矢沢永吉の「時間よ止まれ」は坂本龍一のアレンジで始まった
矢沢永吉の「時間よ止まれ」は坂本龍一のアレンジで始まった
矢沢永吉の「時間よ止まれ」は、最初から完成されたアレンジがあったわけではない。
矢沢がミュージシャンたちに渡したのは、コード表だった。
そこに坂本龍一がいた。
坂本は、そのコードを見ながらエレピを弾き始める。そして9thを使ったバッキングを加えていった。
矢沢の曲は、メロディーとコードという骨格だけが示されていた。
そこへ坂本龍一が、自分の感覚で新しい響きを持ち込んだ。
坂本は後年、このレコーディングについて、矢沢が独特の言葉で「こういう音にしてほしい」と要求してくるので、最初は何を求めているのか分からず、何度も試行錯誤したと語っている。
つまり、完成した譜面を演奏したのではない。
矢沢が曲の骨格を示し、坂本が音を探し、その場にいるミュージシャンたちが次々と音を重ねていった。
高橋幸宏のドラム、後藤次利のベース、斉藤ノブのパーカッション、そしてギター。
そうしてスタジオで音を作り上げていった。
後から聴けば、そこには矢沢永吉のロックとは少し違う、都会的で涼しげな響きがある。
その大きな土台になったのが、坂本龍一のアレンジだった。
そして何より興味深いのは、この時、坂本龍一と高橋幸宏がまだYMOを結成していなかったことだ。
二人は「時間よ止まれ」の録音で一緒に演奏している。
そのわずか後に、細野晴臣を加えた三人がYMOを結成する。
矢沢永吉がコード表だけを渡した。
坂本龍一が9thの響きを加えた。
そこから、あの「時間よ止まれ」の音が生まれた。
そして、そのスタジオにいた坂本龍一と高橋幸宏は、その後、日本の音楽史を変えるYMOを結成していく。
そう考えると、「時間よ止まれ」は単なる矢沢永吉の大ヒット曲ではない。
YMO誕生直前の坂本龍一と高橋幸宏が、すでに同じ音の中にいた――そんな時代の一瞬を記録した曲でもある。




