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サフラン領の困りごと


 一夜明け、目が覚めると悶々とした気持ちも重だるかった頭と身体もスッキリ回復!してました。

 こういうところは健康優良児である自分自身に感謝だね。風邪をひいたときも1日で全回復してたもんな。前世でもそうだったけど、現世も身体は丈夫なほうみたい。

 寝るまでに少し葛藤もあった気がするけど、そこは気にしないでおこう。余計なことまで思い出しちゃいそうだし……うん、切り替え大事。


 いつものようにズボンとシャツを着込み、私に割り当てられた部屋から出て食堂へと向かう。

 一応屋敷の中は到着してすぐに案内してもらっていたので、迷うことなく長い廊下を進む。時々ノアのおうちの使用人さんたちとすれ違うから朝の挨拶を交わしながら我が家よりも長い廊下を歩き、目的の場所についた。いい匂いがするなぁ。朝ご飯の準備もしてくれてるみたいだ。ドアを開けるとすでにアメリアが席についていた。ノアとフレイヤ様は相変わらず朝はゆっくりだからね。もちろんまだここにはいない。

 私がドアを開けた音に反応して、彼女がパッとこちらを向いた。


 「あ、ユーリさん!」

 「おはよう、アメリア。昨日は心配をかけてごめんね」

 「いえ、すっかり顔色もよくなったみたいで……よかったです」

 「うん。もう大丈夫。ありがとう」


 アメリアにもすごく心配かけちゃったんだよなぁ。私を見た瞬間の泣きそうな顔に申し訳なさがまた復活した。あとでノアにもちゃんと謝らないと。

 まだちょっと心配そうな顔をしてるし、頭を撫でておこう。よしよし。

 

 「ユーリ、さん?」

 「んー、アメリアの髪はいつもさらさらで気持ちいいねぇ」


 わしゃわしゃってしすぎると絡まっちゃいそうだし、ゆっくりと丁寧に手を動かす。

 ほんと、どうやったらこんなにさらさらになるのかな? 柔らかくて気持ちいいし、なんだかいい匂いもするからアメリアの頭撫でるの好き。

 

 「あ、あの……ユーリさん……」

 「んー?」

 「朝ごはん、食べないんですか?」


 おっと。思わず夢中になって撫で過ぎちゃった。

 使用人さんたちが私たちのご飯を用意してくれてるし、お腹もすいてるからご飯にしよう。せっかくのあったかいご飯が冷めちゃうね。

 パッと手を離してアメリアの対面へと移動した。改めて席につき、アメリアのほうを向くと顔が真っ赤になってた。暑いのかな。カーテン閉めてもらったほうがいいんじゃない?


 「アメリア、大丈夫? 暑い?」

 「いえ……これは、えっと……何でもないです。気にしないでください」

 「? そう? 暑かったら私がそっちに座るから言ってね」

 「はい」

 

 まぁ暑くないならいっか。


 少ししたらアメリアの顔色もいつもの調子に戻り、ふたりでゆっくりと朝食を楽しんだ。私は昨日軽めにしか食べていなかったから朝からしっかり頂きました。おいしかった。

 お腹も満たされて使用人さんが淹れてくれた食後の紅茶を頂きながら気持ちまで満たされていたところでやっとフレイヤ様とノアが食堂へとやってきた。


 「すっかり元気みたいね」


 朝の挨拶を終えたところでノアがカップを傾けながら私の顔を見てほっと息をついた。


 「うん、心配かけちゃってごめんね」

 「無理にこっちまで連れてきたのは私だし、気にしなくていいわよ。体調が優れない時だってあるでしょ」

 「……うん、ありがとう」


 ノアって素っ気ない態度を取ることも多いけど、根はすごく優しい子だよねぇ。なんてまるで妹を見るような目で見つめていたら燃やされそうになった。照れ隠しに燃やすのはやめてほしい。


 「まぁいいわ。ユーリも元気になったし私達の食事が終わったら出かけるわよ」

 「え、みんなで?」

 「そ。フレイヤとアメリアには昨日説明したんだけど、領内でちょっとした事件があるのよ。詳しい話は先方に聞けってことだから詳細までは聞いてないのよね。ただせっかくなら客人たちも連れて行けって。ま、いつものことながら丸投げよ」

 「相変わらず伯父様はスパルタだねぇ」


 次期伯爵のノアに対してノアのお父様は時折領内の仕事を与えている。しかもこの仕事が結構厄介だったりするみたいで、ノアが頭を抱えているのをよく見かける。多分予行演習みたいな感じなんだろうけど。期待値も高いっていうことなんだろう、うん。

 今回のこともそれだろう。私達も連れて行けっていうことはノア一人だと攻略できないことでもあるのかな。


 「とにかく行ってみるしかないわね」


 そう言いながらノアは食後のお茶を口にした。


 

 ◇   ◇   ◇   ◇



 「おー……これは」

 「立派な教会ですね」


 ノアのお仕事に付き合う形で伯爵邸から出た私達は馬車に揺られて目的地である教会の前にたどり着いていた。

 立派な白い建物には十字架を模したモチーフと鐘楼があり、両開きの扉までも真っ白で海を臨むように建てられている。地中海にでもありそうな感じだ。こういうところで結婚式挙げたいっていう女性も多そう。


 アメリアとふたり並んで建物を仰ぎ見ているところで、教会から一人の男性が出てきた。


 「ノア様、お待ちしておりました」

 「遅れてしまって申し訳ないわ」


 ノアに向かって頭を下げていたのは、真っ白の衣に包まれた……チキンを揚げてそうな感じのオジサマだった。いや、髭とかね。メガネもそうだけど。よくお店の前に置かれてたオジサマとそっくりなんだもん。既視感っていうか……そのもの?

 とにかく揚げチキンのオジサマ(この言い方、ちょっと悪意あるね)はTHE司祭様っていう感じの服を着て、これまたTHE司祭様っていう感じの帽子?を被っている。


 「皆様、中へどうぞ」


 オジサマに連れられて、私達は教会の中へと案内された。


 木のベンチが並ぶ礼拝堂を抜け、案内されたのは質素な執務室のようなところだった。簡素な一人用の椅子と机の前に応接用のソファが設えてある。ソファ自体もそこまで豪奢なものでもない。3人がけのソファがローテーブルを挟むように置かれている。短辺に一脚一人用のものもあるので、司祭様(暫定)はここに座るのかな?


 「どうぞ、おかけください」


 促されるままにソファに座る。アメリアとノア、私とフレイヤ様のふたりずつだ。

 司祭様がお茶を用意してくれたところで、ようやく彼の素性がわかった。いや、わかってたけど。

 

 「改めまして。本教会の管理を承っておりますカルネルと申します」


 名前まで揚げ鶏感があった。

 ノアがサッと私達の紹介をしてくれる。ちょっと笑いそうになってたので助かった。


「それで、相談とは何かしら。詳しい話までは伺ってないのよ」

「はい。内容が内容ですので直接お話させていただきたく、そのようにお伝えした次第でございます。実はですね、ここ最近サフラン領東部――ここからですと馬車で1時間ほどの距離なのですが、空き家となった館があるのです」


 その空き家は元は名のある商会の持ち物だった、らしい。サフラン領は別荘地としても有名だからそういった屋敷も多くある。

 しかし『空き家』と言っているように今は誰も住んでいない。はずなのに。


 「ここのところ、その館に何者かが出入りしているようなのです。それも、複数人が」

 「犯罪者集団かもしれない、ということかしら? それなら自警団に相談しているだろうし、そもそもただの犯罪者集団だったら司祭であるあなたから話は来ないわよね」

 「はい。自警団が様子を見に行きました。そしてノア様がおっしゃる通りでございます。その館にいたのはアンデッドモンスター。我々教会の領分です」

 「? 人間ではなかったの?」

 「いえ、人間もいたようなのですが……館の周りにアンデッドモンスターが多すぎて近づけず、中までは捜査できていないのです」


 何かしらの犯罪者集団とアンデッドモンスター、つまりはゴーストやらゾンビやらのホラー系。

 何かきな臭さを感じる組み合わせだ。でもそれがどうして領主(ノア)のところに話が来たのだろうか。そう思っていると司祭様が続けた。


 「領主様にご相談したところ、折良く聖女様がいらっしゃるとお伺いしましたのでノア様にご足労願った次第です」


 司祭様はそう言いながらアメリアを見つめた。

 

 「聖女?」


 司祭様の視線を受けながら、アメリアはぽかんとしている。それはそうだよね。そんな話、聞いたことない。いや、もしかしたらゲーム設定的にはあるのかも? そういう特殊な立場って主人公っぽいし。アメリアが使える魔法ってなんか特別な感じだったんじゃなかったっけ。

 状況が飲み込めずに二の句が継げない私達の中でもフレイヤ様が先んじて通常運転に戻ったようだ。顎に手をやり、考え込むような表情で司祭様に疑問をぶつけてくれた。

 

 「聖女とは、()()聖女ですか?」

 「さすがはベロニカ公爵令嬢様でございますね。ご存知ですか」

 「えぇ。しかし、あれは子どもの寝物語のような話だったかと記憶しております。私も父に連れられて聖都に赴いた際に話を聞いただけですので、詳しくは存じ上げておりませんが」


 うん、全く話が見えてこない。

 フレイヤ様と司祭様だけで完結しちゃってるじゃん。ノアは何か思い当たることがあったのか、驚いたような顔をしてるけどさ。私とアメリアは置いてけぼりだよ。

 

 「えっと……フレイヤ様、ご説明していただいてもいいですか?」

 「あぁ、この話は私からのほうがよいでしょう。ご説明差し上げます」


 私の疑問に司祭様が答えてくれた。

 曰く、聖女とは。


 「かつてこの世界には邪神というものがおりました。私どもが信仰する神とは違う、まさに邪悪なる者。『神』と呼ぶにも忌まわしい、深淵から訪れた者。それとの戦いは幾年、幾百年と続き、ついには聖女様がご降臨なさったことで戦いにひとつの終止符を打つことができたのです。それでもそれは休戦に過ぎませんでした。聖女様の力を持ってしても倒すことはできず、彼の地で封印することしかできませんでした」


 ということらしい。

 本当に子どもの寝物語、お話の中みたいな話だ。どこかで聞いたこともあるような設定にちょっとだけ首を傾げてしまうけど、やっぱりそういった設定なんだろうなぁ。主人公。

 で、アメリアが『聖女』である証明が彼女の使える『聖魔法』ということだ。同じ光を司る『光魔法』よりもさらに強力であり、唯一人を癒やすことができる魔法。時代の中で使える人間は数えるほどしかいない。そして、その『聖魔法』を使えるアメリアがたまたまサフラン領に来ることを知った司祭様は件のアンデッド退治を依頼したい、という話だった。


 「アンデッドモンスターには光魔法しか効きません。他の魔法はせいぜい干渉する程度。しかし光魔法の使い手も多くなく、聖都からの派遣を待つには時間がかかりすぎる。聖女様、アンデッドモンスターの討伐をお願いできないでしょうか」

 

 必死な表情でそんなことを言われて優しいアメリアが断れるはずもなく、魔法の実力者でもあるノアとフレイヤ様もいるし物理的には私もいるということで、私たちはその日の夜にアンデッドハントをすることになった。



 

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