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三十六話

雲ひとつない空の下。僕たちはひたすらに剣を交えていた。


昔からの癖だがレイは突きが多い。理由はこっちの方が貫通力があるだとかなんとか。失敗した時の隙が大きいと言っても止めようとはしない。


もう何度目か分からない突きを予測し、縦に伸びた剣を下から持ち上げるように弾くと、レイの剣は数度回転して荒野に突き刺さる。


レイは剣の行方を目で追うと、負けを認めその場に座り込んだ。


「お兄強すぎ。一回くらい勝たせてよ」


「昨日一本取れたじゃん」


「それはお兄が重りつけてたからでしょ」


僕らの訓練を見たガイさんがどこから見つけたのか鎖のない異様に重たい手錠と鉄球付きの足枷を持ってきたから昨日はずっとそれを使っていたのだが、レイはその時に取った一本が気にくわないらしい。


「レイが魔法を使ったら結果は変わってくるよ」

レイは剣術や体術を鍛えたいらしく訓練を始めてからは魔法を一切使っていない。合成獣さえ貫通したレイの魔法が脅威であることは言うまでもない。問題なのは僕の方だ。


「レイは合成獣を貫通した魔法を撃った時に意識したこととかある?」


「……なんだろう。あんまりないかな。……撃てるって思ったら撃てたって感じかな」


レイの言ったことは事実なのだろう。僕もレイも合成獣に傷をつけることは出来た。だが、攻撃までの過程は全く違う。

レイは恐らく魔力さえあれば溜める時間はあれど合成獣を貫くあの一撃を放つことができるはずだ。それにレイの魔法は戦闘を終えるごとに威力が増している。それがミラさんの言ってた使える魔力が増えるということなんだろう。


でも僕は違う。【極】は気をそこに集中して、さらにそれを維持することも必要だ。それに乱発もできない。とめどなく流れようとする気を一部に留めるのは一筋縄ではいかない芸当だ。


【一閃】にしたって同じことだ。移動から攻撃に至るまでをイメージと寸分の狂いさえないレベルで実行しなければならない。


課題は山積みだった。


「でもこれからは魔法が効かない魔物だって出てくるかもしれないよ。あのオーガみたいに」


脳裏に初めて戦った変異オーガが浮かぶ。そんな敵がいたら次もしっかり勝てるのだろうか。


「もう一本しようか」


「うん!」




剣術や体術のほかにもう一つ始めた訓練がある。それは察知を常に展開し続けること。確かにレイといれば僕の察知などさほど意味がないのは事実だが、当然四六時中一緒にいるわけではないし、これから別々にクエストを受けることもあるかもしれないと考えると察知を鍛えておいて損はない。ディル爺は使えば使うほど範囲も継続時間ものびると言っていたがこれがかなり辛い。


暗闇や森など周りがよく見えない時に発動して周囲を確認したりするだけだった僕の察知はさっぱり持続しなかった。今までは使いたい時に使える便利な技程度に考えていたが十分を超えると吐き気だったり、急に異常な数の反応を感じたりと


「お兄なんか顔色悪いよ」

レイが心配そうな目でこっちを見てくる。


「察知をずっと使うようにしてるんだけど意外と危ない技だってことが分かった」


「どうして察知を?」


「察知が使えば使うほど持続時間も範囲ものびるのは知ってるよね」


「うん」

レイは引き出しを開けているが薬はまだ見つからないようだ。ガイさんも今朝からいないので探すしかない。


「これからレイとは別行動になった時のために察知を強化しておくのもいいと思ってね」


「なるほど。でも無理しちゃダメだよ」


「分かってる」


結局薬は見つからなかったが吐き気も治ったのでベッドに入ってからも察知を展開し続けた。


それは唐突だった。ポツポツと感じる気配の中で一つ、近づいてくる反応があり、動きやすいように布団を

どかす。ガイさんじゃない。まさかシュテーゲン家か。


その反応はどんどん近づいてくる。間合いに入った瞬間、僕は察知を頼りにそいつに向かって蹴りを見舞った。






ようやくディア・メイリルは行動を起こした。


標的を発見してから早三日。いつものディアならとっくに任務を終えていただろう。ただ今回に関してはそう簡単にはいかなかった。標的の周りに圧倒的な強者がいたからである。自分では勝てないとディアは分かっていた。


だからその男が離れるのをひたすら待った。さらに人の少ない深夜を選び、ディアはついに標的のいる家に侵入する。


【隠密】

どんな状況だろうと油断はない。しっかりと気配を殺し、標的の首を狩るため、得物を怪しく光らせる。


間合いに入った瞬間、標的から鋭い蹴りが飛んでくる。


かろうじてそれをかわすと、すぐに近接戦が始まった。

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