表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

668/676

ビートルズのベートベン月光ソナタ

ビートルズのベートベン月光ソナタ


一九六九年の昼下がり。ジョンの耳に、ヨーコがピアノで弾くベートーヴェンの「月光」が流れた。

その厳かな旋律を聴きながら、彼の脳裏に、

かつて自分たちが実験を繰り返した「逆回転バックワード」の幻聴が重なる。


「もし、この『月光』を逆回転させたら、どんな音楽になるだろうか」


その突飛な空想が、すべての始まりだった。ジョンはピアノの前に座り、逆回転させた時に生まれるであろう奇妙な音の連なりを、ギターのコードへと翻訳し始める。

それは既存の音楽理論を無視した、時間の流れに抗うような不敵な試みだった。


スタジオへと持ち込まれたそのアイディアは、ジョン、ポール、ジョージという三人の類まれなる喉によって、さらに異次元のものへと昇華される。彼らが求めたのは、単なる美しい調和ではない。

この世のどこにも存在しない、耳を疑うような未知の音響体験だ。


三人は、精密に計算された三部合唱をマイクに吹き込む。

そして、その録音された自分たちの歌声をヘッドフォンで聴きながら、

さらに同じ旋律を重ね、さらにもう一度。


三×三、すなわち九つの声が重なった九重音。


それはもはや人間の歌声であることを超え、巨大な光の柱が立ち昇るような、

圧倒的で不気味なほどの厚みを持った音の塊へと変貌した。

そこに名編集者マーティンがモーグ・シンセサイザーの波打つような電子音が加わり、

実体のない浮遊感が空間を支配する。


「月光」という古典の残像を逆回転の発想で解体し、

九つの魂を塗り重ねて作り上げたそのサウンドは、

解散を目前にした彼らが最後に辿り着いた、音楽という名の聖域だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ