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花とたゆとう ふたたび  作者: 御通由人
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第72章

 花連は立ち上がると、窓のところに行き、カーテンを開いて、外の景色に目を向けたままゆっくりと話し始めた。

「昔、あるところに可愛い少女がいました。お勉強はあまり出来なかったので、三流の高校に入りました。

 彼女はバスケ部のマネージャーになりました。

 一学年上にとてもイケメンで、バスケも上手で女の子にモテモテの素敵な先輩がいました。彼女もその先輩に恋ごころを抱いていました。

 二年生になる前の春休みのことです。先輩に金持ちの人がいて、その人の両親が海外旅行に行っていて留守なので、夜にみんなでその先輩の家に集まることになりました。

 彼女は遅れて行きました。

 中に入って、びっくりしました。

 リビングの大きい部屋に15人くらいいて、みんなが輪に座って、お酒を飲んでいたのです。

 その中には女子も5人いました。

「そんなことはしたらいけない、バレたら大変なことになるよ」と言ったのですが、彼女の言うことなど誰も聞いてくれません。

 彼女も座らされました。

 憧れていた先輩が立って、彼女の横に来ました。

 彼が来てくれるなんて……。嬉しかったです。ドキドキしました。

 それで、先輩にすすめられて、初めてお酒を飲みました。

 ビールは苦いだけで、ちっともおいしくありません。なんでみんなこんなまずいものを喜んで飲むのだろうと思いました」


 花蓮は話を切り、振り向いて、「今は大好きだけどね」

 チラリと舌を出して、悪戯っぽく笑った。

 

 それからまた窓の方を向いた。

「そのうちかなり酔ってきました。すると、先輩が二階に行こうと言うのです。

 腕を引っ張られて、二階に行くと、たくさん部屋がありました。

 そのうちの一つの部屋に無理やり引きずり込まれて、押し倒されて、……されてしまいました。

 それが初めて経験でした。

 痛いだけでした。

 その先輩のことは好きだったので、したいと言ってくれたら、させて上げたのに。

 こんなふうにされて彼女は悲しくなって、泣きました。

 でも、後で聞いたら、ほかにもカップルが出来たそうです。一番カッコいい人が自分の相手で彼女は良かったと思いました。

 それからはその先輩の女ということになって、彼に求められるまま、何度もしました。

 

 いつも気持ちはよくなかったです。

 痛いだけでした。

 でも、彼のことが好きだったので、求められたら拒みませんでした。いつもしました。

 でも、先輩が高校を卒業したら、彼からの連絡はぱたりと来なくなりました。  

 別の女が出来たみたいです。

 彼女は先輩に会いに行きました。

 そしたら「お前としていると、人形を抱いているようで、全然良くない」と言われました。

 その日は一日中泣きました。

 

 高校を卒業すると、昼は小さな会社で事務兼受け付けをしました。夜は居酒屋で働きました。昼も夜も一生懸命働いても、死んだ父親が作った借金はなかなか減りません。

 昼の会社の出入り業者にカッコいいイケメンがいました。精悍な顔をして、細マッチョで、彼女の好きなタイプでした。二人はすぐに恋仲になりました。

 しかし、付き合い出して半年も経たないうちに、彼から別れ話を切り出されました。

 彼女に他に好きな人がいるのだろうと彼は疑ったのです。

 「そんなことない。愛しているのはあなただけよ。どうしてそんなことを言うの?」と聞いたら、「あの最中になんの反応も示さないのは自分を愛していないからだ。他の男のことを思っているからに違いない」と言われました。

 彼女はその時、始めて気づきました。自分が普通でないことを。それが捨てられた原因だということを……。

 彼女は仕事をやめようと思いました。彼と会いたくなかったからです。

 それで、いろんな転職雑誌を見ていたら、ナイトワークを紹介している雑誌がありました。給料は今の会社の五倍以上もありました。彼女は驚きました。

 そういう所は夜しかやっていないと思っていましたが、昼間も働けるところがあるのを知りました。これなら借金も返せるし、弟の学費も出せると思いました。

 それで何軒かに電話し、あるイメクラで働くことにしました」

 

 正夫はずっと訊きたかったが、遠慮して訊けなかったことを思い切って言った。

「彼女は風俗に勤めることには抵抗はなかったのかな?」

「後で思うに、あの頃は自暴自棄になっていたのね。それに、普通ではない自分の身体をめちゃくちゃにしてやりたい。自分の身体に復讐してやりたい。そんな気持ちがあったので、風俗に勤めることはむしろ好都合だとさえ思ったの」

「どうして、彼女はあの店にしたんだい?」

 正夫がまた口を挟むと、花蓮はしゃべるのをやめて、こちらを向いた。

「彼女は感じないので、身体を触らせることは平気でしたが、男の人のものが入ってくることは恐くなっていました。感じなくて、捨てられた経験が二度あるから、それがトラウマになっていました。だから、本番をしないで済むところにしました。あとは……」

 そう言うと大きく溜息をついた。

「あのね、川村さんにはわからないでしょうけど、密室で知らない男の人と会うのはすごい恐怖なんです。紳士だと思っていた人がプレイし始めたら豹変して暴力的になったり、大企業のお偉いさんが変な性癖があったり。

 デり……デリバリーヘルスのことね。わかるでしょ?女の子が家やホテルに行くやつ。

 そっちの方が給料は高くて、高級デリなんかになったらすっごく貰えるけど、家やホテルに行くなんて怖すぎる。何をされるかわからないから。

 ビジネスホテルみたいなところで女の人が殺されてるニュースを時々見るけど、あれはきっとデリヘル嬢だよ。……美鈴さんもそうだったし……」

 花蓮は涙声になった。

 

 正夫は慌てて、話題を変えようとした。

「ヘルスなんて、いっぱいあるじゃない。なぜ、あの店にしたんだい?」

 彼女は涙を拭って、ぎごちなく笑い顔を作った。

「えっと、どこまで話したっけ?」

「デリヘルはNGのところまで」

「そうそう。だから、店舗型のヘルスにしました。あの店に決めたのは電話の感じが良かったから。面接に行くと、社長も店長も普通の人で、なんかやばくないっていうか……」

「うん、分かる。あの店長は感じがいいよな。腰が低くって。あんなところに勤めている人はもっと柄の悪い人だと思っていたけど、普通の営業マンという感じで全然違っていた」

「そうでしょ、感じいい人でしょ。でも、怒ったら、こわいのよ」

「それでなくちゃ、あんな仕事は出来ないよ。変な客も来るだろうから。前から思っていたんだけど、あの店長、芸人のHに似ていないか?」

「うん。似てる。似てる。上手いこと言うね。あ、もう茶々入れないで、お話の途中なんだから。えーと、どこまで話したっけ」

「彼女がイメクラで勤めを始めるまでだけど。……男のものが恐いって言ったけど、触ったりすることには抵抗がなかったのかい?」

「うーん、最初はそれもすっごく嫌だったんだけど、段々慣れてきたっていうか、なんか可愛くなってきた」

 彼女はチラリと舌を出した。

「私、自分が尽くしてお客さんが悦ぶことに喜びを感じる質だなって分かったの。性に合っていたっていうのかしら。あっという間に七年が経ちました。あら、どうして、私って言ってるんだろう。彼女のお話をしていたのに。……もう、いやだわ。ここでちょっと休憩。お腹が減ってきちゃった。ディナーの時間はまだなの?」

「そうだな。予約時間までまだ少しあるけど、そろそろ行こうか?」

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