木の上のドジっ子
夕食時にはフレイヤ様の天岩戸も解除され、翌日。無事にやって参りました入学式典。
真新しい制服に身を包むとシャキッとしますね!
学園の制服は白をベースしていて女子リボンタイにスカート、ジャケットスタイル。男子はネクタイ、ジャケット、スラックス。見た目は前世の制服っぽい。私はもちろん、動きやすい男子制服を着ている。特に規定もなさそうだったので。あえて男子制服着る令嬢もいないか。
リボンの色で学年を分かれていて、私たちの学年は赤だ。
式典が行われる大講堂へ向かい、椅子に座る。
なんかここまでの道中やたら視線を感じた気がしたけど、今はそれ以上だ。
何せ私の隣には伯爵令嬢様、公爵令嬢様と我らが第一王子様がいますからね。なんで私挟まれてるのかな。
私が座ってる一列がやたら豪華なことになってた。
「あの、殿下」
「ん? どうした、ユーリ」
「なぜ殿下がここに?」
「あぁ、ここが特等席だからだな」
「え、そうなんですか。だったら私は後ろのほうがいいのでは……?」
「いえ、ユーリはここで」
「あんたひとり、離れて座ったら変でしょ」
何が変なのかわかんなかったけど、フレイヤ様とノアにがっちり両隣を固められてるし、今更席を立つこともできなかったのでそのままその場で気配を消すことにした。余計なトラブルはゴメンですので。
ちなみに式典自体はつつがなく終わった。お偉いさんの話とか、生徒会長挨拶とか、王子殿下のお言葉とか、前世の入学式と大差ない。
その後、教室に移動して今後の予定やら行事やらの説明……ということなんだけど。
私は今、絶賛迷子です。
相変わらずなぜか国のトップジュニアたちに囲まれてるのがどうにも落ち着かず、トイレを理由に離れたんだけど。
うーん。ここはどこだろうか。
学園の端の方に来ちゃったのかな。人気がない。
少し小高くなった丘の上には一本桜があった。なんか雰囲気あるなぁ。告白スポットになってたりするんだろうか。
私は誘われるように桜へと近づいた。
周りに何もないから風がよく通る。校舎から離れていて静かだし日向ぼっこにもちょうど良さそう。
これはなかなか良いところを見つけられたんじゃないですかね!
「あー、気持ちいい」
思わず伸びをしながら、桜の幹に背中を預けて座り込んだ。
「ふわぁあ……こう天気がいいと眠くなるなぁ……ん?」
桜の花びらに紛れて、何か違うものが見えたような?
私は首を伸ばしながら、視界の端に映ったものを探す。
んん? ピンクに混じって、白……?
「……おー」
「……」
「……」
バッチリ目が合った。
木の上にいる女の子と。
学園の制服の制服を着ているし、リボンタイも赤色。ということは、同じ新入生か。
淡い桃色の髪に、湖の底のような翠の瞳。肩まで伸びたふわふわの髪には桜の花びらがいくつかついている。
私は彼女を見上げながら問いかけた。
「……あの、そこで何を?」
「ね、猫が……」
「猫?」
「降りられなくなってて、登ったら、逃げられました……」
「もしかして、貴女が降りられなくなってる?」
こくり、と彼女が頷く。
ドジっ子かな?
「見過ごすこともできませんし、私が受け止めるから飛び降りてください」
「い、いえ! そんな! 見ず知らずの方に助けてもらうのは……」
「見ず知らず、ではなければいいですか?」
「え?」
「ユーリ・サルビアです。貴女と同じ1年生です。お名前を伺っても?」
「ア、アメリアです。アメリア・デイジー」
私はにっこりと笑いながら両手を広げた。
「はい、アメリアさん。これで見ず知らずではないです。どうぞ、こちらへ」
「え、でも……」
「大丈夫。これでも鍛えてますから。絶対受け止めます。だから、ね?」
「……わ、分かりました」
意を決したアメリア嬢が枝の上で体勢を整えた。しがみつくようにしていた姿勢から状態を起こし、枝に横座りする。
ちらり、と制服とは違う白が見えた気がしたけど、気にしないでおこう。
「い、いきます!」
「どうぞ」
「えい!」
「ユーリ!」
あ、まずい。
アメリア嬢が飛び降りてきたタイミングと同時に聞こえた声に私は一瞬気を取られた。
膝のクッションを生かして受け止めるつもりだったのに、タイミングが合わず、アメリア嬢の下敷きになるように倒れ込んでしまった。
何とか彼女を両手で抱き留めたけれど背中とお腹の両方に衝撃が走った。
「きゃっ」
「ぐえっ」
わー、芝生が気持ちいいなー。
ひっくり返って思わず現実逃避しちゃったよ。背中いたぁ。あ、でもお腹側は痛みよりもなんかこう、ふわふわだな。
「だ、大丈夫ですか?」
彼女の心配そうな顔が視界に入った。
怪我はないみたいだな。よかった。
ふよん、とお腹の上の感覚が移動した。
おお、これはこれは。
「……おっきぃ」
あ、やべ。またやっちゃった。
思わず口走る癖直さないとって思うんだけど出ちゃうんだよねぇ。
私の呟きを聞いたアメリアが少しだけきょとんとした後、何かに気づいたように顔を真っ赤にして私の上から退いた。私も上体を起こし、座ったまま対面する。
おわー、申し訳ない。アメリア嬢、耳まで真っ赤だ。セクハラ発言、ダメ絶対。
「あ、すみません。つい」
「い、いえ。私の方こそ、助けていただいてありがとうございます」
「怪我はないですか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
良かったねぇと微笑んでいると、後ろから首根っこをぐいっとひかれた。首絞まる。
「ぐえっ」
「……」
「あ、フレイヤ様……?」
「こんなところで何をしてるのかしら」
わー、めちゃくちゃ怒ってるぅ。
そういえば私、トイレに行くって言って出てきたんだった。
「えぇっと……人助け?」
「お手洗いに行ったのではなくて?」
「あ、はい。その後にふらふらしていたらこちらに」
「私の元に戻らずに?」
「すみませぇん」
し、締まってる、締まってる! 首! 締まってる!
「あ、あの」
救いの手が差し伸べられた!
アメリア嬢の声に、フレイヤ様の動きが止まった。おぉ、どうせ止めるならもうちょっと力緩めてほしかった……
「あなたは?」
「ア、アメリア・デイジーです! 木から降りられなくなっていたところをユーリ様に助けてもらって……」
「そう」
フレイヤ様がアメリア嬢のほうに視線を向けているのを感じる。何やらじっとり見ているような気もする。
「これから説明会があります。あなたもこんなところで油を売っていないで早く教室へ戻りなさい」
「は、はい!」
蛇に睨まれた蛙よろしく、完全に萎縮したアメリア嬢が弾かれたように立ち上がり、頭を下げてから校舎へと駆けて行った。
私は声をかけることもできず、ただひらひらと彼女の後ろ姿に手を振った。
そして残された私たち。
相変わらず首は絞まってます。
「フレイヤ様?」
「……早く立ちなさい」
最後にグイッと後ろに引かれてからやっと解放された。
立ち上がり、お尻とジャケットの草を払ってついでに首元も整える。後ろから襟首を引っ張られてちょっとくしゃっとなってる。
いざ、校舎へと向かおうとしたところでジャケットの裾を掴まれた。
「行かないのですか?」
「……あなたは、大きいほうがいい、のですか?」
「はい?」
「……何でもないです」
何が言いたかったのか分からないまま、フレイヤ様がずんずん校舎へと歩いていく。
取り残されそうになった私も慌ててついていくと、今度は急に立ち止まった。
なんだろう?と様子を伺っていたところで、左腕をガシッと掴まれ抱きしめられた。
「行きますよ」
「え、ちょ、まっ!」
そんなガッシリホールドされたら歩きづらいんですけど、と文句を言うわけにもいかず、校舎に入るまで私の左腕はフレイヤ様に拘束されたまま半ば引きずられるようにして歩くしかなかった。




