母親の愛
しばらく聖夜は外に出れないでいた。
母親が外に出ることを禁止したのだ。
聖夜自身もそれを受け入れていた。母親があれほどまでに泣いたのを久しぶりに見たからだ。
そうなるのもしょうがないと思っている。
しかしこのままでいいかとなると、それは別だ。……正直、とても困る。
「母さん。お願いがあるんだ」
「外出はだめよ。絶対に」
声をかけて早々にそう返され、聖夜思わず小さな溜息をついた。
しかしこれは予想通りの返しである。
「でもさ、このままだったら俺、本当に何も出来ないよ」
「勉強でもしてればいいじゃない」
「家ではできない勉強だってあるだろ?」
「…………」
「それにずっと家にいたら息が詰まっちまう。それこそ頭がかたくなって使い物にならなくなる」
「…………」
もう一押し……。
「約束する。暗くなる前にはちゃんと帰るからさ」
「…………」
いける……!
「ね? お願い」
「……もう一つ。満月の日だけは、家にいてちょうだい」
「……! わかった、ありがとう、母さん!」
聖夜は窓の外に目をやった。
まだ大丈夫、間に合う。
「ごめん、急ぎの用事があるんだ、ちょっと出てくる!」
「聖夜!!」
玄関のほうに足を向けたとき、母親が呼び止めた。
そして振り向いた瞬間に視界に影がかかる。
「これ」
何かが首にかけられ、母親が一歩下がると同時に首元に触れ見てみた。
――そこにはお守りがあった。恐らく、母親の手作りの。
「いずれそう言ってくるだろうと思って作っておいたの。肩身離さず、こうして持ち歩くこと。いいわね?」
……さすが母親というべきか。子どものことをよくわかっている。そして、その子どもの意思を尊重してくれる辺り、大切にされているのだと感じた。
「わかった。約束する」
そう言い、聖夜はそのお守りを服の中に入れ服の上からもう一度触れる。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。……気をつけてね」
母親の心配そうに微笑む姿に、聖夜は僅かに心が痛んだ。
自分が行こうとしてる先は、母親が一番行って欲しくない場所。
それはわかっている、でも、行かなくちゃいけない。
彼女には、自分が必要だから。
ドアを開け外に出る。
閉めたドアに、その先にいる母親に、聖夜は小さく言った。
「ごめん、母さん」
そうして聖夜は、彼女のいる森へと駆け出した。




