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第16章 閑話その二
正夫の課によく遊んでいると評判の部下がいる。
三十半ばで、よく喋り、社交的で、精力的で、公務員よりも営業マンになった方がよかったのではないかといった男だ。
遊び好きで、浮気がばれて、奥さんが子どもを連れて実家に帰ったことは一度や二度ではないという噂を聞いたことがある。
その日、彼は同僚を飲みに誘っては次々と断られていた。
「つきあいの悪い奴だな」と不満そうな男に、同僚は「お前もたまには早く家に帰って、家族サービスしろよ」と言い返している。
その時、正夫はふと興味を覚えた。
「よかったら、私がご一緒しようか?」
「え?課長がですか?」
それを聞いた周りの連中が一斉に目を丸くしているのがわかった。
こいつらみんな俺のことを石部金吉のように思っていやがる。正夫は苦笑した。
「家内と娘が旅行に行っていて、今日は家に帰っても誰もいないんだよ。一人で飯を喰っても旨くないし、それで一緒に行こうかと思ったんだが」
「ああ、そうですか。しかし、課長に付き合って頂くのは、恐れ多くって」
部下は逃げ腰である。
「何言ってるんだ。たまにはいいじゃないか。私が奢るから」
「え、そうなんですか。分かりました。そういうことなら、ご一緒させて頂きます」
ちゃっかりしてやがる。




