四代将軍源とも、地獄大戦争!(上)
さてさて、四代将軍源とも、であります。
女だてらに武家の棟梁、征夷大将軍!
動けば疾風、発すれば雷鳴!
英姿颯爽・清廉潔白・品行方正・天真爛漫・奇妙奇天烈・摩訶不思議!
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!
本邦初!唄って踊れる殿上人!
人呼んで「時の女」
ご存知、四代将軍源とも外伝!
始まり、始まりィーっ!
濃い霧がかかっている。一寸先は闇。びゅうびゅうと氷のような冷たい風が身を切る。バラバラ雹は落ち稲妻が光る。ドン!突き上げられる地鳴り。足元は泥濘で覚束ない。荒涼とした殺風景。遠くで何やら呼ばわってくる、か細い声音が途切れ途切れに聴こえてきます・・・
四代将軍源とも、気づいたらここにいた。えっ?何処だろう?何故?どうして?皆目見当がつかない。薄気味悪い。しばらくして、ようやく目が慣れてきた。すると何とまあ、周囲には大勢ひとが集ってるではないか!年恰好はバラバラで、老若男女・百姓や武家に僧侶なんかもいる。驚いたことに、見たこともない異国の者まで混じっていた。皆一様に押し黙ったまま、肩を落としトボトボ歩いている。
「申し・・・」
ともが声をかけても誰も応じない。
「一体、ここは何処だ?!」
苛立って怒鳴ってみたが、暖簾に腕押し、糠に釘。先行する男の腕を強引に掴む。が、全く手ごたえがない。男は影のようにすぅーっと離れていった。ともは呆然と立ち尽くす。流石の四代将軍様も少々心細くなってまいりました。
後方からも続々とひとがやってきます。
その雑踏の中に一際目立つ、雲を衝くよな巨漢!髪はザンバラ、真っ黒に日焼けした体躯は筋骨隆々。憎々し気な髭面。傲岸不遜!げに厳粛な雰囲気で、ひとりだけ浮いておりました。ともはハッとします。その男、確かに見覚えがありました。
「磯部!磯部治郎丸ではないか!」
男は物憂げにチラと顔を上げます。紛うことなき、磯部治郎丸そのひとでありました。淡路由良の海賊。過日、四代将軍ともによって捕えらえ処刑されたはず・・・
「お、お前は・・・源とも、ではないかっ!どうしてここに?」
「そうだよ!とも、源ともだよ!お主、生きていたのか?いやぁ懐かしいなあ。知ってる奴が全然いなくて不安でしょうがなかった。ところで、ここは一体何処だい?」
治郎丸は忌々しそうに首を振り吐き捨てた。
「俺を殺したのは、お前だろうが!ここは・・・あの世だ。お前も死んでるぞ」
「?!」
四代将軍源とも様の六波羅屋敷には、連日各地より様々な献上物がございます。勿論、誰からでもどんなものでも、ともは大喜びで受け取ります。昨日は堺より珍しい魚が届けられた。丸い体にツブらな瞳、おちょぼ口に愛嬌があります。「可愛い!」早速、夕餉の膳に出され一同「美味い、美味い」と舌鼓を打った・・・
「そうだな、そうしたらここにいた・・・」
「お前、そりゃフグだろ。フグには毒があるんだぞ」
「なっ何ィっ!毒っ毒だとぉ!ううむっ残念無念!極悪非道、北條政子に一服盛られたかぁっ!」
「・・・フグの毒は胆にあるんだ。それさえ食わねば大事ない。美味いもんだ。お前、胆を食ったろ」
ともは徐々に思い出します。そういえば家人で坊主上がりの善行が「肝は危ぶのうございます」などと抜かしておったな。ともは出されたものは全部食べる。まして献上品ではないかっ。贈っていただいた方の熱き想いに応え感謝する為にも残さず食わねばなるまい。更に、ともは法名「春香」の出家である。殺生は厳に慎まねばならぬ。そこをあえて、我が命を繋ぐ為に他の命をいただくのだ。ゆめゆめ疎かにはできぬ。
「それで家人共の制止を振り切って頭から全部食ってやった」
「お前は馬鹿か!」
流石の磯部治郎丸も呆れ顔。ともは頬をぷぅっと膨らませ口を尖らせる。
「馬鹿に“馬鹿呼ばわり”されるとは心外であるな。・・・そもそも治郎丸は“馬鹿”の由来を知ってるのか?その昔、唐土に趙高という悪い宦官がおっての。あっカンガンというのは・・・」
相手にしてられないと治郎丸はスタスタと歩を進める。
「待ってよーっ」ともは小走りに追いついてピタリ肩を並べます。治郎丸の脇腹を肘で突いて小首をかしげニッコリ微笑む。
「娑婆では敵味方であったが、こうして再会できたのも何かの因縁因果。仏様のお導きであろう。せっかくだから一緒に行こうよ。それはそうと治郎丸、ともより先に死んでおるのに何故遅れてきたんだ?」
「ふん、閻魔の庁で裁かれて、どうせ地獄へ堕ちるのだ。阿呆らしくてマトモに行けるか」
「えっ!何だ?お裁きって」
「出家のクセに知らんのか?この先の三途の川を渡ると閻魔の庁がある。そこで裁かれる。罪の軽重によって地獄行きだ」
とも、真っ赤になって熱り立つ。
「ともも裁かれるのかっ?!ともは従五位下征夷大将軍であるぞ!しかも“春香”というありがたい出家なんだぞ!そんな理不尽なことがあるか!」
「だったらそれを閻魔大王の前で訴えろよ。俺に文句を言うな」
怒り心頭のともですが、亡者は皆、閻魔の庁でお裁きがあるのです。
「うぅむ、ともは品行方正・清廉潔白・容姿端麗で間違いはないと思うが、他人に評価されるのは好まぬ。ともは人気者故、嫉妬され謂れなき誹謗中傷が酷い。冤罪で地獄行きでは、たまらん」
ともは死ぬことよりも地獄を怖れていました。まぁ誰だって嫌でしょうが、ともの場合、余計な知識があります。ともは源氏将軍家最後の生き残り。悪辣な平氏北條から命を狙われておりました。そのための出家。もとより偽装、目晦まし。加えてあの性格ですから修行に力の入ろうはずがありません。ともの怠慢に、師・知栄院昌恵はこっぴどく叱責します。その際、昌恵から地獄の話で散々脅されているのです。曰く、焦熱地獄・極寒地獄・阿鼻地獄・叫喚地獄・・・その度に、ともは怯え泣いて許しを乞うたものです。よりによって、そんなところへ、今から、行かねば、ならんのか・・・
四代将軍源とも、海賊磯部治郎丸と並んで足を進めます。広い場所に出ました。そこは見渡す限り岩や石がゴロゴロしていて草木一本生えていない。
「ここが賽の河原だ」
見れば、其処彼処で小さな子供たちが石を積んでいます。
「一重積んでは父の為、二重積んでは母の為・・・」
もう少しで石の塔が出来上がろうとしています。ところが、そこへなんと恐ろしい赤鬼が現れて金棒で石の塔を壊したではありませんか。童子は怯え、泣き喚き、逃げ惑います。この一部始終を目の当たりにした四代将軍様、激昂!
「可哀想なことをするなっ!」
磯部治郎丸が止める間もなく、いきなり赤鬼の横面を張り倒す。赤鬼も驚いた。巨大な鬼の半分程もない亡者の、しかも女子に怒鳴られたのですから。大体、鬼というものは、亡者から殴られたとか反撃された経験がございません。何が起こったのか訳が判らずポカンとしております。更に、ともは鬼の手首を逆手に捻じり上げる。急所を突いているので、僅かな力でも鬼は悲鳴をあげます。ともはその鼻先を更に小突きまわし、
「せっかく積んだものを崩すとは何事!こんな幼子を苛めて何か嬉しい?手伝ってやってこそ人の道・・・あっ人じゃないのか」
ともは童子たちを集め「皆で一致団結するのだ」と扇動し、一斉に鬼目がけて石を投げさせます。鬼にとって、童子の投げる石なぞ蚊が刺した程にも感じませぬが、そこは多勢に無勢、あっという間に賽の河原は、ともによって制圧されたのです。磯部治郎丸、驚いたの候の、唖然呆然言葉もありません。モノが違う。持って生まれた大将の器。こりゃ淡路由良海戦で治郎丸が敗れたも道理。
鬼共は「今後、童子の邪魔をしない」旨誓約させられ、ようやく解放。
「子が親より先に死ぬ逆縁はやりきれぬ。せめて賽の河原で楽しく遊んでくれ」
ともは、赤鬼と青鬼を捕虜として道案内をさせることにしました。
「その方等、名は何という?」
「名?」
「名前だよ、何と呼ばれておるのだ?」
「そんなものは・・・ない」
鬼は鬼なのです。鬼は個というものがない。赤鬼、青鬼、それによく見ればそれぞれ顔かたち、性格なぞも其々に異なりますが、鬼は鬼。鬼には変わりはないのです。
「別にそれで支障はない」
支障はないって・・・ともは物足りません。例え鬼であろうとも自己を確立すべきである。ならばと、赤鬼には「ヨシトキ」、青鬼に「ヤストキ」と勝手に命名。
「これでもうお前らは、ともの家人だ。しっかり働け!」
かくして、四代将軍源とも、海賊磯部治郎丸に赤鬼「ヨシトキ」・青鬼「ヤストキ」を引き連れて先へ進むのでありました。
何の因果か地獄に堕ちた、四代将軍源とも。お供しますは海賊に赤鬼・青鬼。三途の川を渡ればいよいよ、閻魔の庁でお裁きです。果たして、ともは極楽往生できるのでしょうか?閻魔大王との対決やいかに?ところがところが、地獄はそれどろこではありません。思いもよらぬ事態に!
・・・これから先が面白い!乞う、ご期待!




