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浄化するだけの簡単なおしごと


 「――で、ここまで来たのはいいんだけど。アンデッドがこれだけいるとアメリアだけっていうわけにはいかないよねぇ」

 

 目の前の光景にため息が出た。

 

 中心街から離れた場所にある古びた館。その敷地内にはゾンビ、レイス、ゾンビ、ゾンビ、レイス。うーん。下手なお化け屋敷よりお化けがいるぞ。

 私の隣で腰に手を当て、仁王立ちしているノアも一緒になってため息をついている。

 

 「私の魔法で一時的に足止めはできるわね」

 「ノアの魔法だと強制的に火葬できそうだよね。一緒に館も大火事だろうけど」

 「そこまで火力出さないわよ。ま、足止めならフレイヤの氷魔法のほうが確実かしら」

 「凍らせるのはいいけれど、その後止めを刺すのが厄介にならない?」

 「じゃあ私が首飛ばしましょうか? あ、でもレイスは斬れないか」

 「……飛ばしたところでゾンビも動くでしょ」

 

 うーん、早速手詰まり?

 

 ちらり、とアメリアを見ると顔を真っ青にしている。これじゃアメリアに聖魔法バンバン打ってもらうのもできないだろうな。そもそも話を聞くとそんなにバンバン打てるような魔法でもないみたいだった。数匹をまとめては浄化できるけど、広範囲を一気に遠くからという感じではない。少数を少しずつ叩くとなると時間がかかって仕方ないだろう。

 

 近づいて一気に倒すんだったら、アメリアの聖魔法を私が使えれば全部斬っちゃえるんだけどなぁ。なんかこう……剣に付与!みたいなことできないのかな? あ、一緒に剣を握ったらそういうことできそうじゃない? ほら、手を添えて……みたいな! ふたりでひとつの魔法を使う!的なゲームシステム、ありそうじゃない?


 ノアとフレイヤ様はまだどうしようかとアンデッドの群れを眺めている。ちょっと試してみよう。ダメだったらダメでまた考えればいいや。


 「アメリア」


 私が声をかけるとキョロキョロと辺りを見回していたアメリアの視線がこちらに向いた。心なしか涙目になってる。


 「大丈夫?」

 「だいじょうぶ、です」

 「声、震えてるよ」

 「…………大丈夫じゃないです」

 「もしかして、幽霊怖い?」

 「いえ、どちらかというと魔物が……あんなにたくさんいるのを見たことがないので」


 そっか。アメリアって王都で暮らしてたんだもんね。王都の周りには大して魔物がいない……というか、定期的に駆除されているから見る機会も少なかったんだろう。それに今目の前にいるのはアンデッド系ばっかりだし、完全にホラーだもんなぁ。ただの魔物よりもインパクト強めの絵面だもん。

 このまま突っ込んで行ったら気絶しちゃったりしないかな。そしたら魔法も使えないよね。アメリアが魔物を直視しなくて良くて、なおかつ私がアメリアの魔法を間接的に使える感じにしたいんだよね。うーん。抱えちゃうのが早いかな。

 

 ちょいちょい、と手招きするとアメリアが私の眼の前まで寄ってきた。…………怖さで少し幼児退行してる気がしないでもない。


 「よっこいしょっと」

 「へ? え? きゃあ!」


 わ、軽いな。


 「ゆ、ユーリさん?!」

 「アメリア、ご飯ちゃんと食べてる? あ、でも抱き心地はいい感じだ。ふわふわしてて気持ちいい」

 「な、何をっ?! ちょ、あの!!」


 わたわたと腕の中で身を捩っているアメリアを逃がさないようにより強く抱きしめる。お姫様抱っこだと剣を振るえないから、片手抱き。左手でアメリアのお尻を支えるように抱き上げている。さすがに米俵みたいに持つわけにもいかないからね。ずっと上下逆さまになってたら気持ち悪くなっちゃうだろうし。


 「アメリア、ちょっとじっとしててー。あ、できれば私に掴まっててもらえると助かる」

 「え? え?」


 んー、まぁいっか。まだわたわたし続けてるから安定した姿勢は保ててないけど、とりあえず移動してる間は右手でも支えちゃお。

 おおよその算段はついたのでまずは近くにいるゾンビの群れ(小)に突っ込んでみることにした。ダメだったらすぐに撤退すればいいや!


 「よし! 行ってみよー!」


 掛け声と共に走り出す。突然の動きにビックリしたのかアメリアが私の頭を抱え込むようにぎゅっと抱きついてきた。ふよふよとした感触が顔の左半分いっぱいに広がってる。……うん、すごいね。

 っと、ゾンビの群れが目の前だ。


 「アメリア、ちょっと聖魔法使って!」

 「……!」


 私の声になんとか反応できたのか、アメリアの身体がうっすらと光を帯び始めた。やっぱりファイアボールみたいに魔法弾を飛ばすんじゃなくて自分を中心とした範囲を浄化するタイプなんだろう。指向性を持った光の帯がアンデッドに向かう――よりも速く、私の剣が手前の一匹を捉えた。横に一閃、ゾンビの頭部が空中に舞う。断面からじゅわっと何かが焼けるような音がして残された身体が空気に溶けていった。


 「……おー、いけそうだね」


 どうやら剣自体に付与された感じとはまた違うけど、私の斬撃が聖魔法といい感じにこう…………うん、よくわかんない。詳しいことは詳しい人にお任せするとして。浄化はできそうだしこのままこの群れは倒しちゃえるね! そうと分かれば後は斬るだけだ!


 アメリアの聖魔法をなんとなーくお借りすることができて、あっという間に群れをひとつ掃討できた。心なしか今いる場所だけ空気が澄んでる気もする。思いつきでやったことがうまくいって満足、満足!

 

 「うん、この調子で行けば全部浄化できちゃいそうだね!」

 

 少し外れにいたのを浄化しただけだったので、一度フレイヤ様たちの元へ戻ることにした。この作戦で行くにしても、フレイヤ様とノアに相談しなくちゃいけないし。

 

 「ノアー、なんとかなりそうだよー」


 ルンルン気分でふたりのほうへ近づき声をかけるとふたり同時にこちらを見た瞬間に動きを止めてしまった。

 

 「……ユーリ、あんた何やってんの?」

 「? 何が?」

 「いや、なんでアメリアを――」


 あ。忘れてた。アメリア抱えたままだったね。

 私に抱きついてそのままのアメリアの背中を軽く叩き、地面に下ろす。俯いたまま、耳まで真っ赤にしているアメリア。ろくに説明もせずに突っ込んじゃったからなぁ。怖かったんだろう。


 「アメリア、ごめんね? 大丈夫だった?」

 「…………だ、だいじょ、ぶ、です……」


 大丈夫じゃなさそうなお返事を頂きました。これで残りのアンデッドに突っ込んで行っていいのかちょっと不安になる。でもアメリアの負担も少なくなるだろうし、これ以外の作戦が私には思いつかないんだよね。


 「で、何がどうしてアメリアを抱えてたわけ?」

 「あ、そうそう。アメリアの魔法ってそんなに広範囲に、遠距離からバンバン打てる感じでもないんでしょ? 他の魔法じゃ完全に浄化できないし。だから私が抱えてアメリアの聖魔法と一緒に斬っちゃえばいいかなーって思ってさっきやってみたらできたからこれで行こうかなって」

 「事後報告やめなさいよ。そしてなんでできちゃうのよ」

 「うーん、そこはよくわかんないからノアが見て解析してくれると助かるんだけど」

 

 できたからできた、としか言いようがないんだよね。


 「まぁいいや。とりあえず、ちょっともう一回やるから見てて。アメリア、ちょっとごめんね」


 言うが速いか私は再びアメリアを抱え、少し離れたところにいたレイスの群れ(小)に突っ込んでいきゾンビの群れと同じように掃討してノアたちのところへと戻る。


 「こんな感じ」

 「……はぁ。ユーリはやっぱり意味わかんないわね」


 再度地面にアメリアを下ろしたところでノアに盛大にため息をつかれた。ちなみにフレイヤ様はさっきからずっと固まってるんだけど、大丈夫なのかな? アメリアはまだ顔真っ赤なまま俯いてます。


 「……聖魔法の特性なんて一部の教会関係者くらいしか知らないし、詳しくはわからないけど。あえて言うなら『加護として聖なる力が付与されている』というところかしら」

 「おー、そんなことできるんだね」

 「あくまで推察。それに全員にそれができるかとなるとまた別の話よ。ユーリが接近戦で斬りつける時にアメリアが魔法を発動することで擬似的にユーリが聖魔法を使えてる状態かもしれないし。私でも同じことができるなら、聖火として燃やすこともできるかもしれないわね」

 「あ、それなら一気に片付きそうだね! やってみよう!」




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛の力で出来ちゃったねww
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