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妖霊怪奇学園綺譚  作者: ±√
9/25

8話

 夢を見る。嫌な夢だ。夢の中は俺にとって恐怖の対象となった。何も見えなかった空が赤みを帯びだした。今日もまた、眠れない。


 「おはよーユリちゃん」

夢から目覚めた私の目に真っ先に入ってきたのは制服に着替え髪を整えているユリちゃんだった。その準備具合からおそらく私よりも一時間ほど早く起きたのではないかと考えられる。一方私は寝起きで髪も顔もぐちゃぐちゃ。これでもみんなが起きる三十分前には起きようと思っていたのだが。少し恥ずかしくなる。

「おはようイヨちゃん。五月なのに朝はまだ寒いね」

「うん。歯磨いて着替えてくる」

昨夜、遅くまで起きていた私はもう一度夢の中に入りたい気持ちをぐっと抑えて立ち上がった。同じく遅くまで起きていた刹那ちゃんは未だ起きる気配がない。歯を磨いて顔を洗って寝癖を直す。髪を梳かし、そのまま横で一つに束ねる。パジャマを脱ぎ制服に腕を通す。鏡を見る。よし、準備は完了だ。このぐらいの時間になってくると少しずつ人が動き始める。あたりが少しずつにぎやかになってきたと思えば、もうすでに集合時間の十五分前だった。みんなが布団をたたみ始める中、一つだけ引きっぱなしの布団がある。

「刹那ちゃん。起きて。遅刻しちゃうよ」

枕元でそう呼びかけるユリちゃんは少し困った顔をしていた。それでも刹那ちゃんが起きる気配はなく、私も声をかけてみる。

「刹那ちゃん。もうそろそろ着替えないと集合時間に間に合わないよ」

「……。」

死んでいるのではないかと思うほどピクリとも動かない。

「刹那ちゃん!起きて!」

私は彼女の体を揺さぶり起こしてみる。

「うーん……」

さっきより、まだ起きそうな雰囲気があった。私は少し意地悪に掛け布団を取ってみる。

「刹那ちゃ―――」

すると私のみぞおちにきれいなストレートが入ってきた。一瞬何があったのか分からず遅れて痛みが襲ってくる。

「―――った!!!」

私はその場でうずくまる。

「イヨちゃん?!」

ユリちゃんが心配して近寄ってくる。刹那ちゃんは上半身だけ起こし、その場で伸びをした。そして目を半目にさせてフラフラと水場の方へ向かっていった。

んの、小娘!好き勝手しおって……。


「はよー」

「おはよー」

私達は朝ごはんを食べるために食堂へ向かった。食堂では活動グループごとに座った。

「あれ?伊与ちゃん機嫌悪い?」そう尋ねる福井くんに刹那ちゃんが「朝からずっとこうよ」としらっと答えた。誰のせいだと思っているのだろう。そんな私達よりももっと遅くまで起きていたであろう夕薙くんは随分とスッキリしている。顔色こそ少し悪く見えるがいつもと変わらず楽しそうだ。

「おはよう、幸村さん。よく寝れた?」

「うん。ちょっと眠いけど疲れは取れてるかな。夕薙くんは眠くない?」

「うん。慣れてるから」

大変なんだなと感じながらも私は自分の席に着いた。その日は昼頃に解散予定で午前中は現代文、数学、英語の授業がある。ちなみに今日は日曜日である。昨日も本来は休みのはずで、なぜ本来休日のはずの今日に授業があるのか理解できないが、月曜日に振替休日が回ってきているので許そう。ちなみに、この合宿のお手伝いに来てくれている生徒会の先輩たちには振替休日がないらしく、早瀬さんが嘆いていた。可哀想に。午前中の授業は眠気と戦いながらもなんとか終わり、私達はすぐに帰宅準備をした。

「ねぇ、このあとみんなで何処かに遊びに行かない?」

「いいじゃん。どこ行く?」

学校解散後、活動グループのみんなで何処かへ遊びに行こうという話になった。半日なので行けるところは限られてくるが楽しそうだ。しかし刹那ちゃんは「眠いから帰る」と誘いを断わってさっさと帰ってしまった。

「やっぱ定番はカラオケだよねー。映画でもいいし、あ、ボーリング行くのも楽しそう!」

「私はカフェ行きたいなー、それと水族館とかも」

福井くんとユリちゃんは計画を立てているだけで楽しそうだ。

「……水族館……いいな。行ったこと無いから行ってみたい」

夕薙くんがそうつぶやくと二人が「え?」と目を丸くして「水族館行ったこと無いの?」と問い詰めた。

「家族とも?!」

「うん」

「小学校の遠足とかでも?!」

「うん。小学校休みがちだったからそういうイベント全部行ったことなくて……」

少し照れる彼はどこか楽しそうだ。でもまぁ、私にも水族館に行った記憶がないので、実質行ったことが無いようなものだが。

「じゃあ今日みんなで行こうよ!水族館」

「おー!」と福井くんとユリちゃんがハモる。偶然にもみんな、財布には少し多めにお金を入れていたのでお金で困ることはなさそうだ。となると問題になってくるのは荷物だが、学校を出るとユリちゃんに迎えの車が来ていて水族館まで送ってもらい、荷物は車の中に置くことになった。やたらと大きな左ハンドルの車。とても家族とは思えないピシッとした服を着た男の人が車の横に立っていて、ユリちゃんが事情を話し、彼は私達にペコリと頭を下げて後部座席のドアを開けた。

「ユリちゃん、あの人は?」

「執事の中井さん」

「「執事?!」」

私と福井くんの声が重なる。

「そう」とユリちゃんはなんでもないように車の中に乗り込んだ。少し遅れて夕薙くんも乗り込む。私も慌てて助手席の後ろの席に乗る。中には飲み物とお菓子の置かれたテーブルが有り、それを囲むようにL字に座席が置かれてある。座席に座っても足を伸ばせるほど広々としている。座席のシートはツヤっとしていてふかふかと柔らかくいかにも高そうだ。中居さんはユリちゃんの前にワイングラスに入った赤紫の黒い液体をだした。

「友里恵お嬢様、いつものぶどうサイダーでございます」

「あ、ありがとう!」

なんだ、ぶどうジュースか。

「皆様、何か飲まれますか?」

中居さんがそう尋ねてくると私達は情報量が多すぎて頭がパンクしていて「同じので」とだけ答えた。中居さんはかしこまりましたと頭を下げ、すぐに私達の前にもグラスが出されなんだか高そうな瓶に入ったぶどうサイダーのコルクをぽんっと開けとくとくと注ぎ「ごゆっくり」と告げると運転席へ戻っていった。私達は終始ぽかんとしていて、とりあえずそのジュースを飲んでみる。なんだか、私達がよく飲むジュースとは少し違っていて更に彼女のことがよくわからなくなる。私と福井くんは顔を近づけて小声で話した。

「執事って実在するんだ……」

「ユリちゃんの家ってもしかして、お金持ち?」

それも結構な。

「相馬さんは相馬グループの会長の一人娘だよ」

夕薙くんがそう言った。

「相馬グループって言ったらあの……あの、あの!」

福井くんは驚きと興奮で言葉が出てこない。かくいう私も相馬グループという会社名は聞いたことがある。しかしなぜ、そんなお嬢様がうちら一般庶民の学校に!

「ごめんね。驚かせちゃったよね。車来てるって言っておけばよかったね。うちのパパ、心配性で……。お家の人とかに連絡しなくて大丈夫?」

「「……お嬢様……」」

私と福井くんの声が重なる。もう、こういう感想しか出てこない。私達は数十分揺れも騒音もない空間でゆったり過ごし目的地へついた。実に快適な旅であった。


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