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予約不要の歯医者

歯医者さんって、どこに行っても混んでいる。


歯が痛くなってから電話をかけても

「来週の○曜日の14時なら……」

と平然と言われてしまう。


今が半端なく痛いのです、と訴えようとしても

「予約がいっぱいで……」とやんわり断られる。


結局、痛み止めを飲んで耐える日々だ。


そんな私の耳に、ある噂が入った。


「実は、お暇な歯医者さんが存在するんだよ」


何それ、神様?


半信半疑で調べてみると、どうやら実在はするらしい。

さっそく電話をかけてみた。


「歯が痛くて……」


「それは大変じゃろう。今すぐ来なさい」


即答だった。


多少下手でも構わない。この痛みが引くなら。

私は急いでその歯医者へ向かった。


閑静な団地の一角。

駐車場には車が一台もない。


中に入ると、待合室にも誰もいない。

受付にも、誰もいない。


「あのー、先ほど電話した者ですが……」


声をかけると、奥から若い女性が現れた。


「はーい。保険証出したら中にどうぞ。手続きはしておきますね」


やけにスムーズだ。


診察室には椅子が三つ。

そして、にこやかなおじいちゃん先生。


「好きな席に座ればいいぞ」


入口側に座ろうとすると、


「今日は真ん中の日じゃったが、それでもいいかの」


今日は真ん中の日。


意味はわからないが、逆らってはいけない気がした。


「あ、真ん中に座ります」


「催促してしまったようじゃの〜」ワハハ。


……大丈夫だろうか。


「下の奥歯が痛くて……」


「どれ、口を開けなさい」


トントン、と痛い場所を正確に叩かれた。


「ん゛っ……」


脚をタップして肯定する。


「ふむ。こっちも、こっちも……あら〜、これもか」


増やさないでほしい。


「とりあえず麻酔じゃな」


そこからは普通だった。

ウィーン、ガリガリ。

詰め物も丁寧で、麻酔も痛くない。


……あれ? 意外と腕がいい。


そう思い始めたころだった。


「ついでじゃから次々いくぞい。虫歯はな、一匹見つけたら親戚一同おる」


増やさないでほしい。


気づけば二時間。顎が限界だ。


「む、疲れたか? じゃあ少し休め。わしは昼飯じゃ」


口を半開きのまま置いていかれた。


受付のおねえさんがアンケートを持ってくる。


「先生、腕はいいんですよ。ただ……全部その日に終わらせようとするんです」


「……なぜ?」


「達成感がすごいらしくて」


奥から、


「今日はフルコースじゃー!」


という声が聞こえた。


帰りたい。


17時。


「おお、久々にやり切ったわい」


先生は満足そうに背もたれへ沈んだ。


私は悟った。


この歯医者は、

患者の回転率ではなく、

先生の充実感で営業している。

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