六本木編 さらば
六本木編 さらば
やがて、僕にも愛する妻ができた。
六本木を離れ、池袋に住んだ。
妻の実家が近かったからだ。
ところが、義母からは、
「私たちをあてにしないで」
と言われた。
それなら、いっそのこと青山に住みたかった。
そんなことを考えているうちに、娘が生まれた。
子どもが生まれると、人生の優先順位が変わった。
僕は、あの孤独な仕事をやめたくなった。
システムアナリストという仕事が嫌いだったわけではない。
ただ、つらかった。
システム開発は、僕にとってつらいだけだった。
どれだけ考えてもバグは出る。
現場からは反発される。
上司からは結果を求められる。
トラブルが起きれば、最後は自分が責任を負う。
四面楚歌になっても耐える。
そんなことを何度も繰り返してきた。
もう、システム開発なんてまっぴらごめんだ。
しかし、職そのものを変えるつもりはなかった。
それまで身につけてきたITの知識と経験を捨てる必要はない。
そこで僕は、技術を作る側から、技術を世の中へ送り出す側へ転向した。
営業だった。
これまで僕は、システムを作ってきた。
これからは、その技術を必要としている会社に説明し、売る。
システム開発のように、コンピューターの前で一人悩み続ける必要はない。
もちろん、給料はかなり減った。
それでも、営業には一つ明快なところがあった。
売上を上げれば、報酬が上がる。
努力が数字になる。
数字が報酬になる。
それまでの仕事とは、まったく違う世界だった。
僕は、技術者としての人生を捨てたわけではない。
技術を身につけたからこそ、それを売る側へ回ることができた。
そして何より、もうあの孤独なシステム開発に戻らなくていい。
妻がいて、娘がいる。
僕には、守りたい家庭ができた。
だから、仕事に人生を捧げる必要はない。
給料は減った。
それでも僕には、そのほうがよかった。
つらいだけだった仕事から、ようやく離れることができたのだから。




