっていう感じだ。システムキッチンに、軽く食事ができるダイニングテーブルと、ゆったりくつろげるソファーが備え付けられている。それとは別に、寝室として使える部屋があるんだとか。もちろん、寝室は行ったことありません。


 そして今、フレイヤ様に促されて座っているのはくつろぐためのソファー。隣にはフレイヤ様。………………なんで?

 てっきりダイニングテーブルについてお話するのかと思ってたんだけど、自然とこちらに座るように誘導された。


 「リタはもう休んでしまったから、お茶の用意はできないけれど」

 「あ、いえ、お構いなく」


 リタさんの部屋はフレイヤ様の部屋に隣接する部屋だったはずだ。廊下側からだけでなく、ダイニング横の扉にも繋がってるって聞いた。

 だから今、私とフレイヤ様は部屋に二人っきりなわけで。


 「……………………」

 「……………………」


 心臓が、もちません。


 隣に座ってるフレイヤ様からずっと香ってくるいい匂いとか、腕に薄っすらと触れる柔らかい感触だとか、何よりも今この瞬間の空気に頭が沸騰しそうだ。まともにフレイヤ様のほうを見られない。


 …………いやいや、しっかりしろ、私。何しにここに来たんだ。さっきまでの勢いを思い出せ!


 鈍る思考になんとか活を入れ、フレイヤ様のほうに視線を向ける。……ちらりと。

 そしてその瞬間、目に入ってきたものに思わず鼻血を吹きそうになった。


 だって! 真っ赤な顔してもじもじとしてる好きな人を見たら、誰だってそうなるでしょ!!!

 

 …………危ない。完全に意識が持っていかれるところだった。思いっきり自分の太ももつねってなかったら、全部持ってかれてた。


 「ふ、フレイヤ様」


 でも声が裏返るのはどうにもできなかった。

 私の声に呼応するようにフレイヤ様の肩が跳ねる。そして何か覚悟を決めたような顔をしてこちらに振り返った。

 よし、言うぞ!と心を決めて、口を開く。


 「フレイヤ様のことが、す、好きです……! 恋愛的な意味で!!」


 勢い込んで言ったはいいけど、やっぱり反応が怖くて目を瞑ってしまった。

 人生二度目の告白。しかも同じ日に。昼間は自然と言葉が溢れていたから、自分で言うぞと覚悟を決めて言うのは人生初めて。こんなにも緊張するものなんだなぁと再度沸騰しそうになってる頭が場違いな感想を抱いた。


 バクバクと鳴る心臓の音を聞きながら、でもフレイヤ様の反応がなかなかなくて恐る恐る目を開けた。

 ソファーの隣に座っているから、フレイヤ様の顔はすぐ目の前にあった。そしてなぜか固まっていた。


 「…………フレイヤ様?」

 「…………………………」

 「あのー、フレイヤさまー?」

 「………………………………ユーリの」

 「はい?」

 「ユーリのバカー!!!!」

 「うぇえええええ??!!」


 なぜか罵倒され、頭上に氷の塊が出現した。慌てて魔法を解いたから大事にはならなかったけど、その後は枕にクッションにといろんなものを投げつけられて強制的に部屋を追い出されてしまった。


 結局、フレイヤ様から答えがもらえないまま、でもこれ以上刺激して凍らされるのも困るので私はすごすごと自室に戻ることにした。




 

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