ざまぁ展開 レイモンドの企み
コンコンコン……アガサ学長の家のドアがノックされる。
「はい。今出ます」
とアガサ学長の召使いが玄関のドアを開ける。
「すいません。アガサ学長が急病だと聞いて。レイモンドと申します」
レイモンドはアガサ学長の家まで来ていた。アガサ学長はあの会議室事件のあと体調を崩し寝込んでいた。
それでレイモンドがアガサ学長の家までお見舞いにきたのだ。
「どうぞ。お入りください」
召使いは言う。レイモンドは当然の権利と言わんばかりに召使いの女の子をまじまじと視姦した。舌なめずりするレイモンド。
「ヒッ!」
召使いの女の子は悲鳴を上げる。自分に逆らえない弱者を見つけるのがレイモンドは得意だった。弱い立場の人間を鋭く見つけ出してとことんまでハラスメントをする。それがレイモンドのやり方だった。
レイモンドはアガサ学長の部屋のドアをノックする。
「入っていいわよ」
学長の返事があった。
ガチャリ。レイモンドはアガサ学長と対面した。
「座って」
学長はレイモンドに椅子を勧める。レイモンドは座った。
「あれから学園はどうかしら?」
アガサ学長が倒れてから一週間近く経った。その間学校は悲惨なものだった。新聞関係者は取材に来るわ、保護者からは散々なクレームを言われるわ、もう目も当てられない状況だった。
それもこれも全部アーサーのせいだ。レイモンドは逆恨みをする。アーサーが辞めたからだ。あいつが必死に学園に残るよう努力してたらこんなことにはならなかった!
チッ! レイモンドは心の中で悪態をつく。レイモンドの思考は異常だった。だが、自分勝手な人間の頭の中はこんなものである。
「アガサ様。紅茶の用意が出来ました」
召使いはアガサに紅茶を勧める。
「ありがとう」
アガサ学長はベッドで上半身を起こしながら紅茶を飲む。
「学園は……まぁなんとかなってます」
レイモンドは嘘をつく。もう崩壊しかかっていた。
「あなた嘘しかつかないのね」
アガサ学長が呆れたように言った。
部屋から出ていく召使い。
「嘘なんてついてませんよ!! 大丈夫です! 僕がなんとかしてみせます!」
レイモンドはアガサを説得しようとする。
「はぁ……」
っとため息をつくアガサ学長。
「ニナはどうなったのですか?」
学長は尋ねる。
「ニナはまだなんとか勤務してます。昔風俗で働いてたことや不特定の教員と関係を持ってたことがバレましたが……まぁなんとか」
レイモンドはアガサ学長の休んでいた時になにが起こったのか伝えた。
もちろんこの噂を広めたのはレイモンドである。レイモンドは自分に逆らったものは容赦がなかった。レイモンドの価値基準は全て自分にとって都合がいいか、悪いか。それだけだった。
「はぁ……もうどいつもこいつも」
ため息をつくアガサ学長。こんな大事なときに休んで学長の仕事を放棄している学長に言われたくないと思ったがそこはレイモンドは黙っていた。
「ニナとの件は……本当に信じてください。俺も騙されていたんです。男のサガなんです。どうしてもあの体で誘惑されたら……でもアガサ! 君への愛は本物だ!」
ドンッ! レイモンドはアガサに壁ドンをした。
ビクッ! っと驚くアガサ。だがすぐに顔を赤らめるアガサ。クソっ! 気持ち悪い……レイモンドはその言葉を飲み込んだ。
「分かりました。レイ。あなたを信じましょう」
学長はレイモンドの顔を見て言う。
よしっ! レイモンドは心の中でガッツポーズをする。
レイモンドは椅子に座る。
「それでアーサー先生の抜けた穴はどうするんですか?」
アガサ学長は聞く。
「大丈夫です。そこは考えています。アーサー先生の抜けた穴はアーサー先生に塞いでもらいます!」
レイモンドはニヤリと笑った。
「しかし、断られたハズでは」
「大丈夫です。副学長の椅子をアーサーに用意します」
レイモンドは言う。
「えっ?」
「学長のあなたが休まれている今、副学長は実質的な学園のトップになります。その椅子をアーサーに用意する。学園の裏金などの問題にあいつを強制的に関与させるんです。今新聞社がウチの裏金問題を調べてるそうです。アーサーあいつがやったことにするんです。あいつに全ての問題を押し付けましょう!」
レイモンドはゲスく笑った。
「しかし、そんなに上手くいきますかね……」
アガサ学長は紅茶を飲むわ
「大丈夫です。学長のこの家も元々は学園に降りるハズだった国の資金を私的流用したものでしょう。それでこんな豪邸が出来た。あなただって相当な悪党だ」
「ふふ……」
アガサは笑った。
「アーサーのお人好しなら引き受けてくれるハズです。もしかして学園がなくなるかも知れない。そう脅せばあいつも学園に戻らざるを得ないでしょう。それで万が一あいつが学校を立ち直らせることが出来たのならば……」
レイモンドが不敵に笑う。
「またスキャンダルをでっち上げて追放ですか」
ニヤリとアガサ学長が笑う。それにレイモンドが嫌らしい笑みで応える。
「ふふふ……そうですね。アーサー先生はこの学校を救う英雄になってもらいましょう。私たちの利益のための生贄にね」
紅茶を飲みながら笑うアガサ。
「はっ! はははは!!!」
アガサとレイモンドはお互い笑い合った。
だが彼らの絶望はまだまだ序曲に差し掛かったくらいだった。
◇
「というようなことをレイモンドは企んでいるんだ」
ニースの街のステーキ屋。そこで久しぶりに有ったアルケイン魔法学校の教師フレイヤとアーサーが話をしていた。
「なるほどな。俺を副学長に戻して全ての責任を押し付けるつもりか。よくそんなこと思いつくもんだ」
俺は呆れるように言った。
「泥船の船長をやらせようとしてるんだ。もし学園が立ち行かなくなった時に保護者から責められるのも、全ての後処理をするのもアーサー。キミになる。もっとも面倒くさい仕事を彼らは君に押し付けようとしてるんだよ。それでキミが頑張って学校を立ち直らせても手柄は全て盗まれる。キミは表彰状の代わりにまたでっち上げのスキャンダルがプレゼントされることになる」
フレイヤはそう言って華麗にワインを飲んだ。
しかし、フレイヤのカトラリーの扱い方はいつ見ても芸術品だ。食べ方だけで人を魅了させることが出来るのはフレイヤくらいだろう。フレイヤと一緒ならどこに行っても恥ずかしくない。いや、自分がまるで王子様になったような気分が味わえる。それがフレイヤだった。
「お客様お注ぎしますか?」
店員が尋ねる。
「あぁ。ありがとう」
フレイヤは笑顔でグラスを注ぎやすいように差し出した。
「フレイヤはどうするつもりなんだ?」
俺は聞く。
「私はもう学園を辞めようと思っている。とある金持ちから一ヶ月ほど愛人にならないかと誘われているからな。いわゆる高額バイトだ」
フレイヤは告げた。
「えっ? 愛人? 嘘だろ……」
俺が口をポカーンと開けて驚く。するとフレイヤはフォークも持ちステーキの肉を俺の口の中にグイッ! っと入れてきた。
「んぐ! んぐ……むしゃむしゃ」
俺は間接キッスのようになったそのステーキをむしゃむしゃ食べる。なんだか甘い味だ。
「嘘に決まってるだろ。お前一瞬想像しただろ?」
フレイヤが怒ったように笑った。
「そりゃ想像したけど……」
俺の脳内ではこんな気丈なフレイヤが奴隷のように扱われている様がまざまざと思い浮かんだが……それは決して言えない。
「私も悩んでるんだ。正直結婚しようかなとも思っている」
フレイヤは前傾姿勢になって顔を近づける。
「えっ? 結婚って誰と?」
俺はいちいちフレイヤの質問にドキドキしながら答える。
「それは内緒だ。結婚式当日に教えよう」
フレイヤはいたずらっぽく言う。
「えー誰かなぁ……フレイヤの結婚相手って」
「そうだなぁ。私はやっぱり自分の仕事に理解がある人と一緒になりたい。結婚しても仕事は続けていきたいからな。仕事は社会との関わりだ。それで……そうだな相手は私と同じ教師経験者で……例えば今は辞めてしまった人とか?」
フレイヤは俺を見つめて言う。
「えっ? 誰だろう……辞めた人?」
俺は思いつかない。
フレイヤはむぅ! っと怒っている。
えっ? ひょっとして俺のことを言っている? そんなまさかな……俺はワインをクイッっと飲み干した。
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