姉の死 財産放棄の320円
姉の死 財産放棄の320円
ある日突然、一通の手紙が届いた。差出人は司法書士事務所だった。手紙の主は、会ったこともない姉の夫だという。姉は半年前、すでに亡くなっていた。血のつながったきょうだいでありながら一度も顔を合わせたことがなく、その死を知ったのは半年も経ってからだった。夫は長年その姉のマンションに住み続けているらしく、その財産を整理するためにこちらの財産放棄の手続きを求めてきた。
司法書士とのやり取りとわずかな負担
指定された司法書士にメールで連絡をとると、相続放棄の手続きを進めることになった。こちらに求められた負担は小さなものだった。コンビニでの書類の印刷代に二十円、コンビニでの実印の印鑑証明書を取得するのに三百円。あわせて三百二十円の自己負担で、この見ず知らずの親族の相続問題から手を引くための書類が整うという。
見えない縁と淡々とした手続き
顔すら知らず、人生のどこでも交わらなかった姉の死。その遺産相続という法的な手続きのなかで、動いたのは事務的な書類のやり取りと、わずか三百二十円の実費だけだった。血縁という不可視の糸に引かれるようにして、名前だけの姉の終活の片隅に、こうして自分の名前が淡々と刻まれていく。




