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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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真珠の玉のレガリア

『真珠の玉のレガリア』


奈良県の某市。聖なる山々に抱かれたその街に、男は生を受けた。

父は、教科書にも名を連ね、子供たちに愛と誠実を説いた高名な童話作家。

その高潔な父の背中を借りて、いつしか「言葉」を、違ったものにアレンジしていった。


新宿の生命保険会社でエリートの頭角を現した男は、

やがて品川のタワーマンションに居を構え、

フェラーリやランボルギーニといった外車を次々と乗り回すようになる。

その華やかな生活を支えていたのは、彼を信じた顧客や、

かつての友人たちから「特別な運用」と称してむしり取った、

総額二十二億円にのぼる血の資金だった。


男は、自らを「表現者」として演出し、さらなる信頼を勝ち取るための舞台装置を作り上げる。

一千万もの大金を出版社に投じ、東京駅の書店に「偽りのベストセラー」の棚を買い取ったのだ。

その本の内容は、閻魔大王が休暇を楽しむという、

かつての「おもろい芸」を焼き直しただけの物語。

本は売れなかったが、彼は「ベストセラー作家」という肩書きを手に入れ、

それを盾にさらなる金を集めた。


その虚飾は、池袋の劇場へと広がる。

彼は『ホテルゴースト』という舞台をプロデュースし、「制作費はすべて自腹だ」と豪語した。

しかし、その資金もまた、裏切られた知人たちの涙でできていた。

原作すらも、ある原案を有名演出家が脚色しただけの、

借り物の輝きに過ぎなかった。


男の肉体には、その精神性の高い語り口とは裏腹に、

誇示欲の象徴である「真珠」が秘部に埋め込まれていた。


やがて嘘の綻びが隠せなくなると、男はすべてを捨てて日本を去った。

行き先は、逃亡者の楽園・ドバイ。

砂漠の街で、男は今もなお、新たな「物語」を語ろうとしている。


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