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冷酷無比な竜王さまに嫁いだら溺愛型だった  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【6】勇気を出して




――――翌朝の食事場所には小さなお膳がひとつ、追加されていた。


「……っ」

襖からひょっこり覗く小さな姿に私たちも思わずほっこりしてしまう。


「氷名くん、こっちにおいで」

お膳の場所は私の隣。私と氷名くんが氷月さまに向かい合う形だ。


「……さゆっ」

とたとたと走り出そうとした時。

「やっ」

不意に氷名くんが転倒する。


「氷名くん!?」

「氷名!」

慌てて駆け寄ろうとした最中、一瞬足が見えたのだ。氷月さまは気付いていないようだが、まさか……蹴ったの?


「氷名さま、あまり急がれるから」

そしてなに食わぬ顔で入ってきた桃羽の姿に戦慄する。まさか桃羽が氷名くんを……?


「何?」

桃羽が余計なことを言うなとばかりに睨んでくる。


「どうした」

「氷月さま……その」

私にもう少し勇気があれば。しかし桃羽の鋭い睨みが実家での辛い日々をフラッシュバックさせてくる。


「顔が青いぞ。やはり休んでいた方が」

「い……いえ、大丈夫です。それよりも氷名くんは」

氷名くんに視線を戻す。


「ああ、怪我はないようだ」

よ……良かった。だが……勝ち誇ったような桃羽の顔が映る。

どうして……どうして私は肝心な時に、いつも……っ。それがもどかしくて、悔しくて。


氷名くんを守ってあげなきゃと思うのに……何も出来ない。


「ごはん!」

その時、ちょいちょいと袖を引っ張ってくる小さな氷名くんにハッとする。あんなことをされたのに氷名くんはこんなにも健気に……。


「そ……そうだね。ごはん、食べようね」

お膳に箸をつける。氷名くんは小さいのにしっかりとお箸を持って賢明に食べている。


「氷名は残さず食べるのだな」

「……っ!」

氷名くんが驚いて氷月さまを見る。


「偉いぞ」

「……っ!!」

氷名くんはハッとして頬を赤らめる。


「うん……っ」

答えた……!


少しずつ、氷名くんが氷月さまと会話をし始めている。これも大切な進歩だ……!


氷名くんが勇気を出して答えているのだ。私も……勇気を出さなくちゃ。

ぐっと拳を握り込む。


「ひ……氷月さま」

「ああ、今朝は楽しい食事だった」

穏やかに笑む氷月さま。

「は……はい」

そんな風に嬉しそうに言われればその笑顔を崩したくなくて言い出せなくなってしまった。


私はまだ……弱虫のままだ。


そうして食事を終えれば氷名くんと一緒に氷月さまを見送る。

「では咲柚、氷名、行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ。氷月さま」

私の様子を見て氷名くんも氷月さまを見上げる。


「……いって、らっしゃぃ……ませ?」

私の真似をしてるようだ。

「氷名くんは行ってらっしゃいだよ」

「……ませ、つけないの?」

その疑問にどうしようかと目を泳がせる。


「咲柚もそれでいい」

「氷月さまっ」

その助け舟にハッとする。


「ええと」

「氷名も咲柚の真似をして」

氷月さまにそう言われてしまったら。


「い、行ってらっしゃい」

勇気を出して、そう告げれば。

「ああ」

氷月さまが優しく微笑む。


「い……って、らっしゃい!」

氷名くんがそれを真似すれば。


「行ってくるよ、氷名」

氷月さまが氷名くんを優しく撫でれば、氷名くんがはにゃりと笑む。その様子に私も氷月さまも頬が蕩けそうになったことは確かだろう。


氷月さまを見送ったその後。手習いに行くと言う氷名くんを桃羽と行かせることには一抹の不安を抱く。


しかし……それを無理矢理止める度胸はなくて。


とぼとぼと書庫に向かう。どうすれば勇気が出せるだろうか。


――――弱虫な自分が嫌になる。


「氷名くんが好きそうな絵本を……」

今日は自分で選びたいと浅黄に打ち明けた。


だけど結局桃羽のことを打ち明けられなかった。それは恐いから?重なるから……?


「だけど……そのせいで氷名くんが……」

やはりもう一度……せめて浅黄には……っ。


意を決して回廊に出る。

その時だった。


「いやあぁぁぁぁっ!やあぁぁ――――っ!」


「……っ!氷名くんの泣き声!」

急いで声のする方に急ぐ。


「煩いわね!静かにしなさいよ!」

桃羽が鬼のような形相で……そこにはいた。


パシン。


え……?一瞬時が止まったかと思った。


桃羽が氷名くんのほっぺをはたいたのだ。


「……あぅ……うぅ……うあぁぁっ」

氷名くんは涙目だ。


「黙りなさい!いいから来なさい!手習いごとに遅れるでしょ!」

「やーぁっ」

「泣くのをやめないとまたぶつわよ!」

い……いけない!私が……私が氷名くんを守らなきゃっ!

臆病な心よりも先に足が動いていた。


「やめて!」

桃羽から引き剥がすように必死に氷名くんを抱き締める。


「あんた……っ、邪魔しに来たの!?」

恐い……怒鳴られるのがどうしようもなく、恐い。


「ほんと目ざわりな女!こんな地味で平凡なのに竜王さまの花嫁ですって……!?」

「……」

桃羽の口撃が心を傷だらけにしていく。


「せっかく竜王さまの宮に仕えられることになったのに、花嫁が家で選ばれるって何なのよ!」

頭に硬い拳がぶつけられる。

「……っ」

痛い……だけど。でも今は守らなきゃ。


「その上竜王さまのお世話じゃなくてそんなガキのお守りをさせられるなんて!」

桃羽の足が私の背中を蹴ってくる。

「ずるい……ずるいずるいずるい!」

まるで夢から襲い掛かってくるかのような恐怖。

だけど負けちゃダメだ。

だって氷名くんはこんな風に蹴られて痛い思いをしたのに……っ。


私に勇気がなかったから。弱虫だったから……また泣かせてしまった。


「私の人生、全然上手くいかない!全部、全部!」

ドンッドンッと背中を蹴られる。


「そのガキのせい!あんたのせい!責任取りなさいよ!」

そんな……無茶苦茶な!


「ほら!何とか言ったらどうなの!?何も言えないの!?あっはっはははっ!ざまぁないわね!」

また……蹴られる!!氷名くんを抱き締めて身構える。


――――しかしいくら待っても衝撃が来ない。


「……?」

どう言うこと?それに何か……寒いような。


「咲柚!氷名!」

そして温かい腕が私たちを包み込んだ。




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