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心配令嬢と氷の剣


 ケルベロスを吹っ飛ばした先は森の中にぽっかりと空いた広場だった。

 地図で見た『木々が途切れた広い空間』のほうへ吹っ飛ばしたのがうまくいった。私の風魔法で人の気配は探知済みだ。半径数十メートルの範囲で生徒はいないし、ノアが非常用の花火を上げた音も聞こえた。とりあえずは大丈夫だろう。


 さて、手元に剣はない。私の武器は拳と得意の風魔法だけだ。上級魔物となると魔法によるダメージも少ないだろうなぁ。ここまで吹っ飛ばしてきた時もそんなに手応えなかったし。

 どうしたものかと考えながらも、吹っ飛んでいったケルベロスに追いついた。

 頭を強かに打ったのか、首を振っている。律儀に3つとも。なんかかわいい。


 あ、目が合った。


 「グルルルルッ」


 怒ってますね。これは。


 ケルベロスから3mほど離れたところで足を止め、構える。

 牙をむき出し、口角をぐいっと上げて威嚇されている。涎がべちゃっと地面に落ちた。ついでにジュっと地面が溶けた。


 「えぇぇぇぇ、そういう特殊能力あるの?」


 冥府の番犬の涎だもんね。凶器だよね。


 眉間にシワを寄せる私などお構いなく、ケルベロスが跳んだ。

 うわ、涎が飛び散るの危ねぇぇぇえ。


 身体にも風を纏い、できるだけ涎がかからないように避けながら、ケルベロス自体を迎える。

 先ほどと同じように前脚で私の身体を引き裂こうと振り下ろされる。その前脚にタイミングを合わせるように、私も右の拳を突き出した。

 バチッと前脚を弾き、そのまま左の拳で顎を狙う。


 「うぉっ」


 頭3つあったんだったー!

 真ん中の頭を狙ってたら左右の頭に左手パックンされるところだった。

 寸でのところで左拳から風を放って自分自身を弾いたからパックンされずに済んだ。セーフ。

 それにやっぱり魔法耐性が高そうだ。拳で直接脚を弾いたっていうより、魔法が干渉したような感覚があった。薄いバリアがある感じ。


 ケルベロスから距離を取り、振り出しに戻った。さて、どうしたものか。


 「……ひとりで頭3つって無茶だったかなぁ。剣があればよかったんだけど。ま、とりあえずみんなが逃げられる時間を稼げればいいもんね」


 うん、とりあえずがんばりますか!


 私は再度、姿勢を低くして構えをとった。

 噛まれない、引っかかれない、涎浴びない。それ第一に脳天に拳を叩き込む! 3つ分!


 グッと力を脚に込め……


 「ユーリ!」


 ピタリ、と私とケルベロスが止まった。

 ちょうど私達の間に、フレイヤ様が現れたからだ。


 「っ! フレイヤ様!」


 私よりも先にケルベロスが動き出した。私も弾かれたように駆け出す。間に合え!


 「アイスエッジ」

 

 ケルベロスがフレイヤ様に到達する直前、奴の身体が下から突き上げられるように吹っ飛んだ。


 「……おおー」


 フレイヤ様の氷魔法でした。

 ちょっと唖然としてしまった。だって結構飛んだよ? さっきの私の拳みたいに魔法に対するバリアがあったから刺さらなくて反発した衝撃っていう感じだけど。それにしても結構な高さの氷の棘……え、こわ。


 そして凍てつくような瞳で見られている私。

 お、怒ってる……それも今までにないくらいに……


 「フ、フレイヤ様……?」

 「……っ! あなたは本当に! いつもいつも! ひとりでどうにかしようと考えるなんて! 自分のこともちゃんと考えなさい!」


 フレイヤ様がずか、ずか、と私に詰め寄ってくる。あまりの剣幕に私も少し後退るけど、それよりもフレイヤ様が近づくほうが早い。

 そのままぴたりと私の目の前まで来て、フレイヤ様が私の肩に額を押し付けた。


 「……っ、心配、させないで」

 「……ごめんなさい」


 小さく震えているフレイヤ様の肩に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 みんなを守るために、どうにかできるつもりで飛び出して来たけどフレイヤ様が来てくれなかったら膠着状態のままだっただろう。もしかしたらそのままやられていたかもしれない。彼女を、悲しませていたかもしれない。

 私はフレイヤ様の背中に手を回す。


 「……フレイヤ様」


 「グオォォォ!!」


 ……完全に忘れてたわ。まだ終わってなかったんだった。

 

 フレイヤ様がパッと離れた。咳払いまでしてる。心無しか顔が赤い気がする。すんごい怒らせてたからなぁ。

 空高く吹っ飛ばされてただけで大したダメージもないのか、さらに不機嫌そうなケルベロスが呻き散らしている。

 

 「……とりあえず、アレをどうにかしなくてはですね」

 「えぇ、そうね」

 

 さて、どうしたものか。剣さえあればどうにでもなりそうなんだけど。

 剣、剣……あ、そうか。

 

 「あ、フレイヤ様。ご相談なのですが氷で剣って作れますか?」

 「剣?」

 「はい、できれば私がいつも使っているような感じの」

 「やってみます」


 集中しながら両手を空に向け、フレイヤ様が魔力を練る。空中に現れた氷が形を成していき、私がいつも使っている剣が現れた。


 「おぉ、そっくり」

 「……よくあるものです」


 出来上がった剣を右に左に持ち替えながら、剣先を見上げる。うん、そっくりっていうかそのものっぽいな。氷だから冷たいけど、持った感じも手に馴染む。振った感じもいつもの剣だ。

 

 「本当にそっくりですね。うん、これがあれば何とかできそうです!」

 「何とかって……ちょっと、ユーリ!」


 私はトントン、とその場で飛び上がり、3回目の跳躍でそのままケルベロスに向かって跳んだ。


 シュッ。


 風を切る音。

 遅れて、3つの首がそれぞれ地面に落ちる。


 「あ、壊れちゃった」


 砕け散った氷が私の起こした風に舞い、その向こうでフレイヤ様がぽかんとしていた。



 

 

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