三十話
探知や察知などの魔法を受けないように魔法をかけて三人は空からロアたちの戦いを眺めていた。
「おい、じじい。こりゃ意外といい勝負じゃないか」
女はベリリガン曰く傑作が青二才二人と熱戦を繰り広げている状況に終始笑い続けていた。
「うるさいぞ。アバズレ。いいから見てろ」
ベリリガンは露出度の高い女に吐き捨てるようにいう。悪口を言われれば毎回苛立ち剣を構える女だが、今日は少し気分が良かった。
女は必死になって合成獣に挑む男を見て密かに火照っていた。女の好物は男の心が折れた瞬間であり、何度も立ち向かうロアは当然、大好物だ。
「……やっぱいいなぁ。ああいう男は。おい。あの男の名前は?」
そんなの男が知っているはずもない。
「知らん」
「ちぇ。つまんねえの。まぁいいや。お前はどっちが勝つと思ってるんだ?」
明らかにどちらかを贔屓して観ているベリリガンたちと違い、男は冷静にどちらが勝つのかを考察していた。そしてその答えはすぐに出たのだが二人が揉めるのは面倒だから口にはしなかった。
「さあな。知らん」
ベリガガンは当初、攻撃がそもそも通らないと予想していたがその予想はレイの魔法によって砕かれた。だが、ベリリガンの予想も最もだ。ベリリガンたちはライエルンにいるA級冒険者が全てロカの森にいることは知っていた。複数の魔物を混ぜ合わせ、能力や体質の数を増やし、さらに個々の能力の強化まで済ませている合成獣はA級中位にも勝るとも劣らないものだ。そんじょそこらの冒険者に負ける代物じゃないとベリリガンは自負している。
それでも戦い自体は合成獣優位のままだが、二人がダメージを与えているのも事実だ。その現状にベリリガンは頭を抱えた。馬鹿にする絶好のチャンスをレイが欲情を抑えるのに必死になって見ていなかったのは、ベリリガンにとってもそれを仲裁する男にとっても幸運だった。
「はぁはぁはぁ。あいつヤバイな……」
「おー。やってしまえ」
男はもう欲情を隠すこともしなくなった女とレイの渾身の一撃を受けて耐えた合成獣に声援を送るベリリガンに心底呆れていた。
結果が分かっていたことと元々決着に興味はない男はたまたま目線を戦いからずらし、すぐにベリリガンの首根っこを掴む。
「何をするんじゃ」
「敵が来た。ずらかるぞ」
「えー。せっかくいいところなのに」
文句を言う女も男のいつになく真剣な表情を見て渋々従った。
「結果はどうなったんじゃ。もちろんわしのキメラちゃんの勝ちじゃよな?」
後ろを振り返り、燃え盛る合成獣とこちらと目を合わせる赤髪を見て男は言った。
「……勝負は引き分けです」
「そんなことはないはずじゃ」
頑固な爺さんにどう説明したものかと男は悩みながら空中を移動した。
炎は合成獣が消し炭になるまで燃え続ける。目の前で火だるまになった合成獣には目もくれずにカイムはロアを担いで、レイの隣に寝かせた。
レイは安堵からかいきなり訪れる脱力感と疲労に耐えながらいう。
「……ありがとう……」
カイムはにっこりと微笑む。
「どういたしまして」
レイの意識は返事を聞く前に途絶えた。
「こいつはいいとして問題は……」
カイムはじきに消し炭になる合成獣を一瞥して、宙に浮かんでいた三人組が飛んで行った方を眺める。
「この合成獣は今までの実験体より遥かに重要だったはず。だから見にきてたんだろうけど」
カイムはさっきの三人組がこの合成獣はもちろん、他の騒動にも関連していると確信していた。オーガか強化種か。はたまたその両方か。カイムは早々に考えることをやめた。
「考えるのは僕の仕事じゃないよな」
【火炎柱】
討伐隊の目印になるように空を貫くような火の柱を出現させる。
このまま三人組を追いかけるか、ここで待機するか。カイムは一瞬で後者を選択した。ロアとレイはもう起き上がれない。もし魔物に見つかれば一瞬で喰われてしまう。
「しばらく待つか」
討伐隊を置いてけぼりにしてヒルダとアグニがここに着いたのが30分後。
木に体重を預けていたカイムにヒルダが声を掛けた。
「……なんか凄かった感じだよね」
「凄かったのは僕じゃなくてこの二人だよ」
ヒルダは横になって寝ている二人を見ていった。
「そうみたいだね」
今度はアグニがカイムに疑問を投げかける。
「どうしてカイムたちがここにいると分かった」
カイムは照れ臭そうに頬をかく。
「それがさ、本当に偶然だったんだよ」
「偶然って?」
「最初に盗賊団を街で見つけた時に僕とロア君で追いかけてた時に【炎の鱗粉】を使ったんだけど風がなくて全く意味がなかったんだ。だからまさかカイムくんを探すのに役立つとは思わなかったよ」
【炎の鱗粉】はそれが触れた生物の位置が分かるようになる魔法。それがたまたま付いていたからカイムはロアの位置が分かったのだ。
「じゃあ大急ぎで飛んで行っちゃったのはお得意の勘ってやつ?」
カイムはヒルダの問いに笑顔で頷いて見せた。
「やっぱり直感は信じるもんだね」
「本当にお前は何というか」
アグニは形容する言葉が思いつかず言葉に詰まった。
討伐隊が到着した時には二人が到着してからさらに一時間が経過していた。




