54 <酒場での打ち上げ>
「おぉ! 姉ちゃん見ない顔なのに、もう大物を仕留めたのか!」
「うん、危なかったけどねー。いい人がいてさ! 危ないところを助けてくれたんだ!」
「ほう! それはまた物好きなヤツがいるもんだな!」
ギルドの中に入ると早々に声がかかる。
アリシアは人当たりがいいからか、いつもの顔馴染みの面子がいろいろと話しかけている。
騒がしい集団の横を通り抜け、素材売却の窓口へ向かう。
二人で分けた素材は多くないけど、質がいい分半月分の食費にはなる。
受け取った小金貨数枚を収納へ仕舞い、ギルドに併設している居酒屋へと足を運ぶ。
「あ、シャロだ!」
「なんだ、ボッチシャロじゃねぇか」
「ボッチ言うな。一人が好きなだけ」
「ボッチじゃねぇか」
「うっさい」
文句を言いながら部屋の片隅にある、いつもの席に座る。
近くの店員を捕まえ、エールを頼む。
椅子に深く座り、一息つく。
普段と同じ光景ではあるが、今日は目の前に違う人物が来た。
「シャロ~、今日はありがとうね。あらためてお礼を言わせて」
「別にいいよ。ただの気まぐれだし」
「ご一緒していい? いろいろ話を聞かせて」
「やだ」
めんどくさい。
一人にしてほしい。
「今日ご馳走するから」
拝むように手を合わせ頼み込んできた。
「……仕方がないなぁ。今日だけだよ」
盛大にため息をつきながら答える。
「やった!」
「おいおい……現金すぎるだろ」
「うっさい」
横で二人のやり取りを見守っていた男からそんな声がかかる。
いつものギルドにいつもの顔ぶれ。
この一仕事を終えたあとの時間が私は好きだ。
一日が終わり、気を抜ける瞬間でもある。
そんなことを考えていると二人の前に木のコップが置かれる。
「それでは二人の出会いに――」
余計なことを言うアリシアに睨みをきかせる。
「……依頼達成に、乾杯!」
コツン、と軽い音がなる。
一口、二口と喉を潤すように流し込む。
「「ぷはーっ!」」
「いやーっ、仕事のあとの一杯は格別だねー」
「さっきの依頼達成って、依頼受けていたの?」
「ん? あー、今日討伐したあれね。おかげで助かったよ」
すっと右手を差し出す。
「……え?」
「私の取り分は?」
「あ、あははー……えっと」
「冗談だよ。ここ、払ってくれたらいいや」
「もー、人が悪いなー」
頭をかきながらバツの悪そうな顔をしているアリシアをみて思わず笑みがこぼれる。
「……やっと笑ったね」
「え?」
エールを一口飲み、聞き返す。
「全然笑わないんだもん。ずっと怒っているのかと思っちゃった」
「そんなことはない。変な物を拾っちゃったな、っていう後悔はしているけど」
「人を物扱いすんな」
二人して声を出して笑う。
「ところでシャロってさ」
「ん?」
「笑うとき目が笑っていないのね。怖いよ」
「うっさいわ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お酒も進み、テーブルの上には空の皿が積みあがっていく。
「しっかし、シャロのやつが人助けね。シャロと言えば人に関心なんて示さず、パーティーも組まない、関わらない、助けない、の三拍子なのにな」
隣の席の冒険者……いつもの顔ぶれだけど、名前は忘れた。
「何よそれ……。関わらないのは別としても、好きで見捨てているわけじゃないよ。状況判断。戦況と私が加勢したときの勝率、メリットデメリット全て比較検討した上での判断。大体が全滅寸前だとか、軍隊クラスでなければ対応できない災害級の魔物だとか、そんなのばっかりだから。そんなのにいちいち首を突っ込んでいたら命がいくつあっても足りないよ」
今日は少し飲みすぎたか。普段と違って口数が多い。
ふと、周りを見るとみんな楽しそうにしている。
……ま、たまにはいいか。
「まったくだ、言っていることは正論だし、みんなもそうするのが当然さ。ただ言い方ひとつで反感を買っているのが残念だな!」
「うっさい、死ね」
余計だよ。
「「「わっはっはっは」」」
みんな一斉に笑い出す。
まったく、人をなんだと思っているんだか。
「それなのに、今回割り込んだのは勝率高かったからか?」
「割り込んだって言い方……ま、そんなとこね」
普段の私なら見捨てていただろう。
結果的に成功したけど、Bランクの魔物を二人で相手するとか自殺行為でしかない。
「え、でも結構じり貧だったよ。あのままじゃきっと押されきられていたし」
「……ただの気まぐれだよ」
そう、ただの気まぐれだ。
「お、なんだ? 惚れたのか?」
収納からナイフを一本取り出しそのまま投げる。
「死ね!」
またみんな一斉に笑い出す。
ナイフを投げられた冒険者も難なく避けている。
それぐらいできなければこの世の中すぐに死ぬ。
生き残っているということはそれだけ実力があるってことなんだから。
「相変わらずシャロは気が短いな。少しは姉ちゃんを見習えよな」
「え? え!? 私!?」
急に振られたアリシアはわたわたと動揺している。
はぁ、まったく。
気を取り直しエールの入ったコップに口をつける。
普段は一人大人しく飲んでいるんだけど、たまには、こういうのも悪くないかな。
そんなこんなで夜は更けていく。




