53 <テスヴァリルでの生活>
また夢か。
あれはいつだっただろうか。
ギルドに登録してから早数年。
ギルドランクも着々と上げていき、生活にも多少ゆとりが出てきたある日のこと。
いつものとおり昼頃に起きだした私は余り物の依頼を受け森の中を進んでいた。
「……戦闘音?」
遠くで金属がぶつかる音と魔法が着弾したような音が森の奥から聞こえてくる。
「……どうするかな」
激しい戦闘音を聞く限り、その辺に出てくるような雑魚レベルではなく、恐らく上位の魔物だろう。
どうなるかわからないけど、状況だけは確認しておいた方がいいか。
もしかしたら自分の狙っている獲物かもしれないし。
そう自分に言い聞かせ足を進める。
見通しが悪い森の中で幸いしたか、気づかれることもなく、かなり近づくことができた。
戦っているのは剣士と、魔法使い……は、いま戦闘不能になったか。
魔物は蜥蜴竜という強靭な肉体と硬質の皮膚を持つ二足歩行型の魔物であった。
討伐ランクは確かBだったはず。
Bランク以上のパーティーであれば余裕なはずだけど……。
少し様子を見ていると状況は芳しくないようだった。
さっきの魔法使いも重い一撃をくらっていたため、身体があられもない方向に曲がっている。
他の……二人も、まったく動きがないことから、事切れているのだろう。
さて、どうしたものか。あの魔物は一人じゃ荷が重い。
いま戦っている剣士がどの程度のランクかわからないけど、わざわざ助けに入る理由がない。
私がこの場に居合わせたのはただの偶然。
死に瀕している人間を全員助けることなんて出来ない。
同じように壊滅寸前のパーティーを見てきたこともある。
その大部分は加勢したところで持つようなものでもなかったし、全滅したのであればその程度の実力しかなかったことになるだろう。
そのまま数十秒と様子を見る。
剣士は善戦している。
Bランク魔物に一人であそこまで戦えるのであれば本人はBランク以上なんだろう。
ただ、相手の動きが素早く、思ったように攻撃が通らないようであった。
リスクと勝率を天秤にかけ考える。
動きさえ封じてしまえば、いけるか。
あの剣士に恩を売っておくのもいいだろう。
……そろそろ懐が寂しくなってきたというのは内緒だ。
そう思い立ったらすぐ行動に移す。
剣士が一撃を放ったあとに一旦距離を取る。
その瞬間に両手をクロスさせるようナイフを投げる。
二本のナイフは相手に突き刺さるが、傷は浅くほとんど出血もしないものだった。
それでも新たな敵の登場に一瞬その動きが止まる。
その隙を見逃すことなく、瞬時に距離を詰め、斬りかかる。
ただ、その体躯から想像できない素早さで、その刃は長く伸びた爪で受け止められた。
「加勢するよ」
そう一言つぶやき、次の攻撃に移る。
「っ! 恩に着る!」
スケイルザードンが腕を振り下ろし、強烈な一撃が目の前に迫る。
「転移」
振り下ろされた腕をすり抜け、脇腹から横に向け風槌を放つ。
「グォオオオッ!!」
スケイルザードンは横に滑りながらも踏ん張り耐える。
「炎弾」
バランスの崩したところに追い打ちをかける。
顔面直撃だけど対してダメージを与えられていない気がする。
大きく首を振り、炎上していた頭を消火する。
わずかとはいえ防御が疎かになった瞬間――、
「えぇーーいっ!!」
さっきの剣士が掛け声とともにスケイルザードンの足を切り飛ばす。
「おぉ」
ついつい感嘆の声が漏れる。
片足を失ったスケイルザードンは立つこともままならず、バランスを崩し倒れる。
「鎌風」
風の刃がスケイルザードンの視力を奪いにかかる。
「グオォォォッッ!!」
両目の視力を失ったスケイルザードンは両腕を無茶苦茶に振り回しながら暴れる。
「ナイス! いっくよー!!」
一振りで腕を飛ばし、返す刃で首を跳ねる。
「……お見事」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー助かったよ。ありがとう。あなた強いね」
剣の血を拭き、鞘に納めながら剣士が歩み寄ってくる。
ブルーのショートカットに活発そうなイメージを抱きつつ話を続ける剣士。
「うちのパーティーは全滅しちゃったね。剣士と槍使いと魔法使い、あと私。バランスのいいパーティーだと思ったんだけどね。物陰から強襲されて、一人の剣士がやられてからあとは早かったよ」
周囲を見渡すと辛うじて人だとわかるが、原型を留めていない死体があった。
「血の臭いにつられて他の魔物が来るかもしれないから、とりあえず素材だけ切り取ってこの場を離れようか」
「ん? 彼らはいいの?」
「あぁ、うん、今回限りの即席パーティーだったしね。それにひどいんだよ。みんな私を囮に逃げようとしてさ。でもまぁ、こういう時って、逃げる人からやられちゃうのがセオリーだよね。結局残ったのは私だけになっちゃった。あ、一応ギルドカードだけ持って行ってあげようか。ギルドから僅かだけど謝礼が出るしね」
「……よく喋るね」
「あぁ、つい嬉しくってさ。状況は劣勢の最悪、一撃必殺にかける女一人だけの戦い、誰がどう見ても避けたくなる戦闘に、颯爽と現れ危機を救う剣士、憧れるよね! 惚れるよね!」
お、おう?
「いやー、ときめいちゃった」
うっとりと、明後日の方向を見ながらこぼれ落ちた一言。
「…………」
スッと、一歩後退る。
「あああ! 冗談だから! いや、感謝しているのは本当だけど、変な意味とかじゃないから!」
ジトー、っとした疑念の目を向ける。
「あはは……。あ、素材は全部上げるよ。私は命あっただけで儲けものだから」
「いいの?」
「うん、大丈夫」
「でも、さすがにこれだけの量は一人で運べないから必要量以外は置いていくよ」
「あー、まぁ確かにそうだね。じゃあ余り物だけ貰おうかな」
二人して必要部材について切り取る。
希少価値が高く、あまり嵩張らず重くない、牙、眼、爪、などなど。
「感謝のついでに教えてくれる?」
手を動かしながら隣にいる彼女へ話しかける。
「ん? 答えられるものであればいいよ」
「あなたスキル持ち?」
「あー、まぁ戦っていたらわかるよねー。そうだね剣のスキルを持っているよ。魔法もちょっとしたものなら使える」
スキル持っているのに魔法も使えるのか。
「ついでにあなたのことも教えてくれないかな」
「シャロット」
「え?」
「名前、シャロでいい」
「あ、うんシャロ、よろしくね。私はアリシア、まんまアリシアでいいよ。で、シャロの武器は短剣? 動きが見えなかったよ。シャロもスキル持ち?」
そりゃ、転移で瞬間的に移動しているからね。
「私はスキルを持っていない。ただの魔術師」
「魔術師? 前衛じゃないの? 敵に突貫していくのに?」
「魔術師だよ、遠距離攻撃が苦手なだけなの」
「前衛特化型の魔術師って理解できない」
「細かいことは気にしないの」
「細かくはないと思うんだけど……」
そう言いながらも魔物から素材を剥ぎ取り続ける。




