二人とも人気なんだな……
「いらっしゃいませ……あっ! これはこれは『白銀の翼』のエリス様。ミラーカ様!」
冒険者ギルドの受付が驚いたように言う。ここはニースの街の冒険者ギルド。俺とミラーカ。エリス、そしてミヤビの四人はここに来ていた。理由は俺の『白銀の翼』のクラン加入の手続きをするためだ。
「どうぞ! どうぞ。トリプルの方の受付は三階になっております」
冒険者のクランとは……
ここでギルドとクランの違いを説明しておくとギルドは言わばクエスト斡旋所だ。クランはギルドに登録してあるいわばメンバーたちのことである。
『白銀の翼』には今現在ミラーカとエリスがクランとして加入していた。そこに俺が加わるわけだ。
受付が言ったトリプルとはつまりクランの階級のことだ。シングルスターズ。ダブルスターズ。トリプルスターズ。クランにはそれぞれの★の数が階級ごとに分かれている。
『白銀の翼』はトリプルスターズ。つまり最高位のクランだった。多くの高難易度のクエストを達成しギルドや国に貢献したものだけが獲得できるトリプルスターズ。
この冒険者ギルドではクランの階級によって利用できる建物の『階』が異なっていた。
つまり無星か★一つのクランはこの冒険者ギルドの一階。ダブルは二階。トリプルは三階を利用することが出来た。
掲示板に貼り出されているクエストの難易度が違うからだ。だから無星や★一つのクランの人たちは冒険者ギルドの二階や三階に行くことは出来ない。
だから今まで俺も三階に行ったことが無かった。今日が初めてだ。
「うぉ……! あいつエリスとミラーカだぜ。この前ミノタウロスの群れをたった二人で討伐したっていう」
「あのマッサライの村の近くのミノタウロスか? えっ? 全滅させたのかよ」
「らしいぜ……近々王様より直々に恩賞が与えられるらしいぜ」
口々に一階にいる他の冒険者たちがミラーカやエリスの噂をする。
「なんや……人がぎょうさんおるなぁ。祭りでもやってはんの?」
ミヤビが俺に聞く。
「まぁ冒険者ギルドは人が多いからね」
俺は答えた。
「うそっ! エリスさん! 私ファンなんです!」
と一階の女性冒険者たちが駆け寄ってきた。
「握手してください!」
弓使いの格好をしている女の子が言う。
エリスはまるで有名人のようだ。
「はい。いいですよ」
エリスは笑顔で握手をする。
「キャーーーーーー!!!」
と叫ぶ女の子たち。
「私っ! また無星のクランで! こんな私でもちゃんと頑張れば三階に行けますか?」
女の子がそう聞く。
「私たちだって最初は一階から始めました。それで実績を積んで……継続ですね。頑張ってください。三階で待ってます」
エリスが言うとキャーーー!! と女の子たちから歓声が上がった。
「キャーーー!! ミラーカさん。肌白い!! 可愛い!!」
女の子たちはミラーカの肌を触ろうとする。
「やめてくれ。触らないでくれ」
ミラーカが言うとまた女の子たちはキャーーー!! と歓声を上げた。
「可愛い!!」
「お人形さんみたい!」
「ミラーカさん! カッコいい!!」
口々に褒める女冒険者たち。すると俺たちの周りには人々が集まり、いつの間にか俺たちは大勢の人間に取り囲まれていた。
「さぁ! 先生。三階に行きましょう」
エリスはそう言って俺の手を引く。
「おっ……おう」
俺は若干引き気味になりながらエリスに手を引かれて階段を上がる。一階の人たちは羨望の眼差しで俺たちが階段を上がるのを見ていた。
「凄いな……人気なんだな。エリス。ミラーカ」
俺は感慨深げに言う。俺がいた世界とは別世界だ。まるで芸能人のような輝かしい世界。今までのくだらない人間関係のゴタゴタに悩まされていた人生とは真逆だった。
「えぇ。アンデッドキング、クロウガルを封印したあたりから急に有名になったみたいで」
エリスは事も無げに言う。
「えっ? クロウガルって何千年生きているって言われていた不死者の王のこと? 教科書にも載ってる?」
クロウガル。凄まじい大物だ。前の人魔大戦の時に人間側に味方したが、その後人間と袂を分かって人間と敵対するようになったと言われていたが……それを封印?
「うん。そうだ。ボクとエリスの二人がかりで討伐したよ」
ミラーカが言う。えっ? こいつら実はとんでもない奴らなんじゃ……
超えたんだな。改めて思った。つい昔の教え子と教師の関係に戻ってしまうが……二人はとっくに成長してるんだ。元々才能があったのだろう。俺としては元教え子のこんな姿を見られて教師冥利に尽きるというか……
俺は元々冒険者志望だった。恥ずかしいことに憧れていたのだ。英雄という奴に。巨大なモンスターを倒したり国内の大きな問題を解決してそしてみんなから英雄として讃えられる。
だから俺は魔法を学び剣術や武術も学んだ。
だが、俺はどうやら教師の方が才能があったみたいだ。俺は夢の形を変えたのだ。自分が英雄となるのではなく、英雄になれるような人間の手助けをする。そして俺が世界を救う手助けの一つになれればいい。俺はそう思った。
つまり、ミラーカやエリスが俺の夢を叶えてくれたということだ。もちろん俺は自分の夢の残骸を押し付けないように注意していた。俺が出来ることは自分がしてきた無駄な苦労の露払いをすること。
生徒たちが最短ルートで自分たちの夢を叶えられるようにする手伝いをしてきた。その仕事の成果が目の前に現れたようで俺は嬉しかった。
「でも先生がクランのリーダーをやってくれるなんて嬉しいよ」
ミラーカが言う。
「うん。そうだね」
エリスも同意した。
えっ? 俺がエリートクランのリーダーをやるって?
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