魔法学オリエンテーション
学園に入学してからひと月が経った。
学校生活を送ってみて、なんだか日本の学校に似ているなぁと思うところが多々ある。日本産のゲームだからかな? でもまさか実力テストまであるとは思わなかった。そんなところはこう……勉強が苦手な私的にはうやむやっとしてもらえると助かると言いますか。まぁそういうわけにもいかないか。これは現実だもんね。
そしてテスト期間最終日の今日。魔法学の実技テストがある。名目的にはオリエンテーションということらしいけど、実態は魔法テスト。今までの授業は座学が中心だったから、今後の実技授業のクラス分けの参考にするらしい。
私達は学園内にある運動場のような広場に集められていた。
授業の開始を前に、なんとなくいくつかの塊になりながら待っている。私はもちろん隣にいるフレイヤ様とノアと3人でいる。
ガヤガヤとしている中、教師陣が運動場の前方に現れた。校長先生が全校集会で話をする時に立つような台座があり、そこに上った魔法学教諭が杖を片手に話し出した。
「えー、皆さんおそろいですかな。これより魔法学実技の第1回授業を始めます」
それまで三々五々、散らばっていた生徒たちがなんとなく先生の前に集い始める。
おじいさん魔法使いって感じの先生はみんなが集まってきているのを確認し、話を続けた。
「まずは今日の行程についてです。一組4人のチームになっていただき、学園裏の森へと各班入ってもらいます。森の中には5つのチェックポイントがありますので、そこで必ずスタンプをもらってくること。5つすべてを集めたところでこちらに戻ってきてもらいます。また、森の中には低級魔物が放してあります」
スタンプラリーだった。
「それでは、班決めを行ってください」
細々とした注意事項の後に、急にざっくりとした指示が出て生徒たちが右往左往し始めた。雑すぎやしませんかね。
まぁそうは言いつつ、みんなだいたいは仲の良い者同士で集まっているようだ。人数調整をしつつ、どんどん班ができていった。
周りの様子を横目に私もフレイヤ様たちに班の相談をすることにした。
「あとひとり、どうしましょう」
「誰でもいいわよ」
「ノア、誰でもいいが一番困るんだよ」
「じゃあユーリが決めなさいよ」
「人任せ……フレイヤ様、もノアと同じですね」
最後まで言うまでもなく、フレイヤ様の視線で答えがわかってしまった。こういうところは付き合いの長さを感じる。幼馴染ふたりに丸投げされて、私は小さくため息をつく。『誰でもいい』って言う割にふたりとも人見知りというか人付き合いが下手というか。あんまり他のクラスメートと関わり持とうとしないんだもんなぁ。
それに一人であぶれてるような人なんて……いた。
「アメリア」
班が決まって森のほうへと流れていく人波の中におろおろしていたアメリアが目に入ったので、声をかけて手招きした。
「一緒に組まない?」
「え、えっと。いいんですか?」
アメリアがちらりとフレイヤ様のほうを見た。私とはよく話をしてるけど、フレイヤ様とノアとはほとんど話した事ないもんね。それに公爵家令嬢だし。
私もつられてふたりのほうを見つめると、少しだけ疲れたような顔でフレイヤ様が先に答えた。
「……構いません」
「いいわよ、別に」
「ん! 決まり! よろしくね、アメリア」
「はい! よろしくお願いします」
無事、4人集まったところで私達はスタート地点へと向かった。
スタンプラリーが行われる森は王城とは反対側に位置している。この広大な森は魔法学だけでなく剣術の授業でも実技演習の際に使われるらしい。剣術の授業で森に入るってことはサバイバルゲームでも行われるんじゃないだろうか。……前世でサバイバルゲームはさすがに学校でやったことないなぁ。
スタート地点に着くと何組かの班が溜まっていた。森に入るための順番待ちだ。私達もその後ろに並ぶ。ちなみにそれぞれスタートした時間を記録され帰ってくるまでの時間で評価されるらしい。
「それじゃあ、行きますか」
「はい」
やっと私達の順番が来たので、私を先頭にアメリアとノア、そして最後尾にフレイヤ様という順番で森の中の道を行く。うん、まぁどこにでもある森って感じだね。我が家の近くにある森とも変わらない。都会なのにこんな鬱蒼とした森があるのが逆に驚きだ。
チェックポイントは微量な魔力を放出しているとのことなので、それを頼りに方向を決める。
「ノア、方向こっちであってる?」
「えぇ、もう少し北ね」
「ん、わかった」
◇ ◇ ◇ ◇
ノアの魔力探知のおかげで魔物に遭遇することなく4つのスタンプを手に入れることができた。
あ、ちなみに魔物っていうのはRPGとかで出てくるアレです。スライムとかゴブリンとかそういうの。普通の動物もいるんだけどね。もっと凶暴で危険な生き物。幸いにも人の住む地域には滅多に出てこないんだけど被害が全くないっていうわけでもないんだよねぇ。
「あとひとつですね」
「うん、ほとんどノアの魔力探知くらいしか使ってないけど、こんなのでいいのかな」
「本来もっとお互いの魔法を駆使して探すんでしょうけどね。私レベルだとこうなっちゃうわよ」
「サフラン様はすごい魔法使い様なんですね」
「ノアでいいわ。私もアメリアって呼ぶし」
「わ、わかりました! ノア様!」
おー、ノアにもアメリアにもお友だちが増えたね。
なんだかほっこりしてしまう。
ちらり、とフレイヤ様を見る。道中静かなんだけど、大丈夫かな。
「……何」
「いえ、フレイヤ様もアメリアと仲良くなったりしないかなーって」
「……」
む、無言……どっちだろう。
「……あなたは」
ガオォォォォッ!!
突然の咆哮に私は一気に身構えた。
姿勢を低くし、身体に魔力を纏う。ノアは何とかなる。フレイヤ様も自分で対処できるだろう。守るべきはアメリアだ。
サッと視線を走らせた瞬間、視界の端に黒い影が飛び込んできた。
四足歩行に、黒い体毛。ギラギラと光る黄色い瞳に鋭い牙。
そして3つの犬の頭。
「……! 低級魔物だけじゃなかったの……!」
ノアが吐き捨てるように言った。私達の目の前にいたのは上級魔物、ケルベロスだった。
これはまずい。森の中にはまだ生徒が大勢いるだろう。そしてここは木が密集していて足止めするにも不利だ。ノアは火魔法を得意とするし、ここで火なんて使ったら山火事待ったなしだ。頭の中でこの状況を打破するための方法を探し出し、私は三人に向かって叫んだ。
「ノア! フレイヤ様! アメリア! 私が囮になる! みんなの避難を!」
身体中の魔力を両手に集め、私は地面を蹴った。
ケルベロスが私めがけて鋭い爪で切りつけてくる。それを跳び避けながら、両手に纏った風と共に身体を殴りつける。
「グォォォッ」
ケルベロスの身体が木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ。
私もそれを追った。とにかく広いところへ。そして、人が少ないほうへ。
「ユーリ!」
背中にフレイヤ様の声を聞きながら、私は森の中を駆けた。




